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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第8章

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739.アサシン

 〝カール哨戒基地〟から〝贋の国〟アベジャネーダの国境までは程近い。

 そういうわけで、キラはリーウと共に入国のための最終確認をした。〝元帥〟を象徴するような刀と〝元帥羽織〟は、それぞれ樽や木箱などの積荷に紛れ込ませる。


 一方で、リーウも完璧な町娘に変装していた。

 身に纏うのは質素なドレス。首元には、前にあげた太陽のペンダントがきらりと光る。

 どうやら、メイド兼〝専属秘書〟という職業柄、なかなか表には出せないアクセサリーを最大限に活用したらしい。

 黄金にも見える亜麻色の髪の毛は、いつもとは違って癖っ毛でくしゃくしゃ。いつもは櫛でストレートに整えているものの、ここ数日それを我慢して、元の癖っ毛で野暮ったく見せている。


 そして、化粧はなし。

 そんなことせずともキッパリと整った顔立ちをしているが、最後の最後まで、化粧道具を置いて出発するかどうか悩んでいた。

 リリィに諭され、セレナに促され、キラが素顔を褒めることで、ようやく手放す決心をしてくれたが……これだけは譲れないと泥パックは持参している。

 〝元帥羽織〟と刀以外は普通な村人と変わらないキラと比べると、随分な変わりようだった。


 セドリックとドミニクに関しては、いつもと変わりない。騎士団から支給された装備ではなく、〝隠された村〟時代から愛用している防具と武器を身に着け、後はマントを羽織っているだけ。

 商人の人間として動くなら、護衛としていつものようにふるまっていてもおかしくはないという判断だった。


「けど……そしたら、僕らは何に扮するの? 潜入する以上、アベジャネーダの国民として生活しなきゃいけないよね」

「アタシらは〝ドンキホーテ商会〟の人間ってことになってる。先行してる連中がそこそこいいとこ買い取って、雑貨店を経営してんのよ。で、アタシらはベルナンドとアベジャネーダを行き来する〝ドンキホーテ〟の商人」

「なぁんか……デジャヴ。僕とリーウで夫婦役……なんてことじゃないよね?」

「お? それもいいな?」

「からかわないでよ……。僕とリリィで似たようなことしたことあるんだけど、ボロ出まくりだったんだからさ。……主に僕」


 ルセーナがプッと吹き出し、セドリックとドミニクが懐かしさを噛み締めるように笑う。

 リーウは、一人ころころと表情を変えていた。最初は悲しそうな顔で、次にそれが思い込みだったことに気づいた安堵の表情、そうして最後にはジロリと睨みつけてくる。


「リリィ様と夫婦……? 詳しく」

「そ、そんな暇はないから。――それよりさ、リーウ。リリィに連絡入れよう。こっから忙しくなるだろうし」

「承知しました。……後で話してもらいますからね」

「う……。リリィに聞いてよ……」

「ヤです」


 リーウが〝リンク・イヤリング〟を通して騎士団本部とやりとりをしている間に、国境が近づいてきた。

 〝贋の国〟アベジャネーダは内陸の国。五つの村と一つの都が、三つの山からなる盆地に収まっている。

 山間を塞ぐようにしてそれぞれの方角に防壁が設けられ、馬車は〝南東関所〟にたどり着いた。


 どうやらルセーナが度々漏らす〝潜入班〟とやらはかなりの数がいるらしく、関所にも一人配属されていた。

 厳しい取り調べを受けるふりをしつつ、検問官と互いに顔を合わせておく。

 『ご武運を』という小さな声と『通ってよし』という堅い言葉とで、難なく国境を突破。

 真っ先に首都である〝リケール〟に向かうものと思っていたが、まずは中継地点としてペルティという村に寄ることになった。


「アベジャネーダは都市国家だからな。領土はこの盆地だけだし、全地点に隠れ家置いてんのよ。宿屋やってたり酒場開いてたり。一番使いやすいのは広い土地もらって農家やってるやつのとこだけど」

「想像以上に手が込んでるね……」

「まあな。こうやって作戦を立てられるだけの土台作りだけでも、もう五十年は続いてる。そんなもんで、検問所で顔を合わせたアイツ、モルティッツォはほぼアベジャネーダ人でよ。親父から聞かされた時は何の小説かと思ったらしい」

「そりゃそうでしょ……。世代超えてんだもん。親とか祖父母とか、親族には事情を知らない人もいるんでしょ?」

「たとえ血が繋がってても、知られちゃならねーからな。そういう意味も込めて、アタシらは〝アサシン〟ってことになる」


 目の前には、すでに村が見えている。

 一本の街道を中心に数十の家屋が集うごく小規模な村だった。ここに宿屋なり酒場なりがあるのかと聞こうと思ったが、その直前にエルトの〝声〟が響いた。

〈〝アサシン〟……! かっこいい! じゃあ私たちも〝アサシン〟かな……いや、きっとそう!〉

 どっちの声を出すのか一瞬戸惑い、エルトをスルーする形でルセーナに声をかける。


「それで、今向かってるのは?」

「〝マイルズ亭〟……宿屋だ。ここで二手に分かれる」

「二手に……?」

「ま、細かい説明は後だ」

 ペルティは至って普通の村だった。よそ者を歓迎するようなことはないが、それでも物珍しげに、あるいは親しげに声をかけてくるヒトもいる。

 主に御者席に座るルセーナと、護衛として外を歩く凸凹コンビが応える。


 ただし、キラもリーウも顔を出すことは許されず、馬車を止める際にも人目を盗むようにして裏口に回った。

 宿屋〝マイルズ亭〟には何人もの〝アサシン〟がいるのか、ルセーナが何も説明しなくとも、止められることなく入ることができた。

 宿屋には、他に宿泊客はいない。そういうこともあって、ルセーナも堂々と〝アサシン〟としてチェックインできていた。

 そうして通されたのは、二階の角部屋。


「あれ……。二部屋取らなくて良かったの?」

「言ったろ、二手に別れるって。アンタら二人、地下通路を通ってリケールの隠れ家に向かってもらう」

 ルセーナが目配せをしたのは、キラとリーウ。

 二人で顔を見合わせて、それからもう一度小柄な案内人に説明を求めた。


「なんで僕とリーウ? ルセーナと僕ならまだわかるけど……」

「アタシは行商人としてアベジャネーダをちょいちょい回ってっから、いろんなとこで顔が知れてんだよ。それが強みでもあり弱みでもある……。さっき顔を合わせたこの村の奴らに疑問を持たれるわけにはいかねえのさ」

「ああ、それでさっき隠れてろって……。けど、隠れ家? 商店じゃなくって?」

「表向きの活動場所に裏の隠れ家を直通で繋げてどうすんだよ。裏から裏、これ基本な」

「それもそっか。まどろっこしい……」


「バレアス……宿の〝アサシン〟の一人に案内させるが、くれぐれも逸れないようにな。他の隠れ家と繋げてたり、緊急避難所を設けてたり、まあ複雑化してっからよ」

「じゃあ……。三人とはリケールで集合?」

「んー……そういうことになるな、うん。アタシらは一泊してから出発だから……合流すんのは明日の夕方ごろじゃねえかな。それまでにそっち側で色々と情報交換しといてくれや」

「ああ……。そうか。シスがいるんだっけ」

「それと、もう一人……。ローランってやつも一緒だ」

「ろーらん……? ああ……! 〝平和の味方〟! ――なんで?」

「しらね。くれぐれもトラブルなんて起きねえようにしてくれよ」


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