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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第8章

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746.正義の鉄槌

「〝アルマダ騎士団〟じゃあ、戦争は必至みたいな見解だった。ルセーナとか〝アサシン〟は長期的で平和的な作戦のもと動いてるけど……騎士団上層部はそうじゃない。だから、〝元帥〟が必要だった……?」

 リーウがうまくまとめて〝リンク・イヤリング〟に通すと、リリィから肯定の言葉が返ってきた。


〈大方、その通りと思いますわ。〝アルマダ騎士団〟……正確にいえば、〝カール哨戒基地〟の幹部クラスとしては、アベジャネーダと事を構える気でいるのでしょう。三百年の戦争に終止符を打つために。しかし……〉

 その続きを、流れを汲み取ったシスが引き取る。

「〝アルマダ騎士団〟は〝聖母教〟を母体とする宗教騎士団。国防のための戦いならばともかく、侵略を目的とした戦争は否定しなければならない立場にあります。だからこそ、何か口実が必要であり……戦争の口火を〝元帥〟に切らせる、という形になりますね。きっかけは〝アサシン〟たちが作れますし」


 この流れを〝教国〟ベルナンドの誰が作ったにせよ、〝聖母教〟総本山とは思えないほどに腹の黒い話である。

 要は、他人に手を汚させる、ということなのだから。三百年にわたる因縁に決着をつけるためとはいえ……。

 しかし、キラも流石にそんなことは口にせず、ふと沸いた疑問を投げかけた。


「でもさ、矛盾してるよね。というか……なんか、焦ってる?」

〈わたくしも、〝アサシン〟関連の話を聞いて疑問に思いましたわ。そもそも、口実となる〝元帥〟が居るのは、今回の任務あってことですし……〉

 キラは、そしておそらくリリィも、自然とシスを意識していた。黒髪青目の青年は、待っていたかのようにコクリと頷く。


「まあ……。〝元帥〟がいるから推し進めた……と言えるでしょうね」

〈逆であったと? 戦争を仕掛けるから〝元帥〟が必要なのではなく、〝元帥〟がいるから戦争を仕掛ける?〉

「一週間ほど前、アベジャネーダ国内全体にエマール家からの告知が渡りましてね。なんでも、〝ガリア大陸遠征計画〟とやらが始まるのだとか」

〈ガリア大陸……? キラが接触した〝勇者〟たち曰く、〝加護〟とやらを得るために戦争を繰り返している大陸でしょう? そんな危険な場所に、一体何の目的で?〉

「公示人は『〝悪魔〟に正義の鉄槌を下す』だとか触れ回ってましたが……。〝イエロウ派〟……その中でも過激な方達にとって耳障りのいい言い方しかしなかったので、詳細はなんとも」


 こういう時にはエルトとの雑談が役に立つのだが、相変わらず表に出てこようとはしない。

 キラは腕を組んでうんうんと唸り……そこで思い至るものがあった。それはリリィも同じらしく……。


〈……。エマールには〝宿願〟とやらがありましたわよね〉

「それ、僕も思った。約千年前の宿願を果たす……だっけ?」

〈キラも覚えてましたのね〉

 リーウが素早く言葉を渡し、リリィが嬉しそうに声を弾ませる。

〈その〝宿願〟とやらが、『〝悪魔〟に正義の鉄槌を下す』……と解釈して問題ないのでしょうね。エマールの思想のもと、アベジャネーダが動いているといっても過言ではないのですから〉

「ただの〝悪魔〟じゃあないことも確定してるね。千年も忘れずにいるって、相当だよ。きっと、そのためにアベジャネーダだって建国されたんだろうし」

〈〝授かりし者〟は〝神力〟を有していますから……もしや、〝神〟?〉


 理論的にはおかしくないものの、微妙な空気が流れた。

 流れで口にしたリリィ自身も、聞き手に徹していたシスも、書記と通訳とで忙しいリーウも、突拍子も無い結論に苦笑いが漏れる。


「本当にエマールらが向かった先にいらしたとして……。なぜ神様が〝悪魔〟なんです?」

〈わ、わたくしだっておかしいとは思いますが……。〝イエロウ派〟は〝神力〟を恨んでいるようなもの。なれば、その〝力〟の大元である〝神〟をそう見てもおかしくありませんわよ。そういうシスはどう考えているのです?〉

「お言葉ですが、リリィ様……ガリア大陸にも〝聖地〟が一つ存在することをお忘れでは?」

〈あ……〉

「〝聖地〟を守る門番〝使徒〟……〝授かりし者〟たちの中でも極めて強い〝力〟を持つ者。彼らこそが、〝イエロウ派〟における〝悪魔〟にふさわしいのでは?」

〈わ、わかってますわよ、それくらいっ〉

 珍しく恥ずかしそうに甲高く叫ぶリリィに、キラは思わず笑ってしまった。隣のリリィ・オタクなリーウは何やら悶絶している。


「なんだってあんな化け物クラスを相手にできると思ってるんだか……」

「……? キラさん、妙な言い方をしますね? まるで〝使徒〟と会ったことがあるかのようですが」

「あー……。あー……。て、帝国でちょっと色々あってね」

 そのどもった言い方に、シスよりもリーウが反応していた。怪しむのでも、疑うのでもなく、ただ平坦にジッと見つめてくる。

 だが、結局何もいうことはなかった。リリィに伝えるということもしない。

 一連の反応にシスも何かを感じ取ったのか、それ以上言及することはなかった。


「エマールにも勝算はあるんだろうけどさ。ロキとかガイアとかいるわけだし。けど……ほんと、よく遠征なんてできるよね。何か奥の手でもあんのかな?」

「それもですし……。気がかりなのは、なぜわざわざガリア大陸の〝聖地〟を指定したのでしょうか? 〝悪魔〟の親玉をというのであれば、アベジャネーダの西に一つ、遠くはありますが北西にももう一つ、〝聖地〟がありますが……」

 二つの疑問に対し、リリィが推論を述べる。


〈〝使徒〟へ進軍をかけるだなんて、わたくしたち〝竜ノ騎士団〟でさえ考えもしませんわ。なにせ、〝南の大国〟ルイシースですら、一人の〝使徒〟に軍が敗走したのですから。にも関わらず計画を進めているということは……何か奥の手があるのでしょう〉

「奥の手……。なんだろ?」

〈わかりませんが……。千年間も待ち続けた〝宿願〟です。代々引き継がれるものがあってもおかしくはありません〉

「んー……。そもそもさ。その奥の手で〝使徒〟を何とかできたとして……。何がしたいんだろ? シスも言った通り、〝イエロウ派〟が正義を示すだけなら、どこの〝聖地〟でもいいわけじゃん」

〈それこそ、その〝聖地〟に正義を示すだけの何かがある、ということになりますわね。何が眠っているのかは……シスの働きに期待しましょう〉

 そうやって指名されたシスは、しかし騒ぐようなことはなかった。諦めたように肩を落としている。

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