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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
7と2分の1章

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728.3-7「交差点」

「……ありゃぁ、〝覇術〟とは別モンだな。レオナルドが考察してた〝古代魔法〟……理論的にゃぁ、そっちの方が近いか。恐ろしいこった」


 数秒とかからず、またアランは目の前に戻ってくる。

 キリがない。ヒューガは舌打ちをして、翼をはためかせた。

 〝嵐〟による竜巻は逸らされてしまったものの、その余波で海上を荒らすことはできた。〝ドラコ船団〟も流石に陣形を維持することはできず、一部に隙ができてる。

 そこへすかさず海賊船が船首をむけ、全速力で離脱を図る。


「海は生き物ってなァ――」

 それだけでは逃げられない。

 そうとわかっているからこそ、ヒューガはこの海域を舞台にしたのである。

 いかに優秀な魔法使い……それが〝元帥〟であろうと、海の中にまでは気を配れない。

 〝ドラコ船団〟の連中は薄々気づいていたかもしれないが、それでも知らない海域では判断が遅れる。

 それほどに、海の〝魔獣湧出ポイント〟はわかりにくい。


「気をつけるこった、元帥――クラーケンのお出ましだ」

 一丸となって海を走る海賊船たちのすぐそば。波と飛沫と辺りの暗さとでドス黒くなった海面が、一気に膨れ上がっていく。


 その大きさも範囲も、まるで山。

 噴火でもしたかのように飛沫が上がり――海の化け物クラーケンが現れた。


 今までに聞いたことのないような気色の悪い雄叫びを上げながら、何本もある足をばたつかせる。子どものような癇癪だったが、その実態はほぼ災害。

 海面を叩いては大津波が起き。その衝撃でいくつもの船が宙を舞う。直撃すれば、間違いなく海の藻屑となるだろう。


「――まァ、手を貸すまでもねェわな」

 ただ、〝ローレライ海賊団〟はその脅威などものともしない。

 とりわけ〝ローレライ〟出身者の対応は早い。

 クラーケンのひと暴れで宙に浮いた船を助ける。海面に干渉して橋をかけたり、暴風雨を巻きつけて着地させたり。


「ヴェルク、ヘクスター! 海面上げろ!」

 ヒューガの合図で、幹部二人が船から荒波へ飛び込む。

 普通であれば浚われておしまいだが、〝海面〟に干渉するユニークヒューマンである男たちは、何事もなく顔を出した。

 そうして揃って〝力〟を発揮。


 疾走する十五隻の船を、海面ごとせり上げる。

 クラーケンよりも高く膨れたところで、ヒューガが〝嵐〟による突風で海面から切り離した。

 そのまま風を操り、海を渡ることなく、空を飛んで海域を離脱した。


「あ〜、たく……。上手くいかねェもんだな」

 生き残った海賊船の一つの甲板に着地する。

 〝タスク号〟……ヤマトノ大国で盗んで以来、〝ローレライ海賊団〟の乗っ取りからこれまで、苦楽を共にしてきた〝家〟である。

 物に執着しないヒューガでも、見慣れた甲板に足をつければ、沈まなかったことへ幸運を感じた。


「総督……」

 被害状況の確認で船上が慌ただしい中、のっそのっそと近づくデブがいた。顔もまんまる、腕もまんまる、胴体もまんまるな男である。

「なんだ、レック」

「クラーケン……」

「……。勝手に持ち場を離れんじゃねェよ。何度言ったらわかる」

「食べたかった……」

「状況考えろ。つーか、あんなクセェのよく食おうと思うな」

 とぼとぼと自分の船に帰ろうとするレックだったが、その体型に似合わないくらいに機敏に顔を上げた。


「あん? ――おいおい、凝りねぇな」

 海の化け物たるクラーケンは、やはり規格外だった。十分高度を取ったと思ったが、足を懸命に伸ばし、上から叩こうとしてくる。

 ただ、伸ばしに伸ばした一本の足は、何ら脅威になり得ない。

 むしろ、大食漢のレックにとってはおやつが降ってきたかのような感覚であろう。


「――いただきます!」

 案の定、レックが降りかかるクラーケンの足に向かって飛びついた。体型も相まって、その様は本物の砲弾のよう。

「オイ……。甲板潰すんじゃねぇよ!」

 レックは、叩きつけてくる足を飛んだ勢いのままかぶりついた。切れ味の悪い包丁で叩き切るかのように食いちぎる。

 千切れた先端が甲板に落ち、同時にレックが着地。またも床板に大きな穴が開く。


「レック!」

「んぐ、んぐ……。総督もいる?」

「ハァ……。さっさと食え。邪魔だ」

 伸びた足の先端とはいえ、甲板に落ちてきたそれは両端の船縁にもたれかかるくらいにはでかい。ニオイもキツイそれを、レックは幸せそうにガブガブ食べていく。


「コイツのメシと船の修理費でどんだけ飛んでいくんだよ……」

 本来なら首を飛ばしてるところだが、そうもいかない。

 レックは意外と優秀な航海士。彼の乗る〝メンデルス号〟を中心として〝ローレライ大船団〟が回っているところもある。

 アベジャネーダへ向かおうという時に消していい人材ではない。


「総督!」

「ブラックはどこ行った」

「え……。ああ、〝ユナイト号〟に……」

「あのお遊び集団のどこに義理を感じてんだか……。まァいい。幹部を全員集めろ――今後の野望の話をする」

「――はい!」


    ◯   ◯   ◯


 ベルナンド〝首都〟アルメイダを出発して、二日目。

 外国での初めての旅ということもあって体調ぐずぐずだった一日目とは違って、体裁をある程度保てるくらいには皆持ち直していた。


 一番早くに立ち直ったのが、セドリックとドミニク。

 二人とも、竜ノ騎士団所属という立場にずいぶんプレッシャーを感じていたようだが、賊をうまく退けたことで自信がついたらしい。

 思えば彼らは、〝エマール領武装蜂起〟だの〝黄昏事件〟だのを乗り越えてきたのだから当たり前のことである。

 次に、メンタル面でキテいたリーウが復活。帝都から王都に移住した時のことを考えれば、どうということもないという。


 三人を率いねばならない〝元帥〟という立場にあるキラは、情けなくもまだへたっていた。

 復調の兆しは見えているのである。セレナお手製の酔い止めを半日に一回服用し、なおかつ、リーウに錯覚系統を使ってもらって酔いの度合いを軽減。

 さらにその上で、徒歩での移動と馬車での休憩を交互に行うことで、新たに迫り来る乗り物酔いを阻止。

 そうしてようやく、案内人のルセーナに失望されないくらいには体調を立て直せていた。


 だが……。

 思い返してみれば、ベルナンドに入って以降、〝空梟〟を使いっぱなし。〝アルマダ騎士団〟も一緒だったため、二十四時間ずっとというわけではなかったものの、なるべく目を覚まして活動している間は警戒を怠らなかった。

 おかげで特に意識することもなく〝空梟〟を使えるようになったが……精神と気力をすり減り、乗り物酔い云々がなくとも、限界が近づいていた。


 そこで……。

〈キラくん、大丈夫?〉

 夜の間だけ、エルトが体の支配権を握ることになった。


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