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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
7と2分の1章

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733/961

709.2-1「元帥室」

 午前八時五十分。

 〝西部騎士寮〟の正門にて。〝元帥羽織〟を着て友達二人の到着を待っていると、随分と人目を集めてしまう。

 すでに本部内では、黒染めの羽織の意味が浸透している。

 異例も異例な入団を果たした〝元帥〟の象徴……それが、出勤で正門を潜ろうとした時、あるいは、巡回しようと正門から出て行く時に目に入るのだから、皆が一瞬だけ硬直する。


「お、おはようございます、元帥」

「おつかれさまです、元帥」

「おぁ、キラさん……? なんでこんなところに……」

 通るたびに声をかけられ、面倒に思ってしまうが……無視をして妙な反感を買うのも望むところではない。適当に手を振ったり、返事をしてみたり、コリーとは少し話し合ってみたり。

 それでも苦手なものは苦手であり……。


〈早いほうがいいかなって思って待ってるけど……。ああ、二人とも、早く来て……〉

〈変なことはしてないから、そんな意識することもないと思うけどな〜。もうちょい胸張りな?〉

〈胸を張る……? 自信なさげに見えた?〉

〈大体そう見えるよ。ほんと、戦場で戦ってる時とは別人みたい〉

〈そう言われてもね……。会話ができればなんとかなるんだよ。だけど、ただ挨拶するだけとか、苦手〉

〈それはわかるけどね〜。お、二人、来たんじゃない?〉

 セドリックとドミニクは、支給された騎士装束を身につけて、軽いランニングで近づいてきた。


「馬車でくるかと思ったけど、歩いてきたんだ。大変だったんじゃない?」

「まあ、用意されてはいたんだけどな。けど、やっぱ目立つし、巡回任務も当面できないってことで、軽く走ってきた」

「っていえないくらいには汗ダクダクだけど。大丈夫?」

「お、おう、問題ないっての。けど……タオル、あったらなあ、って」

「ドミニクに魔法で冷やしてもらいなよ。夏なんだし、舐めてたら熱中症でダウンしちゃうからさ」

 キラは〝氷の魔法〟で涼む二人を連れて、〝本部棟〟を案内した。職員たちが忙しなく動き回る棟内の雰囲気に、二人とも何やら気後れしたらしい。


「話しがちげぇじゃん……! 意識するほどでもないって、どこがだよ!」

「ええ? 普通じゃない? みんな働いてんだから」

「そりゃそうかもしれないけどさ……。なんか、こう、みんな……みなさん、機敏なんだよ」

「改まっちゃうほどかな? そういえば、二人のとこの騎士寮ってどんな感じなの?」

「〝東部第一〟と同じだよ。騎士専用の宿っていうか……」

「まあ、寮って言うからにはそうか……。でも大丈夫。〝元帥室〟のある三階は、そんなに人いないから。事務員さんはいるけど」

「キラも平気なわけだよ……。ってか、お前、今どこに住んでんの?」

「基本、エルトリア邸だよ。元帥になったから、もう〝くるぶし亭〟は引き払っちゃってさ。〝元帥室〟には寝室もあるから、昨日は本部に泊まったんだけど」

「へえ……。そりゃ元帥だもんな。個室か……。いいなあ」


「二人は何人部屋?」

「俺八人。下級騎士が二人で、見習い六人。割と窮屈だぞ……。二段ベッドが両側の壁に二つずつ並んでさ。それ以外にスペースないから、基本ベッドが私室なんだよ」

「おお……。それはまた……」

 想像するだけで鬱屈とする空間に、キラは苦い顔をするしかなかった。するとそこで、ドミニクが平坦な口調ながらも、勝ち誇ったかのようにいう。 

「私は四人部屋。広々」

「えっ。なんでだよっ。男女の比率、おんなじくらいだろ?」

「運」

「くっそ……! いいなあ……!」

 変なところで争い出す二人に笑いを堪えながら、キラは階段を上がる。


「そういえば二人とも。本部に来る時、何か言われたりした?」

「ん? いや、俺は別になんも……。下級騎士の一人がさ、俺のこと知ってて。〝黄昏事件〟に対処した〝第五師団支部〟に先輩がいるらしくって……で、妙に納得された」

「私もほぼ同じ。意外とあの時のこと、広まってるみたい」

 セレナも言っていた通りに、あまり心配する必要もなかったらしい。キラはホッとしつつ、階段を上り切った。


「こっち、僕の部屋」

「軽くいうし、それ受け入れてたけど……改めてすげえのな」

「考えてみれば、〝元帥室〟なんて一生縁がないヒトもたくさんいるのに……」

 なぜか萎縮してしまう二人に笑いつつ、扉を開ける。執務室らしい上質なしつらえに感嘆の声を上げ、逆にキラは首を傾げていた。


「あれ……。誰もいないな」

「おん? 俺らだけじゃないのか?」

「まあね。一応、秘密任務の説明だから」

「けど……。お前、元帥じゃん?」

「……。嫌味言うね」

「そのほうが俺らとしちゃ気が楽って話だよ。そんなことよりさ。座っていいか?」

「どこでもどーぞ」

 セドリックもドミニクも、子どものようにソファに飛び乗った。弾力がありながらもふかふかな座り心地に、奇声じみた歓声をあげる。


「リーウもいないなんて、どこに……。うん?」

 キラは、室内に備え付けられた扉に注目した。

 〝元帥室〟には、執務室の他に寝室も備わっている。右手の壁、暖炉の向こう側の扉がそうである。ほかにもクローゼットルームもあるものの、寝室からしか行けない。

 すなわち、〝元帥室〟にある扉は一つのみ。

 というのに、寝室の扉の向かい側……左手の壁の奥の方に、もうひとつドアがあった。

 何やら真新しく、セドリックたち二人の楽しそうな声にも負けないくらい騒がしい声が聞こえてくる。


〈あんなとこに扉なんてなかったよね?〉

〈リリィたちの声するね〜〉

〈ええ……?〉

 警戒する必要などないことはわかり切っていたが、それでもキラは足音殺してそっと近づいた。

 扉には真鍮のプレートが打ち付けられてある。


「リリィ&セレナ……」

 何が起こったか、全容は掴んだ。が、十分ほど前までは確かになかった扉の存在がにわかには信じられず、幻でも見せられているのではと思いながらノックをしてみる。

「あ。キラくん」

 普通に。かちゃりと扉が開いて、クロエが現れた。

 図書館でばったり出会した時と同じく、白シャツに黒のパンツスーツ姿。以前プレゼントした月をあしらったヘアピンもつけてくれている。

 違うのは、いつもの彼女らしく首元までぴっちりとボタンをとめているところくらい。袖にしても、五分袖までと短めになっている。


「えっと……。これは……一体?」

「私はきちんと止めました。婚前の男女が、鍵もない扉一枚で自由に行き来できるようになるなど……そんな羨ましいことはあってはならないと」

「……。たぶんさ。止める理由、間違ってる」


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