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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
7と2分の1章

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716.2-8「占い師」

〈そういえば、この人、随分悪評が目立つんだって?〉

〈っていう風の噂ね。実際こうして話してみると、そうでもないかな〜、なんて……〉

〈エルトにしたら甘い評価じゃん?〉

〈ぐ……。そ、それは、ベルナンド出身の人たちはもともとそういう気質があるっていうか……。――いじわる!〉

〈僕に当たられても……〉

 キラは生あくびを何回か続け、最後の一回でちらりとエステルの様子を伺った。随分とご機嫌に頬を緩めているあたり、先ほどの会話に随分な自信があるらしい。


〈まあ……。下手かどうかはおいといて、そういう心遣いができる人だってのはわかったよ〉

〈んでしょ? 噂っていうのは、目立つ部分がどうしても誇張されてるからさ〉

〈それは確かにある。エステル……様……って、年はいくつだっけ? エルトも知ってるってことは……?〉

〈二十三とか、そこらへんじゃないかな。教皇カスティーリャ様がお年を召されてて……五十の時のお子さんだとかって聞いたから〉


〈聖職者に子供ってのも、不思議な感じはするけど……。そうなんだ〉

〈色々あるらしくって、〝聖母教〟の聖職者の親子ってだいたいそんな感じだよ。祖父と孫みたいな年齢差になりがちなんだって〉

〈そりゃあ……。悪評も立つようになるか。じいちゃんが孫に甘いのなんて、世の常みたいなとこあるでしょ〉

〈そう……かなあ? ちょっと違う気がするけども〉

〈イグレシアスさんがいうには、王都に来てからちょっと変わったらしいし……。何にしろ、ガチガチに厳しい人じゃなくて良かったよ。この状態で馬に乗り続けるとか、本当苦行〉

〈だね〜。元帥の面目丸潰れだけど〉

〈……これ、リリィたちには内緒にしとかなきゃなあ〉

 生あくびをもう一度。気を抜いているわけではなく、むしろ〝一ノ型〟を使って〝気配〟を拾いやすくして警戒はしている……のだが、あくびのせいでいかんせん間抜けに思える。


「なんだかなあ……」

 キラは掠れ声でぽそりと呟きつつ、再度エステルの様子を伺った。

 彼女はどうやら王都での生活を満喫したらしく、隣には土産物でパンパンに膨らんだ鞄がある。それ自体も人目を引くほどにおしゃれで、真紅に染められたレザーバックパックである。


「気になりますか?」

「え? ああ……まあ。おしゃれだなあ、って思って」

「そうでしょう? 〝クモノス商店街〟で一目惚れしまして。他にも色々と……指輪やイヤリングやネックレスなどなど……。王都に住まう方々が羨ましいです」

「じゃあ、また来ればいいんじゃ? 言ってくれれば、迎えに行けるかも」

「しかし……。聖職者たるもの、誠心誠意、神に仕えねば。遊び呆けるなど、もってのほか」

「神、ねえ……」


 そのタイミングであくびが出てしまったからか、随分と悪辣な態度となってしまった。

 エステルはわかりやすく顔を顰め、心を閉ざしたかのような口調と声音で言う。


「元帥には、何か思うところがあるようですね」

「いや、別に……。嫌いは嫌いだけど、他人の価値観に踏み入るようなことはしないよ。僕は僕で、人は人だからさ」

「神を信じていない、と?」

「んー……。それは、存在そのもの、って話? それとも、信用問題的な話?」

「……どちらの話と、解釈しますか?」

「僕としたら、いるかいないかは割とどうでもよくって……。ただただ、嫌い。信用もしてない」

「……。理由を伺っても?」

「あー……。なんでかな? なんでだろ。わからない。だけど――気に入らない」


 相手は〝聖母教〟そのものといっても過言ではない。なにせ教皇カスティーリャの娘……権威の象徴。

 それでも、意見を引っ込めるようなことはできなかった。母親のようなエルトに何か言われたならば、適当に言い繕うつもりではあったが……〝声〟は一向に響かない。


「なんだか……。大喧嘩をした後のようですね」

 意外なことに。エステルもまた、何か説教じみた文句をこぼすと言うことをしなかった。それどころか、目を見開いて、まじまじと観察してくる。

 その視線は妙に居心地悪く、キラは無意識にそっぽを向いていた。


「そんな覚えはないけどね。あったとしても、殺し合いでしょ」

「興味深いものです。覚えはない、理由もわからない……なのに、それほどの憎しみを抱えているとは。――もしかして、記憶がないのではありませんか?」

「……。言い当てられたのって、初めてかも」

「やはり……。この立場上、様々な生い立ちの方々を見ることがあるのですが……あなたは、その中でも一際特殊です。身のこなし、仕草、喋り方、思想……どれをとっても立派な大人なのに、幼稚になる瞬間が度々見受けられます」

「う……。悪かったね」

「ことばのあやです……いえ、これは私が悪うございました。言いたかったのは、急な落差を感じる時がある、ということ。それを『ギャップに萌える』のだと、王都で教わりました」

「な、なんか、間違ったこと学んでない?」

「いいえ」

「しっかりと否定するじゃん……」


「キリリと気を張っている元帥らしい格好よさと、神を嫌う今の一連の態度。大人から子供へ逆戻りしたかのようなその現象は、ギャップという言葉以外に当てはまるものはなく、萌えと表現する他にありません」

「一体何をバカ真面目に……。ああ、何の話かわからなくなってきた」

「つまるところ……。過去も経験も、肉体に宿ります。たとえ脳を削られたとて、失われるものではありません。過去の貴方が、今の貴方につながっているのです。それをお忘れなきように……過去は、決して敵ではありません」

「……それも、よくわかったね」


「過去の貴方に何があったか、見当もつきませんし、そもそも私が踏み入る資格もありません。ただ確実なのは……その何かがあった瞬間、過去の貴方は、神と己を憎んだということ。そして記憶を失ってなお、それが深く貴方に刻まれていること」

「ムン……。占い師みたい」

「ふふ、言い得て妙ですね。では占い師らしくアドバイスを。自分と戦うのだけは間違いです。貴方の場合は特に」

「難しいアドバイスだ」


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