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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
7と2分の1章

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734.3-13「ケンカ」

 どれだけ風が吹き荒れようが、どれだけ土埃が舞っていようが、〝空梟〟の働きが変わることはない。生命が放つ特定の〝気配〟を随時伝えてくれる。


「この感じは……。ルセーナ、この辺りに〝ポイント〟ってある?」

「〝魔獣〟でも湧いてんの?」

「うん……。ぽい。〝魔獣〟って人が近づかなきゃ湧き出てこないでしょ」

「襲撃じゃないかって? 微妙なラインだな……。王国じゃどうか知らないけど、うちじゃあそういう事故って割とあるんだよ。行商人とか旅人がうっかり入っちまったり、調査しきれてない〝ポイント〟に足踏み込んだりさ」

「ああ……。この辺、特に視界が悪いから……」

「まあ……その。ここはスルーするしかない。宗教的にも騎士団的にも許されることじゃないが……この任務にはいろんなもんが懸かってるんだ」

「わかってるよ」


 ルセーナもきちんとした宗教騎士だった。まるで赦しを請うかのように、ぶつぶつと〝神〟へ言葉を捧げている。

 複雑な気持ちにはなったが、それを馬鹿にするほどキラもねじ曲がった性格をしていない。むしろ、少し気が楽になったくらいである。


「――ああ、そうだ」

 キラは馬たちと周囲の様子とを気にかけつつ、後ろの方へ声を投げた。

「リーウ。リリィはなんて?」

「少し到着が遅れているとはいえ、今のところ順調ですのでそのまま励むようにと。ただ、〝カール哨戒基地〟到着以降は、一日に一度、報告を行うようにとのことです」

「わかった。で……セドリックたちについて何か言ってた?」

「今回は秘密裏に進行する作戦ですので……。これを阻害するようなことがなければ、自由に動いていいと。最終的な判断はキラ様に任せるとのことでした」

「自由に、ね……」


 ただ一人事情を知らないルセーナは、しかし問いただすような野暮な真似はしなかった。あるいは、〝アルマダ騎士団〟として成り行きを監視しているのか……。

 ともかく、キラも詳しい説明はせず、そのまま話を進めた。


「二人は……どうするつもり? エリックを探したい?」

「いや、どうするって……」

 もごもごと答えたのはセドリック。背後を振り向かずとも、彼がどんな顔つきをしているかは容易に想像がついた。

 本音を建前で誤魔化そうとして、しかしあと少しのところで失敗してしまう。


「そりゃあ、まあ……エリックのバカを連れ戻すために来たんだしよ。正直言って探したいさ。だけど……俺らは竜ノ騎士団の人間でもあって……」

 セドリックの言葉にできない気持ちを、恋人のドミニクが的確に表現する。

「キラに、恥をかかせられない」

「そう、それ! ここまで連れてきてくれたんだ――〝隠された村〟で初めて会った時からずっと、約束通り宣言通り、ずっと良くしてくれてんだ。俺らのわがままで、お前に迷惑かけたくない」


 思っても見ないほど真っ直ぐに気持ちをぶつけられて、キラは一瞬言葉が詰まった。自分の顔がどうにかなりそうなことを自覚して、御者席に座っていることを幸運に思う。

〈よかったね〉

〈……うるさいな〉

 くすくすと笑う声を照れ隠しで追い払い、キラはセドリックたちの想いに応えた。


「僕としたら、エリックとの決着を何よりも優先してほしいんだけどな」

 その答え方が意外だったのか、二人だけでなく、ルセーナも反応を示した。

 その息の飲み方は、明らかに反論を押し殺したもの……任務よりも私情を優先する〝元帥〟に物申したいのだろう。

 キラは、彼女を抑え込むためにも、理由を付け加えた。


「今回の任務の主役は、僕達じゃない。〝元帥〟のキラという人間、〝見習い〟としてついてきているセドリックとドミニクという人間、〝秘書〟のリーウという人間……表向きには、その誰もがアベジャネーダにはいないことになってる。たとえ死んだとしても、記録には残らないし、問題にも発展しない……そういう内容の作戦なんだよ」

 〝アルマダ騎士団〟として、〝聖母教〟信仰者として、あまり触れられたくない事実だったのか、ルセーナが思わずと言ったふうに割って入る。


「そんな言い方……!」

「エステル様にも言ったけど……僕は死ぬほど神が嫌いでね」

「……はあ?」

「帝都でさ。友達、殺したんだよ。まあ、実際には顔見知り程度の仲だったのかもしれないけど……バカみたいに笑い合ったこともあったんだ。友達だったんだよ――一線を越えなきゃ、今も、ずっとさ」

「……!」

「神ってやつは、そういう時ほど何にもしないでしょ? 神贔屓の人は〝試練〟だとか〝乗り越えるべき壁〟だとか良いようにいうけどさ。僕みたいな人間には慰めにもなりゃしない――脳みそが焼かれるほどの怒りが残るだけ」


 ちらりと振り向くと、それぞれに反応を示していた。

 リーウは成り行きがわかっていたかのように神妙な面持ちで聞き入り。反対に、ルセーナは耳を塞いでしまいそうなほど項垂れている。

 そしてセドリックとドミニクは、今までに見たことのない顔つきをしていた。

 信じられないという気持ちと、聞いていられないという気持ちと、何か言わねばという気持ちとが、顔中に皺となって現れている。


「まあ、何が言いたいかっていうと……。神ってのは嫌なやつだから。〝試練〟とやらを用意する前に、二人には決着をつけてほしいんだよ。任務よりも……何よりも、優先すべき事柄さ」

 セドリックとドミニクが決意を持って口を開けたところで、キラは前を向いた。

「ああ、それと……。喧嘩で終わらせてね。僕は……僕らは、それができる状況になかったから」


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