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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第1章

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76.特別訓練


  ○   ○   ○


 ”王都奪還戦線”が見事完遂され、竜ノ騎士団や王国騎士軍やサーベラス騎士団の面々を始めとし、王都が湧く中……。

 一つの情報が、人々を震撼させた。


 一人の少年が帝都へ乗り込み、国を屈服させたのである。


 嘘のように突拍子もない話に、誰もが驚き、沸き立ち……そのうち一人は「わしの活躍が霞む……!」と悔しがっていた。

 王都が救われたその時、帝都で何が起こっていたのか?

 発端は、これより四日前――キラが”雷の神力”を引き出し始めた時まで遡る。




「まだ振り回されてんじゃねえかッ。んなんじゃあ、ブラックにゃいつまで経ってもボロ負けするぞ!」

 ”雷の神力”習得に向けて修行を開始し、すでに四十時間以上が経過していた。

 起きている時は”雷の神力”を、寝ているときにはブラックと”夢の中”での模擬戦。食事以外、すべての時間を戦いに費やしていた。

「く、ふぅ……! まだ、まだ!」


 キラの体質は、いわば『雷をエネルギーへと変換する』ものだった。雲があればあるだけ雷を吸収し、体内で”雷の神力”のエネルギーとしてため込む。

 だからこそ、溜まったものが溢れてしまうこともあれば、溢れたエネルギーが無作為に雷を呼び寄せることもある。


 レオナルドの考案した修行方法は、これを利用したものだった。

 つまるところ、わざと”雷の神力”を暴走させるのだ。

 エネルギー源となる”雷”には魔法によるものも含まれ、これを直接身体に受けることで、体内にエネルギーを貯めていく。この蓄積方法自体は、”雷の魔法”をほとんど無力化することもあって、取り立てて苦しくはないのだが……。


 問題はその次の段階からだった。

 暴走する”雷の神力”を、コントロールしなければならないのだ。

 最初の十時間は、どうにもできずにただ発散するだけに終わっていた。

 しかし、回数を重ねるごとに、制御のできるギリギリを計れるようになった。

心臓の鼓動する強弱、発作の度合い、身体の中に宿る違和感の強さ……これらすべてでため込んだエネルギーの総量を把握し、自分が扱いきれる限界まで絞って、”雷”を放出する。

