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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第8章

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745.転々

「――で、シスは頭にきたの?」

「まあ、僕もヴァンパイアなんで他人事とまでは言いませんけど……。それで我を見失うということはありませんよ。でもローランさんが……」

「〝平和の味方〟が……キレたの?」

「彼がアベジャネーダ出身ということはご存知で?」

「ラグーナさんからそれとなく聞いたよ。それが?」


「詳しくは聞けませんでしたが、どうやら過去に〝授かりし者〟と何かあったらしく……。それが〝イエロウ派〟から離れる大きな要因になったようなんです」

「ルセーナから散々宗教関係について聞いたけど……。それってかなりのことじゃない?」

「ええ。『信仰を捨てた』とはっきり言葉にもしましたからね。――ともかく、〝授かりし者〟が一様に〝悪魔〟だと迫害されているのがどうしても許せなかったようで。演説に突っ込んでいってしまったんです」

「あー……。一悶着。で……?」


「まあ……僕としては止めざるを得ませんよね。何せ、ローランさんはユニークヒューマン。僕は直接は目にしたことありませんけど、キラさんは知ってるでしょう?」

「うん……。〝魔剣術〟を真っ向から受け止めてた……」

「僕も話には聞いていました。〝授かりし者〟ではないかとすら思いましたよ――で、案の定、過激派の方々にも目をつけられまして。すったもんだのすえナイフを取り出して刺すもんですから、僕もあっと言いましたよ」

「ん……。じゃあ、明らかにシスのせいってわけでも……」


「……」

「……。まさか?」

「うっかり……。というか……。僕としては、ですね? エマールの身柄を確保したいもんですから、何がなんでもパサモンテ城へ潜入するきっかけが欲しかったわけですよ。一人二人さらってお話を聞いて……ってことを考えたんです。街中の目立つところで堂々とあんな演説を堂々とするんですから、何か伝手でもあるのではないかと踏んだんです」

「……やり過ぎたんだ」


「誓って言いますが、ちょっと小突いただけですよ! ですが相手はカッとなってナイフを出すような人間……刺激に弱いらしくって。逆上して突っかかってくるもんですから、こう、とっさに手が」

「まあ、僕も似たようなことにはなっただろうけど……。それで?」

「そうはいっても、僕だって諜報員ですからね。身の振り方には気をつけてますよ。〝不可視の魔法〟でちょっとした騒ぎを起こして、その隙に離れました。ただ、この事態を目撃していた方々がいまして……それが〝市民軍〟だったんですよ」

「ああ、それでリーダーに?」


「〝アサシン〟が密かにバックについているとはいえ、〝市民軍〟には力がありませんからね。〝イエロウ派〟の過激的な思想にも臆せず反抗する姿が魅力的に映ったようでして。ただ、その時点では〝市民軍〟に入るだけだったんですが……」

「ですが?」

「何度も言いますけど、僕は竜ノ騎士団の人間としてやってきたわけでして……。〝アサシン〟なんて別組織があるとはつゆとも知らず……。口車に乗せられて、リーダーに祭り上げられ……」

「今に至る、ね。〝アサシン〟にしてやられたわけだ」


「僕も後々気づきまして。で、本部と連絡をとって、〝アサシン〟としての活動を始めた……という流れなんです」

「ギリ……ギリ……アウト」

「ええ? セーフではなく?」

「たぶん……。ローランがいなくても、自分で何か騒ぎ起こしてたでしょ? 潜入のとっかかりを掴むために」

「……わかります?」

「とりあえず……。リリィたちと話そうか」




〈エマ曰く、〝幅〟とやらを増やしたらしいですわ。ただ、緊急的な措置のようで……わたくしにはキラの声は聞こえませんのよ〉

 不思議な感覚だった。キラの頭の中でも、リリィの美しい声が広がる。

 それもこれも、〝リンク・イヤリング〟のおかげ。

 リーウが黄金色のチャームに指を置くのと同じように、リーウの肩に手を置いておくと、一方的ではあるものの遠距離での会話も可能となる。

 その感覚は、エルトやユニィとの〝覇術〟での会話に酷似している。

 うまくすると〝声〟で〝リンク・イヤリング〟に呼応できるかもしれないが……やめておいた。エルトの存在がどう転ぶか未知数。何より、彼女がそれを望まない。


「しかし、大幅に活用法が広がったのは事実です。さすがは〝鬼才〟ですね。そして即実用化に導いたリリィ様にも感謝しなければ」

〈シス……。言っておきますが、先ほどの失態をなかったことにはできませんわよ。結果的にうまく転んでいるから良いものの……。事を急ぎ過ぎです。近道を求めることが成否の鍵を握るわけではありません〉

「ぐ……。ごもっとも。反省しております……」


 シスがしゅんとして謝る一方で、リーウはその姿に笑うこともできないでいる。

 〝専属秘書〟としての役割が、今この瞬間に集約しているのだ。

 内容を書き取るだけでなく、〝リンク・イヤリング〟で正確で素早く会話を繋げねばならない。聞き役に徹しつつも、話し手としても頭を使わねばならない。

 見ているだけで滅入りそうなほどに忙しい役割である。

 とはいえ、シスもいる。そのぶんだけ負担は分散されるはずだが……リーウとしてはリリィにいいところを見せたいらしい。


「リリィ様。今一度、〝カール哨戒基地〟での会議内容を振り返りたいのですが……」

〈シスもいることですし……そうですわね。キラも、きちんと、聞くように〉

 まるで頭の中を覗かれたかのような言い方に、キラはリリィ本人がいるわけでもないのに、愛想笑いをしていた。

 基地での会議は、それまでの道中気を張っていたということもあって、終始うとうととしていたのだ。


〈とは言っても、シスは〝アサシン〟のようですし? 大体のことは耳にしているでしょう〉

「うう……。ご勘弁を……」

〈というのも……。基地で行ったのは〝アルマダ騎士団〟との合同会議。有事の際の取り決めをしましたのよ。わたくしたち〝竜ノ騎士団〟がいつも通りに行動できるように〉

「確かに、今回は国を跨いでの任務ですからね。僕らはエグバート王国、依頼元は〝教国〟ベルナンド、居るのはアベジャネーダ。アベジャネーダの意思はないにしろ、面倒には変わりないです」

〈結論としては、現場にいる〝元帥〟の判断により、竜ノ騎士団の活動の制限を解除することになりました〉

「ほう……なるほど? なるほど……。それは……リリィ様は、どう解釈しますか?」

〈〝教国〟の腹のうちはともかく……。〝元帥〟の号令を〝教国〟側が必要としていた……この事実に注目すべきと思いますわね〉


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