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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
7と2分の1章

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700.1-7「逆転」

「ベルナンド国内での動き方はまた後日。セドリックさんたちも交えてブリーフィングを行うことにします」

「わかった。今日はこれで終わり……ってことはないよね。元帥になっちゃったんだし……。なんか、いきなり仕事ありそう……」

「普通は逆になるところですが……さすがキラ様と言ったところでしょうか」

「……。なにが?」

「即時〝元帥〟昇格も異例ですが、入団後すぐに任務を任されることもまた異例です。しかも、失敗してはならない内密の作戦です。これをいきなり突きつけられて、平常心でいられる人間はごくわずかでしょう……。普通に仕事している方がまだマシというものでは?」

「あー……。突然巻き込まれるってことが、もう日常茶飯事になっててさ……。ほんと、毎回毎回……。なんか裏切られて狙われるし、なんか捕まって拷問されるし、なんか目をつけられて死にかけるし……。こうやって事前に説明されるだけでも、だいぶマシというか、気楽というか……」

「し、心中お察しいたします……」


 流石のセレナも同情以外に何もできないようで、若干引き気味に呟いていた。

 リーウが、ふぅ、と大きく息をついたところで、セレナは元帥としての表情を取り戻す。メモ帳に目を通し、いくつかリーウに助言をして、顔を上げる。


「で、何かするの? 挨拶回りとか?」

「任務開始はもう四日後ですので、そういった諸々は後回しにします。今日の午後からは新人研修に合流していただくことになります。それと、リーウさんも別カリキュラムで、私の〝専属秘書〟をこなしてもらいます」

「おおー……。研修。頑張ろう」

 キラがそう声をかけると、リーウが気合を入れてうなづいた。




 通常、竜ノ騎士団に新しく入団した見習い騎士たちは、新人式ののちに発表される配属先へ向かうことになる。

 先ほどセレナが話していた通り、一部例外を除いて、出身地に一番近い勤務先に割り振られる。

 新人たちにとってはドキドキの瞬間ではあるが、内情を知ったキラにしてみれば、さしたる感想もない。


 三百人ほどの新人たちの中から、王都に配属となったのは五十五人。

 そこからさらに各〝騎士寮〟に分けられるのだから、かなり少ないと言えるだろう。

 事実、セレナも数に関しては〝不作〟と評していた。受験者数は例年通りなものの、合格者の割合が前年に比べてガクッと落ちているという。

 ただその反面、合格者の質はすこぶる良く、セドリックとドミニクをはじめとして粒揃いらしい。

 支部へ配属にはなったが、〝西部騎士寮〟に確保しておきたい人材もいるのだとか。

 その一人にバックスの名前も……。どうやら、予選決勝での自滅覚悟の執念がセレナの評価に繋がったらしい。キラとしては苦いものを感じざるを得なかった。

 そういった士官クラスのみが知り得る事情や、〝領土奪還作戦〟に付随する様々な注意事項を聞きつつ、昼食を取り――〝東部第一騎士寮〟で行われる新人研修、通称〝三日研修〟に合流した。


「なあ、キラ……。お前、こっち側でいいのかよ……?」

「え? だって……そんなの聞いてない」

 〝東部第一騎士寮〟に着くと、運良くセドリックと鉢合わせることができた。ドミニクとミリーも一緒であり、新人式が終わった後、ずっと共に行動していたらしい。

 ただ、グラウンドで整列する時には、ミリーは一人離れた場所にいた。寮ごとに並んでいるため、自然と離れてしまうのではあるが……同い年くらいの女子見習いと一緒にいるのを見るに、良いスタートを切れたようだった。

 和気あいあいとした様子を見て安心し、キラも〝東部第三騎士寮〟組であるセドリックとドミニクの後ろに並んだのである。


「厳密にいうと」

 ドミニクがセドリックに続いて言う。

「あなた〝見習い〟でもないし〝東部第三騎士寮〟配属でもない」

「そんなこと言ったってさ……。前に行くのなんてヤだよ。みんな見てるし……しかもあの教官、めちゃくちゃ怖そうじゃん」

 新人騎士たちの列の周りには複数人待機している。おそらくは見習いの指導を任された上級騎士たち。

 その中におけるリーダーのような人物が、キラたちの目の前にいた。

 鎧など必要ないのではと思うほど、濃い男だった。

 腕も足も腰回りも首周りも頭も何もかも、デカい。ヒゲもモジャモジャで顔もいかついとくれば、腕を組むだけで威圧感凄まじいその姿は、まさに山賊の頭である。


 騎士たちを厳しく指導せねばならないという立場もあってか、

「そこ。静かに」

 新人騎士たちの中に〝元帥〟が混ざっていようとも、全く意に介した風もなく注意してきた。

 フゥぅぅ……と消え入りそうなため息が続くのを見る限り、彼も彼で随分な心労らしいが、それでも役割を全うしようというメンタルを持ち合わせていた。

 真面目な教官に恥をかかせないためにも、キラはそれ以上の私語を謹んだ。


「さて……。これより、〝三日研修〟の説明をする。――改めて。私はバンガー。一連の研修の教官である」

 強面なバンガーを前に、見習いたちはざわつきもできない。

 そんな彼らに対して、周りをウロつく騎士たちが口々に叱責する。

「上官だろうが! 挨拶くらいしろよ!」

「まずァ声出せ、声!」

「ンなんじゃあ肝心な時に腹に力入んねェぞ!」

 もはや輩。

 発破をかける騎士たちは、皆チンピラのような出立をしていた。坊主頭に剃り込みを入れていたり、刺青が首元から見えていたり……明らかに、普通の出自ではない。

 教官たちの迫力に新人たちはビビり、それぞれに声を出す。まばらでバラバラで、まとまりには欠けていたが、誰もそのことに対しては何も言わなかった。


「ほら、もっと出るだろ!」

「女でも関係ねェから!」

「だべってる時より小さいなあ!」

「よく聞こえないんですがァ!」

 〝隠された村〟で散々苦渋を舐めてきたセドリックとドミニクにとっては、おそらく何の恐怖にもなっていない。

 新人たちの中でも、頭抜けて大柄な少年と、逆に小柄な少女は、一発で二人とわかる圧力を喉から発した。


「おお……。セドリックはともかく、ドミニクは意外だ」

「……魔法で拡張した」

「ずる」

「指摘されなきゃいい。そういうキラはどうなの」

「……どうすればいいんだろ? 上官って言うなら僕の方じゃん?」

「……案外。元帥も難儀かも」


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