 四苦八苦しながらも、安定して放てるようになるまで、約十五時間。


 そして、現在。

 ”放出”度合いの調整に、絶賛苦戦中だった。

「ほれ、もう一回!」

「くッ……!」


 レオナルドの掌から雷が撃たれ、キラは目をつぶって直撃する。

 少しの衝撃があるだけで、特に痛みも違和感もない。どころか、どこか心地の良い感覚が胸の中へすぅっと入っていく。

 その爽やかな感覚が終わった途端、ドグンッ、と心臓が蠢き出す。


 慣れはしたものの、やはり嫌な感覚にキラは目を細め、ぐっと右手を突き出した。

 バキバキに込めていた力を、ふと緩める。すると、あっという間に”雷の神力”が右腕を伝って、前方へ飛び出していく。

 その勢いと威力たるや。

 レオナルドでさえも『真正面からは受けたくない』と首をふるほど、蛇のように突進する”雷”は太く、ゴツく、疾かった。


 そのまま真っすぐに突っ込んでいく――と思いきや、瞬間的に、思い出したようにぐにゃりと方向転換を始める。

 長方形の”特別な訓練室”を、縦横無尽に駆け巡る。床を這って蛇行したかと思えば、直角に天井へ向かい、その場で旋回。

 さながらおとぎ話の”龍”が如く暴れまわり、最終的に食らいつくかのように床へ突撃し……衝撃波をちらして霧散する。


「ハァ、ハァ……!」

 キラは息を切らし、爆発にも似た突風に押され、尻餅をついた。

「ま、だいぶ進歩した方ではあるな。前方へ限定できるだけ、及第点といったとこか」

「じゃあ……?」

「次のステップ……といいたいとこだが、そろそろタイムアップだろうな。オレの予想が正しけりゃ、三日あるいは四日後くらいには、王都で何らかの動きがあるはずだ」

「ならすぐに動かないと。――あれ、これからどうするんだっけ?」

 可笑しそうにクツクツと笑い声を漏らすレオナルドが、キラの目の前で腕を組んで立つ。


「それは後で飯を食いながらゆっくりと話すさ。煮え切らない形だが、とりあえず修行はこれで区切り……。ただ、その前にもう一つ」

 彼女は、暖かそうな毛皮のロングコートに身を包みながらも、頭に麻袋をかぶるという、傍から見れば奇行そのものを体現していた。


 長脚な彼女の足元には、”使い魔”である石造りの狛犬がちょこんと座している。

 へっへっへっ、と舌を垂らして愛らしく呼吸を繰り返し……そこで、思い立ったかのように立ち上がる。

 ちょこちょこ近寄ってきたかと思うと、頭を振るってくしゃみをしだした。

 頭が取れるのではないかという勢いの連続に心配していると、なにやら狛犬の口からポロンと出てきた。


「あ……”お守り”」

 狛犬に預けていたのをすっかりと忘れていた。

 地面に転がるポーチを手に取り、その中身を確認する。

 いつ見ても不思議な黒さと手触りのある小さな”旧世界の遺物”……その表面には見覚えのない凹みができていた。


「ん……? あ! 飲み込んだときの”バキッ”て音! やっぱり!」

 キラがパッとレオナルドを見ると、彼女は珍しくも動揺を隠しきれなかった。

 わずかに半歩引き、ぷるぷると麻袋に包まれた頭を振る。

「オ、オレのせいじゃないだろ! だいたい、〝旧世界の遺物〟が壊れるだなんて、聞いたこともないっての!」

「……まあ、別に壊れた感じじゃないからいいけどさ」


「だろ? ――こいつには雷の魔法を充てて溜め込んでおいたから、いざってときに使うと良い」

「使う……?」

「今までこいつは、お前さんにとっては本当の意味で”お守り”だった。本来はお前さんに蓄積されるはずのエネルギーを、こいつが肩代わりしていた。……ってとこまでは、覚えてるよな?」

「うん」


「多分、この”お守り”は蓄積って役目だけじゃなく、ためきれなくなったぶんの放出もしていたんだろう。こいつがどれだけ雷を貯められるかは測りかねるが……ランディのやつが逝ったとき、お前さんが”雷”を暴走させたのを考える限り、無限に雷を貯められるわけじゃないってことは確かだ」

「あ……そっか。”お守り”が全部吸収してくれてたら、僕もあのとき……」

「そう。だが今は雷を貯めるときた。ってことは、蓄積分が無くなったあるいは減ったから、また貯めることが出来る。それすなわち、どこかで雷を放出したってことで……お前さんがそれを受け取ることも可能なはずだ」


「でも、なんでわざわざ……?」

「お前さんも、自分が蓄積してるエネルギーが無限じゃないってことは、とうに分かってるだろ。何のためにオレが雷の魔法を充てたと思うんだよ」

 レオナルドがわざとらしくため息をつくのを見て、キラははたと思い至った。

「ってことは……じゃあ、雷を使い切ったら、”神力”を使えない?」

「その”お守り”に蓄積したぶんも使っちまったら、そうだろうな」

「どうやっても?」

「からっけつになりゃあな。そうなっちまったら、誰か雷の魔法を使えるやつに頼むか、天候不順を祈るしかない」

「天候不順を祈る……」


「一番の解決方法は、エネルギーを使い切る前に、残ったもんを元手にして雷を手繰り寄せるってことだ。が……多分無理だろ。お前さんが経験した暴走……おそらくは、あれくらい規模じゃないと雷は引き寄せられない。感覚も覚えてねえんだろ?」

「うん……」

「ここで修行するにも、そんな危なっかしいことはさせれねえし、時間もない。”聖地”に行くほか、そういう芸当はできないと心がけておけよ」


「けど、どうやってこの〝お守り〟から雷を……?」

「”魔鉱石”ってのがあってな。”転移の魔法陣”にはほぼ必須のものなんだが、これには魔素が溜まりに溜まってんのさ。人為的に魔素を操るなんてこと、ヴァンパイア以外にはできない芸当だから、自然採取かヴァンパイアに融通してもらうかしかないんだが……仮に魔法使いがこれを手に入れたとすれば、たちまち魔力が回復する」

「魔素が魔力の元だから?」

「そう。だからつまり、持っておくだけで良いってわけさ。これまでその”お守り”は『エネルギーの逃げ場所』に過ぎなかったが、お前さんが自分の意志で放出できるようになった……ってことはそいつは、『エネルギーの保管場所』となったってわけさ」


「……持ってれば良いんだね?」

「そりゃそうだが……今の話、理解してないだろ」

「……。おなかへった」

「誤魔化しヘタかよ! まあ、いい。下へ戻って飯だ」

「……下? てっきり一番地下にある部屋かと思ったよ」

「ま、特別製だからな。――ほれ、ぼうっとしてたらすぐに体が冷めちまう。ここは一等寒い」


 頷くよりも先に、キラはくしゃみをした。

 膝まで覆い隠すグレーのコートの内側には、もこもことした紺色のセータを着ている。履いているズボンは厚手のもので、なかなかに寒さをしのいでくれるのだが……いかんせん、革のブーツは動きやすさを重視して軽く薄いものとなっている。

 そのせいで足元からじわじわとした冷たさを感じ、ズボンの裾から入り込んでくる冷気も相まって、すぐにでも凍ってしまいそうなほどに冷えてしまった。


 フードをかぶって寒さをごまかしつつ、さっさと部屋の隅にある”転移の魔法陣”へ向かうレオナルドの後を追う。

 何度体験しても慣れない不思議な浮遊感に揺られ……なんとか、大量の肉料理が並べられたテーブルに着くことができた。


「う……」

「まだ酔っちまうか。ま、十分で収まるだろ」

 もはや心配する素振りすら見せなくなったレオナルドは、手近にあったステーキにフォークを刺す。かぶっている麻袋の口を広げて中へつっこみ、もぐもぐと咀嚼する。

 袋が奇妙に蠢く中、彼女が左手でひょいと指を振ると、どこからともなく石造りの鳩の”使い魔”が現れた。

 ばさばさと翼をはためかせつつ、その肩に着地。丸まった羊皮紙をくちばしで加え、主の手にポトリと落とすと、どこかへ飛び去っていく。


「それじゃ、酔い醒ましに今後の計画を語ってやろう」


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