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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
7と2分の1章

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719.2-11「国」

「〝勇者〟が盗賊の真似事? やめといた方がいいよ」

「てめぇ――黒髪! よくも……!」

 いの一番に感情を露わにしたのはユージ。前に足を一歩踏み出してきたが、キラが咄嗟に〝センゴの刀〟に手をかけると、びくりとして静止した。


「忠告しておくけどさ。僕もあの時とちょっと立場が変わってね。今は竜ノ騎士団〝元帥〟なんだよ」

「だからなんだよ……! 自慢か、この野郎!」

 ユージという青年は聞かん坊のようだった。せっかく危機感に留まった足を踏み出し、殴りかかってこようとする。

 だがそれを止めたのは、長髪の男だった。


「落ち着いてください……聞いてなかったんですか! 〝元帥〟ですよ――最強の国のトップですよっ?」

「知らねぇよ、知ったこっちゃねえ! こいつのせいでハルトが……! ケンジ、お前も言ってたじゃねぇか!」

「だから止まってくださいって! エグバート王国に喧嘩売るつもりですか! 少しは頭を使ってください!」

「なんだと……!」


 エルトの推察通り、〝勇者〟パーティの要を担っていたのはハルトのようだった。

 どれだけ〝コピー〟の恩恵にあやかっていたかはわからないが、ユージとケンジは今にも殴り合いの喧嘩に発展しそうなほどバチバチし始める。

 言い争いには参加していないものの、残りの可愛らしい少年はハルトのそばを離れようとはせず……。


「兄ちゃんに……兄ちゃんに謝れ、黒髪!」

 濃い目の茶髪といい、意外と端正な顔つきといい、確かにハルトの弟らしかった。一六〇にも満たない小柄な体で兄の前に立ち、必死に威嚇してくる。

〈兄のしてきたことも見てきただろうに、それでもなお謝れって……。弟も、なかなか毒だなあ〉

〈かわいい見た目にグラッときちゃダメだよ、キラくん。してきたことと、されたこと、それを感じ取る割合が常人とは違うんだから〉

〈ん〜……。でもどうするか……〉


 ハルトからは、前にあった時のような自信は感じられない。〝コピー〟という万能な〝力〟を失い、心が折れている。まるで別人のように、怯えてばかりいた。

 一番は、彼らがこのまま王国外へ消え去ることだが……仮にそう提案したところで、ハルト以外のメンツが納得できるとは思えなかった。

 ユージを止めているケンジでさえ、立場的なことを考えて行動しているだけで、ガッツリと敵意を向けてきている。

 そうはいっても、話を進めねばまとまりようもなく……。


「君たちがなぜここにいるのか……それはとりあえず聞かないでおこう。元帥だからね――狙いを知ったら、見逃すわけにはいかないんだよ」

「見逃すだと……?」

「そうさ、自称〝勇者〟のユージくん。魔王を倒すだかなんだか知らないけど、君たちの目的は王国にはないはず。仲間集めならよそでもできるでしょ。……っていうか、なんで仲間集め? そもそもどこから来たの?」

「はっ、誰が……」

 途中で降って湧いた疑問に、ユージが素直に答えるわけもない。食ってかかろうとした聞かん坊だったが、それをケンジが止めた。


「自分たちはガリア大陸からやってきたんですよ」

 ケンジにしても、警戒心を緩めたわけでも、敵意を納めたわけでもない。

 だがユージやハルトよりも遥かに頭が回るらしく、そういった感情を理性で押さえつけて、対話によってこの状況を切り抜けようとしている。


「最近よく聞くガリア大陸ね……。どこの国から来たのかは、まあどうでもいいとして……仲間集めならそっちでやればいいのに。ってか、〝勇者〟っていうくらいなら部隊の一つや二つ、借りれたんじゃないの」

「何か勘違いしているようですが――仲間集めはもうほぼ終わっています。王国で戦力を補強して、晴れて魔王のいる〝新大陸〟へ……そういう手筈だったのですよ」

「……? 話が見えないな……。君ら四人しかいないのに、ほぼ終わってる?」

「自分たちは〝召喚者〟なんですよ。なので、元々仲間ではありません。ま、結果的には顔見知りが集まった形になりましたがね」

「〝召喚者〟……。前にもそんなことを言ってた。それが……なんだって? 仲間じゃなかった?」


「ガリア大陸でなぜ頻繁に戦争が起こるか、ご存じですか?」

「……さあ。〝混迷の地〟とかって呼ばれてるのは知ってるけど……。大抵、領土争いとかじゃないの?」

「古くは、そうだったのでしょう。しかし今は違います。〝神の寵愛〟を受けるため……〝永遠の平和〟を得るために、大小様々な国が争っているのです」

「神の……寵愛ぃ? なに、そのゲボ吐きそうな言葉の並び」

「ゲ、ゲボかどうかは知りませんが……。自分たちは〝神の寵愛〟……いわゆる〝加護〟を授かるため、別々の国に召喚されたのです」

 肝心なところがすっとんだような気がしたが、キラはとりあえずは納得した。


〈なんか……。とんでもない話になってない?〉

〈ねー……。ちょっと想定外だったかも。そもそも召喚って何? 言葉通りに受け取ると、どこからか招集された、的な意味合いだよね。でも、今の口ぶりからすると、一つの国に一人ずつ召喚されたってことになって……? 確かに〝コピー〟とか〝反発〟とか、一騎当千な力ではあるんだけど……〉

〈それもだし、〝神〟ってやつがなんかまた話に絡んできた……。やだ〉

〈そんな羽虫鬱陶しいみたいに言わなくても〉

 消化しきれない事実だらけだったが、ケンジはそれをわかっていたかのように、話を強引に進めた。


「〝元帥〟。あなたも知っての通り、自分たちには特殊な〝力〟があります。ゆえに〝勇者〟なのであり、一人での旅も可能となるのです。そもそも、自分がいたアスカーニを含めて、ほぼ全ての国に魔王討伐に戦力を割けるほどの軍力はありません。そこで、自分が中心となって、他の国の〝勇者〟……ユージたちと合流を図ったのです」

「……まあ。とりあえず、その〝加護〟とやらを受けたいがために、魔王討伐に向かっていたのはわかったよ」

「それは何より。ならば、〝元帥〟……あなたにも理解できるでしょう」

「ふん……?」

「自分たちは、それぞれの国を背負って旅をしているのです。なのにこれでは、あまりにもな仕打ちではありませんか」

 どうやら粘り強く話を続けていたのは、この交渉のためだったらしい。


〈国持ち出してきたよ……。あーあ、面倒……〉

〈能無しでも口は動くもんだね。呆れた〉

〈同列に語って欲しくないんだけどな……。そりゃ〝勇者〟にも立場ってものがあるんだろうけど〉

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