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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
7と2分の1章

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714.2-6「山場」

 リリィは首都アルメイダから哨戒基地までの旅を第一関門と称していたが……キラにとっては、出発が最大の山場といってもよかった。

 本命は〝贋の国〟アベジャネーダでの潜入任務だが、表向きは聖母教〝司教〟エステル・カスティーリャの護衛。

 それも、〝王都武闘会〟という人目の集まる場で、新しい〝元帥〟に対して依頼するのだと、大々的に公表したのである。

 その注目度たるや。出発するだけというのに、まるでパレードだった。


〈ハァ……ハァ……。つ、疲れた……息切れする〉

〈もう。ここからじゃん〉

 午前八時。

 エグバート王国女王ローラ三世の執務室にて、護衛任務を正式に受諾……文字が下手くそなキラの代理人として、〝専属秘書〟リーウがサイン。同席した〝見習い〟セドリックとドミニクも含めて、聖母教〝司教〟エステル・カスティーリャと対面した。

 エグバート王国、竜ノ騎士団、聖母教――それぞれのトップ同士での打ち合わせである。


 午前八時三十分ごろ。

 〝教国〟ベルナンドの〝アルマダ騎士団〟と合流し、陣形の最終調整。

 エステル・カスティーリャの乗り込む豪奢な馬車を先頭にして、キラが馬に跨りその横を陣取ることとなった。

 この馬車の後ろに続くのが、新元帥が選出した精鋭……すなわち〝見習い〟二人と〝専属秘書〟一人である。この後ろに、〝アルマダ騎士団〟九十名が配置されることとなった。


 来る午前九時。エグバート王城出発。

 王城正門〝ウラキ門〟から出てすぐ。〝王城前広場〟には、大勢の見物人が集まっていた。声援を送ったり、名前を叫んだり、ただただ叫んでみたり。

 〝転移の魔法陣〟のある竜ノ騎士団〝流通局本部〟まで人混みが絶えることはなく……手を振りかえすような余裕もなかったキラは、ただただ、毅然とした姿勢を保ち続ける他なかった。エルトに泣き言をいいながら……。


〈セドリックたちも駄弁る余裕なさそうだし。ってか、馬寄らせる余裕とかなさそうだし。微妙に距離あるんだよ……〉

〈そりゃあね。けど第十師団支部に到着したらマシになるよ〉

〈でもあっちでも見物客多そう……〉

〈だから言ったのよ。マシになるって〉

〈はあ……。てかさ……。〝元帥羽織〟、なんかもう広まってたんだけど? 目をつけられた……〉

〈ふふ、誰によ〉

 ケタケタと笑うエルトに、キラは再びため息をついてしまう。ただ、それは頭の中だけにとどめて、表には出さないようにする。


「元帥。準備、整いました」

 ガチャ、ガチャ、ガチャ、と。わざとらしく音を立てながら、フル装備の騎士が目の前に立つ。

「ああ、そうか、〝転移〟……。うぅ……苦手なんだよねぇ……」

「……は?」

「いや、こっちの話……。じゃあ、その、頼みます」

「――はっ!」


 以前、〝グエストの村〟にランディの訃報を知らせるため、ここ〝流通局本部〟の〝転移の魔法陣〟を使ったことがある。

 第一師団支部のドーム状のものとは違い、真四角に築かれた空間にあった。その中央に直径三十メートルはあろう魔法陣が床に刻まれ、〝魔鉱石〟を砕いたものが敷き詰められている。

 この特殊な空間に、リーウたちだけでなく、〝アルマダ騎士団〟の面々も声を抑えられなかった。興味深そうに顔を巡らしながら、ざわざわと話し声が響く。


「もし……」

 小さなざわめきに混じるくらいの声が、馬車のほうから聞こえた。最初は気のせいだと思ったものの、エルトに促され、慌てて馬を降りる。

「えっと……。どうか、しましたか。エステル様」

「私は、このまま待機したほうがよろしくて?」

 ドアを開けないまま、そしてか細い声音も小さめの声量も変えないまま、話を進めるエステル。キラは思わず〝覇術〟で聴覚を尖らせて、なんとか聞き漏らさずに返すことができた。

「あ……。三回に分かれて〝転移〟はするんですけど、人も馬車も馬も丸ごと移動できるので……。そのまま待っててもらえれば」


「そうですか。しかし……〝転移酔い〟とやらがあると、聞き及んでおりますが」

「う……」

「う?」

「いえ……。その、〝転移〟が初めての人は平衡感覚がズレることがあるので……。なるべく、慣れた人に手を繋いでもらうとかしたほうがいい……です」

「おや。それでは元帥にお頼みすればよろしくて?」

「ああ……それが……。僕はとことん〝転移〟に弱くって。正直、役立たずです」

「まあ。さきほどの『う』は、その『う』でしたか。あなたにも、苦手なものがおありのようで」

「……? 苦手ばかりな気が……。人目嫌いだし、注目浴びたくないし、人混み見たくないし」

「すべて同じ意味合いですね。しかし……では、隠すのがとてもお上手と言うことですね。羨ましい限りです」

「はあ……」

 何が言いたいのかはっきりとせず、キラは続きを待ったが、それ以上ドアの向こう側から声が響くことはない。〝弐ノ型〟を解いて、エルトに話しかける。


〈キラくん、わりとポーカーフェイスなところあるんじゃない? 気を張った時限定で〉

〈なんか……。なんか……。棘あるなあ。エルトも、この人も〉

 不思議に思っている間にも、着々と〝転移〟に向けて準備が進められている。

 先ほどの騎士が、〝アルマダ騎士団〟に向かって説明を行なっている。

 〝転移酔い〟に備えて手を繋ぐようにだの、馬からは降りたほうがいいだの、万が一のことを考えて魔法は一切使わないようにだの。

 現教皇の娘の護衛につく騎士たちも、初めての体験に戸惑いを隠せていない。

 そんな中で、竜ノ騎士団に入ったばかりの新人たちが落ち着いていられるわけもなく……。


「キラ様、あの、あの、手を繋いでもよろしいでしょうか。怖いと言うわけではないのですが。断じて」

「な、なあ、キラ。どうすりゃいいんだよ、なあ?」

「失敗……。失敗したら……」

 三者三様に詰め寄ってくるリーウたちに苦笑し、キラは朝から続く気疲れが忘れられた気がした。


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