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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
7と2分の1章

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726.3-5「戦い」

「――ただ知っておいて欲しいのは、アタシらは〝聖母教〟で成り立つ騎士団だってこと」

「どういうこと?」

「騎士であろうと、あくまで〝聖母教〟の信徒にすぎないワケ。そりゃあ〝贋の国〟内部の動向を知るためにも諜報員を送ってはいるけど、破壊工作をさせることはないの。なぜって、それは〝聖母教〟の教えに反するから」

「〝聖母教〟は戦争のための軍隊を容認しない……」

「そう、それ。だから、よっぽどのことがない限り、騎士団から仕掛けるような案は全部却下されんの。そこんとこ要注意な」

「なるほど……。んー……難しい」

「まァ……綺麗事だとはみんな思ってるよ。アンタはそれでも甘いって思うんだろうけど」


 その真っ赤な髪の毛の如く勝気な性格だろうと、ルセーナは〝聖母教〟信仰者だった。じっと顔を見つめてくるその様には、包み込むかのような柔らかさがある。

 キラは全てを見透かしたかのような視線を数秒受け止めて、そろっと顔を逸らした。


「けどね。自分が信じたものを自分で貶すようなことしちゃあ、わけわかんなくなんのよ。じゃあ、これから何を信じて生きてけばいいの、ってね」

「別に……。それについて何か思うことはないよ」

「そ? ならよかった。――ともかく、〝アルマダ騎士団〟が動けるタイミングは、誰かが助けを求めている時のみ」

「分かってはいたけど、〝アルマダ騎士団〟には頼れないか」

「上も本気ではあんのよ。諜報員も前例にないくらいに送り込んで、部外者であるアンタにも来てもらった。騎士団本隊は動かせないけど、そうやって裏で糸引けるように画策してる。その状況を打破するのが、アタシらの仕事ってワケ」


「って言っても……。革命を成就させたところで、アベジャネーダがアベジャネーダであることには変わりはないんじゃない?」

「だから、アタシらが重要になんの。革命の根っこに、アタシらがいれば……今すぐにではなくとも、〝贋の国〟を変えてける。戦争なんてしなくていいし、〝贋の国〟の民がホントのとこどう考えているのかだって分かってけるし。それに沿った変革だって狙える。いいことづくし」

「ああ……。そういうことか。戦争に依らない平和的解決」

「そ。――お? 外、もう終わったんじゃない?」

 ルセーナがそろそろと荷台の後方へと近づき、聞き耳を立てる。セドリックたちが周囲の安全確保に言及しているのを耳にして、ぱっと幌を解き放った。


〈戦争的平和と、平和的平和……。僕は前者か〉

〈なんの話?〉

〈少し頭を柔らかくして考えていかないとな、って話〉


   ◯   ◯   ◯


 エグバート王国。〝陸の港〟リヴァーポートより西へ向かって五百キロメートル地点。

 海は、ひどく荒れていた。

 空には分厚く暗い雲がかかり、昼間というのに辺り一体が薄暗闇に包まれている。

 風が吹き荒れ、大粒の雨粒が飛び交い、波が飛ぶ。唸るような海模様に、もはや安全な場所はない。

 たった今、膨れ上がった波に船が押しのけられたように――熟練の航海士がいようと、腕利きの操舵手がいようと、関係なくなっていた。


「総督! アガタ号がっ!」

「あぁっ? 前に出るなっつったろうが! テメェらも退け!」

「しかし――退路が!」

「チッ」


 ヒューガはざっと戦況を見渡した。

 うねる水面に揺さぶられる〝ローレライ大船団〟。

 傘下の海賊船二十隻が一堂に会し、幹部五人も揃っているというのに、翻弄されるばかり。

 いつの間にか一ヶ所にぎゅうぎゅうに集められ、下手に大砲も打てなければ、魔法で蹴散らすこともできずにいる。

 今、また一隻沈んだ。横倒しになる船から、悲鳴と怒号が轟く。


「よそ見か、〝海の王者〟」

 相手はたったの五隻。

 だがその五隻は、竜ノ騎士団の海上部隊〝ドラコ船団〟。

 〝海の魔術師〟と呼ばれるルーサー・エルトリアが率いるこの船隊は、海の厄介者。

 波を読み、風を操り、多彩な戦術で追い詰めて、一隻ずつ確実に沈めていく……海賊にとって、最も出会いたくない敵である。

 そんな船団に、竜ノ騎士団〝元帥〟アランが帯同していたのだから悪夢の他にない。


「――ヒト如きが生意気な」

 ただ……。

 こういう事態に陥るということは予見できたことであり……ヒューガとしても望むところではあった。


 ずっと、考えていたことがある。

 〝ローレライ海賊団〟がナワバリとするのは、エグバート王国、リューリク帝国、ヤマトノ大国の三カ国が囲う〝青海〟。

 王国と帝国の〝二百年戦争〟が終結するまでは、この海域で好き勝手できた。

 〝ドラコ船団〟さえ避けていれば、商船を襲ったり他の海賊と抗争したりと、楽しい思い出しかない。


 だが戦争が終わり、海のルールが変わった。

 王国と帝国の同盟により、海の支配権を思うように握れなくなったのだ。

 二カ国間を結ぶ航路が確立され、〝冒険者ギルド〟の〝霊獣〟チームがウロつくようになった。

 帝国の〝海守隊〟もあなどれず、さらには〝ミテリア・カンパニー〟も度々関わるようになった。


 一度突けば、蜂の巣の様相を呈することは明白。とりわけ、世界トップの軍事力を誇るエグバート王国が動くようなことは避けたい。

 〝青海〟は窮屈になった。

 どこか別の海域へナワバリを移すべきであろう。

 ただ――もともと、ヒューガにはその考えは一つとしてなかった。


「――! なンだ、この〝気配〟……!」

「ヌンッ!」

「ハッ――〝人類最強〟は伊達じゃねェってか!」


 ヒューガにとって、〝ローレライ大船団〟は便利な隠れ蓑だった。

 今、何よりも優先すべきは、あの日〝始祖〟に味合わされた屈辱をそっくりそのまま返すこと。逃げるより他に手を打てなかったあの日をひっくり返すこと。

 そのためにも、時間が必要だった。

 力を蓄える時間と、策を編む時間と、準備をする時間とが。


 海賊稼業は幹部に任せて、ヤマトノ大国へ帰るのも手だった。鎖国だ掟だと窮屈ではあるが、強くなる手段が山のようにある。

 そんなところへ、ブラックが現れたのである。


「まさか〝覇術〟を魔法で再現するたぁな!」

「ち――やはりそう簡単にはいかんか」

「オイオイ、もっと楽しませてくれよ、なァ!」


 〝始祖〟をブチのめすには、作戦が肝となる。もっと言えば、それを支える駒がある程度必要となる。

 〝殺し合いの定め〟がある以上、危険な橋を渡るには違いないが……〝闇の神力〟を持つブラックの存在は大きかった。

 〝覇術〟を覚えていない状態であっても、一人でエグバート王国を翻弄できるほどの力量である。

 そんなブラックを引き込まない手はなく、今後の計画も大きく変更することとなった。

 すなわち、〝青海〟の放棄である。


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