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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
7と2分の1章

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715.2-7「異例」

「キラ様、あの、あの、手を繋いでもよろしいでしょうか。怖いと言うわけではないのですが。断じて」

「な、なあ、キラ。どうすりゃいいんだよ、なあ?」

「失敗……。失敗したら……」


「失敗はしないよ。だから王国の要なんでしょ」

 三人に向けた慰めではあったが、ざわめきの合間を縫うかのように響いたことで、〝アルマダ騎士団〟の面々も納得させることができた。

 そわそわとした空気が、目に見えたてなくなる。


「しかし……。万が一のことも考えて、知っておきたいのです。何が起こるのか。――以前、キラ様は全身ズタズタになったと話していましたが」

「あー……。言っちゃう?」

 リーウとしては万全を期したいらしいが、今回ばかりは裏目にでる。

 主に〝アルマダ騎士団〟に動揺が広まり、〝転移の魔法〟のために待機している魔法使いたちにも緊張が走る。


「けどあれは、だいぶ特殊な事例だと思うよ? 帝国に攻撃されてた最中に、無理やり〝転移〟したんだから。それに、セレナが一人で頑張って発動させたんだから、仕方ないことだったよ」

「〝転移の魔法〟を一人で……? ここには魔法使いが何十人と魔法陣を取り囲んでいるように見えるのですが。しかし……なるほど、そう言う経緯がありましたか」

「うん。あれは、セレナがぶっ飛んでるっていう結論で終わると思う。その上で、万が一失敗したらって話をするなら……。何かがなくなる、って聞いたね」

「なくなる?」

「身につけてたものがどっか行ったり、鞄ごとなくなったり。体の一部、って場合も。僕は腰が捻じ切れそうになった結果、上半身ズタズタになったんだけど……まあ、普通はそんなことないだろうから」

 そこで話を閉めようかとも思ったが、キラは微妙な魔法の〝気配〟を感じて、付け足すように言った。


「言うこと聞かずに余計なことした場合は知らない。断言できるのは、〝転移酔い〟したほうがよっぽど楽」

 どうやら何人かがこっそり〝錯覚系統〟で対策しようとしていたが、釘を刺すような言葉に躊躇したらしい。ぱたりと〝気配〟がやむ。


「もし」

 馬車の中から、今度ははっきりとエステルの声が聞こえた。

「元帥である貴方ならば……。私の手を取ることを許しましょう」

 随分と上から目線ではあるが、不思議と腹は立たない。車の扉の向こうから聞こえてくる声は、先ほどよりもはっきりと聞こえる分、怯えているのもわかる。

 だがキラは、一瞬、返答に詰まった。

〈そ、それはまずいぞ……〉

〈う、うん、避けないと。現教皇の娘を〝魅了〟でたぶらかすだなんて……大問題にもほどがあるよ!〉

 コンマ数秒の間に頭をフル回転させて、ちらりとリーウの方を伺った。


「さ、さっきも言った通り、僕はとことん〝転移〟に弱いんで……。なんなら、みんなで一緒に手を繋ぎます?」

「皆で……?」

「ここ、結構暗いし、馬車の中だと余計に孤独感が増すというか……。酔いが軽減するかは置いておいて、誰かと話しながら〝転移〟したほうが、気持ちは楽でしょう?」

「一理ありますね」

 ドアがカタリと開いて、エステル・カスティーリャがその姿を表す。

 純白の司教服姿の彼女は、まるで花嫁のようだった。頭巾を目深にかぶり、伏目がちにしずしずと現れる姿に、誰もが見惚れる。


「じゃあ……リーウ。エステル様の手をとって……」

「私……なのですね。キラ様ではなく」

「や、ほんと、乗り物酔いの比じゃないくらい酷くってさ。もしも寄りかかって倒れようもんなら……。僕の首が飛ぶ」

「キラ様であれば、どのような状況でも抵抗しそうなものですが……。しかし、確かにトラブルは避けたいものです。――ということで、エステル様、お手をよろしいでしょうか」

 リーウが差し出した手を、エステルは意外そうに見つめてぽそりと呟いた。


「思えば……。誰かと手を繋ぐことなど、ほとんどありませんでした」

「ああ……。私は弟が三人居るので、手の取り合いをされていましたが……こうして大人になってからは、滅多に手を繋ぐ機会はありませんね。握手くらいでしょうか」

「私は……。〝カスティーリャ〟ですゆえ。触れるものは、私の意思に依りません」

「はあ。難しいところはわかりませんが、エステル様はご自身の思うようにされているのかと……。今在る地位は……というより、元来、〝立場〟とはそのために在るものでは? 誰にも何にも、邪魔されずに正しい行いをまっとうできるように存在するものなのかと」

「――」

 エステルはじっとリーウを見上げたのちに、セドリックとドミニクを順に見やり……最後に、キラの方へ目を合わせた。


「〝元帥〟。そうなって、どう思いました?」

「へ……? 何かが変わったか、と? ……いや、特に、何も」

「……。――。〝転移酔い〟になりやすいと、話していましたね」

「はあ、まあ」

「では、転移後、私の馬車に乗ると良いでしょう」

「それは……ありがたい話ですけど。……く、首、飛ばない?」

「ふ……ふふ。その話し方、面白いですね。その自然体で、もっとお話を聞かせていただきたいのですが、よろしくて?」

「いいです……いいよ。……僕の首は?」

「ふふ……」

 一向にその疑問には答えてくれなかったが……。ずっと難しい顔をしていたり、平静を努めた顔つきをしていた彼女が笑ったことで、どうでも良くなった。




 案の定。

 第十師団支部〝カンセル〟を出発する頃には、キラはエステルの前で横になっていた。

「よほど……。相性が良くないご様子。私としては、楽しさすらありましたが」

「うぅ……。面目ない。どうも……ずっとこの調子で」

 教皇の娘が乗る馬車とだけあって、車内は快適空間だった。二つの向かい合う座席は幅が広く、沈み込むほどに柔らかなクッションを使用している。流石に横になって寝ると膝を立てねばならないが、それでも下手をすれば寝入ってしまうほどに心地がいい。

「〝元帥〟という目でみれば、確かにそうなのでしょうね。騎士たちの中には、貴方の若さも相まって、下に見る者も出てくるでしょう」

「ぐ……。はっきりと言われると……」

「しかし一方で、大会での貴方の姿を目に焼き付けた者たちがいることも事実。私もその一人……。なので……どうかお気になさらず」

「どうも……」

 セレナお手製の酔い止めは確実に効いているものの、気持ち悪さが完全に無くなるわけではない。吐き気がない分まだマシなだけで、会話を続けられる気力はない。

 ただ、声に出さない〝声〟で話すには、さほど労力は必要なく……。

〈慰め方、下手じゃない?〉

〈ん、ん〜……。ちょっと。ちょっとだけね。教皇の娘ってくらいだから、きっとこう言うことは経験ないんだよ〉

〈仮にも説教する立場の聖職者が、それじゃダメなんじゃ……〉

〈う、ん〜……。かも……んー……ねー〉

 七年前に命を落とすまでは、エルトも〝聖母教〟信仰者だったのだろう。びっくりするほど曖昧に肯定する。


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