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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
7と2分の1章

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720.2-12「脅威」

「誰にだって背負うものはあるよ。その人にとっちゃ、当たり前に大きなことさ……その点では、みんな平等だよ。だけど、それで全てが正当化されるってわけじゃない。〝コピー〟と〝反発〟……その二つの強大な力をこの国で好き勝手に使われたら、そりゃあ止めるさ」

「制止するにしても、やりようというものがあるのでは? ハルトくんは、もう〝コピー〟を使えないのですよ。ユージも、下手すると命を落としていました。それほどにまでする必要はないと思うのですが」


「……平行線だね。負けたら奴隷……そう平気で言い放つ人間に、僕は容赦はできない。放っておけば被害は広がり、果てはこの国を潰すことになる――君という人間は、そうなった場合には、『仕方がない』『そんなことは知らない』『弱い方が悪い』って言うんだろう?」

「……!」

「……事実を真っ直ぐに見れないくせに、口喧嘩なんて百年早いよ。いや……だから平気でそんな口利けるのかな」


「黙って聞いてれば、さっきから……!」

「国を背負ってるって言ったよね。実はさ、僕もなんだよ――エグバート王国がバックにいる。それが恐いから、さっき必死でそっちの自称勇者を止めてたんじゃないの? 真正面からの戦争を避けるために」

「……っ」

「でもそうなったら……僕が始末をつける。発端はどうであれ、僕が当事者なんだから――リリィたちに迷惑はかけない」


 『人を殺す』。

 それに何も感じないわけがない。

 なにはなくとも、ふとした拍子にゲオルグたちのことを思い出すことすらある。

 リリィのいうような〝誇り〟に近づいてはいるものの、まだ癒えない深い〝傷〟……それが、じくじくと、胸の中で痛む感覚である。


 だからこそ、〝殺しの誓い〟を思い起こす。

 世の中、ありとあらゆる戦いで溢れている。〝混迷の地〟と言われる〝ガリア大陸〟など、その最たる例だろう。

 〝勇者〟たち四人は巻き込まれ、元に戻れないところまで引き摺られて、役割を与えられたに過ぎない。

 ただ、彼らの性格と思想とが混じり合って、もう無かったことにもできない。

 万能で強力な〝力〟に酔った人間は、もはや平和の脅威と成り下がった。


 ならば……。

 〝誓い〟を立てて、殺さねばならない。

 ここで、彼らから連鎖する全てを断ち切る。戦いも、悲劇も、痛みも、もう起きないように。

 カインのスポーツ的平和とは真逆も真逆の血みどろの道だが……。こうでもしなければ、現実として存在するありとあらゆる戦いが残り続ける。

 どこかで誰かが、終止符を打たねばならない。〝また生まれてきたい〟と思うくらいの平和な未来のために……〝コルベール号〟の悲劇が二度と繰り返さないためにも。

 泥を被る覚悟を持って、殺す。

 それが巡り巡って、〝勇者〟たちの来世のためになると信じて。


「穏便に済ませたいなら、退くことを勧めるよ。それ以外、死があるのみ」

 言葉だけで退くようならば、こんなことにはなっていない。そうはわかっていたが、少しの願いと煽りとを含めて、キラはあえて口にした。

 案の定、ケンジの制止を振り切り、ユージが仕掛けてくる。


「テメェを殺しゃあ――」

「――」

「俺の自由って話だよなぁっ!」


 ユージの言い様にぴくりと眉を動かしつつも、キラはいたって冷静に〝未来視〟で先を読んだ。

 〝反発〟の性質を考えれば、以前と同じように受け身の戦い方が基本となるはずだが――慣れていないにも関わらず、果敢に突っ込んでくる。

 〝未来視〟が示してくれたのはそこまで。だが、〝反発〟の〝気配〟の高まりを感じて、キラは目を細めた。


「喰らえよ――〝リペル・ストライク〟!」

 チンピラにも至らないパンチ。


 〝反発〟にかまけてろくに鍛錬もしていないのがよくわかる。避けるのは簡単で、反撃すら何パターンも思い描けた。

 だがそれでは、ヌルい。

 ゆえに、真正面から受け止める。


 腕をクロスして、〝躯強化〟でガードを固める。

 そうして想像通り。ユージの拳が直撃した瞬間に、凄まじい〝反発〟の力が体を突き抜けた。


 体が浮いて吹き飛ばされそうなところを、あえて踵を浮かす。

 そうすることで流れに逆らわず、〝反発〟の力の乗ったパンチを受け流した。


「なっ……!」

「そういえば、どっちだか忘れたけど、言ってたね――万に一つも負けないって」

 心臓の唸りを利用して、〝雷〟の力を汲み上げる。と、同時に、瞬間的に〝呼吸〟を〝一ノ型〟にまで下げる。


「そっくりそのまま返すよ」

 今日は晴天。

 ただ、快晴とまではいかない。

 良い塩梅に、雲がかかっている。


 セレナの仮説では、〝雷の神力〟は曇り空からエネルギーを吸収する。

 今はもうほとんどないが、毎度のように心臓発作に苦しめられていたのも、強すぎる〝力〟が原因。

 ヒトの身には余るその力を、なんとか利用できないかと考えていた。

 その結果たどり着いたのが、エネルギーの吸収を逆に利用するということ。雲から流れ込んでくるエネルギーの流れを掴み、そのまま〝雷〟を落とすことができたならば。

 曇りの日限定にはなるが、〝雷〟の残量を気にせず、乱用すらできる。


 事実、一度だけ似たものを使ったことがある。

 帝都上空へ〝転移〟でもどり、〝教団の間〟を〝十六号〟ごと撃破したあの一撃。海に風穴を開け、それ以降も元に戻ることのない大穴を開けた雷である。

 自然の理すらも歪ませるあの一撃に至る技を習得すれば。〝始祖〟にも対抗できる力をも手にできる。

 とはいえ……。偶然ではなく意図的な〝技〟に昇華するため、理論立てて考えてみたものの、これを実践する方法がピンとこなかった。

 だが、エルトの〝雷業〟がヒントを与えてくれた。


「さ。君の自慢の〝反発〟の力で返してみなよ」

 とん、と一歩下がって距離をとりつつ、一瞬の猶予を確保する。


 〝一ノ型〟で周りの〝気配〟を探り、雲から流れてくる一条のエネルギーを感知する。

 それと同時進行で、心音から汲み上げた〝雷〟を右の掌に集結させる。バリバリッ、と轟音を弾けさせる。

 そうして、上空から降りてくるエネルギーと共鳴させるのだ。

 〝雷〟を〝雷〟で呼び起こす技。〝雷業〟の派生系ともいうべき一撃。

 それが。


「〝雷獄〟」


 予測不可能な落雷。

 ただ雷を落とすのではなく、〝神力〟でエネルギーを補強して、必殺の一撃とする。

 〝勇者〟四人もろとも、消し去る勢いである。全員が頭上で瞬く〝雷〟を認知した時には、もうすでに遅い。


「――ん」

 だが腐っても〝勇者〟。

 間一髪、ユージが〝反発〟の力を展開し、抗っていた。

「テメェからしたらよぉ……! 俺らは虫ケラ同然かもしれねぇが——」

 ドーム状に張られた不可視のバリアが、〝雷〟を弾き返すとはいかずとも、四人もろとも丸呑みにされるところを必死に守り続ける。


「これでも真っ当に生きてんだよ! あン時と同じと思うな!」

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