695.1-2「新人たち」
「で……。僕も新人だからってことで、とりあえずはこの宿に来たんだけど……。これから何するの?」
「〝北部第二騎士寮〟にある大講堂で新人式を行います。通常、新人騎士はここで配属先を伝えられ、王都に留まるなり支部に出向くなりします」
「配属先か……。セドリックたちはどうなの? っていうか、どんな感じで割り振ったの?」
「なるべく出身地に近いように配慮しています。場所によって気候も食べ物も変わりますし、それで大きく体調を崩すということもありますから。なにより、家が近いというのは精神的に余裕が生まれます。逆に、地元に何かしらの因縁やトラブルがある場合などは、どこか離れた支部に配属となります」
上級騎士たちも初めて聞くことなのか、各々声が漏れている。
「なので、セドリックさんとドミニクさんは王都配属……〝東部第三騎士寮〟配属となります」
「よかった……。ミリーは?」
「……? ――。また新しい女ですか。リーウさんといい、エレナさんといい……。本当に引っ掛けるのがお上手ですね」
「お……。い、いや、ちが……。あれ、話さなかったっけ? 冒険者ギルドの依頼で一緒になった女の子」
「……ああ。ナタリーさんのところの。あの子ももちろん王都勤務となります。〝北部第一騎士寮〟……だったかと」
帝国とまだ戦争をしていた時……出会った頃を思えば、今のセレナはまるで別人。
感情豊かに、コロコロと表情が変わる。殺気にも似た嫉妬の気配が溢れていたり、子ども相手とわかって少し恥じたり。
それでも、他人からすればいつもと変わらない無表情っぷりではあるが……〝おまじない〟な顔つきとは、全く別物の無表情だった。
「新人式ってのは、僕も出たほうがいい? ちょっと興味はあるんだけど」
「それが……。キラ様は〝聖母教〟からの初任務が控えていますので、そちらの説明にお時間を割いてもらいたいのです。むろん強制はできませんが」
「んー……。新人式ってどういう雰囲気か味わいたかったけど……仕方ないか。あ、でもさ、東部……北部……なんたら……。大講堂の手前まで行ってみてもいい?」
「〝北部第二騎士寮〟ですね。もちろん、構いません。その間に私の方で準備をしておきましょう」
「本部に行けばいいんだね?」
「〝リンク・イヤリング〟がありますので、リリィ様に手配していただけるよう話を通しておきます」
セレナの右耳でチラリと光る〝リンク・イヤリング〟。長方形の板のようなチャームがチラチラと揺れ、その存在感が目につく。
「いいなあ、イヤリング」
「普通であれば、すぐにでもお渡ししたいところなのですが。――その前に」
口早にぼそりと告げてから、セレナは一列に並ぶ十人の騎士たちを見やった。
〝北の三番〟宿にあてられた志願者たちは、キラ以外皆不合格。本来ならば新人式まで世話を焼いたところ、その役割がなくなっている。
そういうわけで騎士たちは、セレナのテキパキとした指示により他の応援に向かうことになった。元帥の指示だけあって、疑問も挟まずに即行動に移す。
数十秒後にはセレナと二人っきりになり……キラはエントランスホールに声を響かせた。
「別に良かったのに。もう〝授かりし者〟ってことを隠す必要もないでしょ。それに、何度も話したじゃん……〝覇術〟、使えるようになったんだよ」
「それはそうですが……。万が一ということもあります。最近、この王都でもきな臭い事件が起きていますので。用心に越したことはありません。キラ様も、くれぐれも気をつけていただくようにお願いします」
「セレナがそこまでいうなら……。けど、〝リンク・イヤリング〟が使えないってのは残念……。魔法陣が刻まれてるとか何とか言ってたし、魔法使いじゃないと、って話だよね?」
「すでにエマには相談していますが、別件で手を離せる状況ではなく……。〝鬼才〟とされる彼女のことですから、取り掛かれば何かしら進展してくれるでしょう」
「ふぅむ……」
一瞬だけ、とあることが脳裏をよぎった。
〝奇才〟レオナルドが〝幻覚の魔法〟で作った〝パレイドリアの村〟……その外れにあった〝神殿〟。
レオナルドも想定外だった〝幻覚〟の暴走により、おそらくは〝神殿〟そのものが本来の姿を取り戻し……キラとエルトは危うく殺されかけた。
〝強制転移〟とやらで〝神殿〟から放り出されたが――いつの時代からあるかもわからぬ〝神殿〟には、〝転移〟の技術が存在している。レオナルドは、それを元に〝転移装置〟を作ったという。
ならば。〝石板〟由来の〝転移〟も、そういう改造ができるのではないだろうか。あるいは、レオナルドの〝転移装置〟を流用すれば……。
第九師団〝師団長〟エマ。話に聞く〝鬼才〟に直接会って話すべきなのかもしれない――〝リンク・イヤリング〟の件はもとより、〝神殿〟、ひいてはレオナルドの〝ラボ〟についても。
問題は、そこまで深い話をしていい相手かどうか。〝始祖〟を相手どった〝作戦〟に絡めてもいい相手なのかどうか。
これから見極めていかねばならない。
「では、キラ様。そろそろ出発の時間となりますので」
キラはセレナに促されて、〝北の三番〟を後にした。
実際に入団試験を受けたのは約千五百人。そこから合格を受けたのは三百人程度。
試験人数から考えるとかなり減っており、試験前のような人混みによる圧迫感はなくなっていた。
「〝北の三番〟は僕一人……」
それぞれの宿の前では、大講堂でおこなれる新人式に向けて列が作られ始めている。
緊張した面持ちの新人騎士たちが、宿から出てきては、監督官たる上級騎士にせかされて、列に加わる。
だいたいが二十人前後。名前順か試験番号順か、二列になって点呼を受けていた。
そんな中で、〝北の三番〟合格者はキラただ一人。
宿の前で立ち尽くしていると、それだけで注目の的。しかも異例の〝元帥〟昇格とだけあって、新人騎士も監督官も関係なく、好奇心に負けてしまう。
「居心地悪い……」
すでにセレナは本部に向かって飛んでいった。こういう時にはいつもはしゃぐエルトも、今は二日酔いでダウン中。
キラはいつも通りに〝センゴの刀〟に左手を乗せて、南の方へ足を向けた。
これまでに度々浴びてきた注目と違うのは、単なる野次馬根性ではないということ。
上級騎士たちとすれ違うたび、皆一様に、右手の拳を胸に当てる〝竜ノ騎士団〟式の敬礼をしてくる。好奇心に負けて呼び止めるようなことはしない。
どうやらセレナの言っていた元帥に対する禁則事項は、思った以上に強力に働いているらしい。
その代わり、新人騎士たちには何度か声をかけられそうになったが……。その全てを、上級騎士が慌てて止める。有無も言わさぬ圧力で反論を殺していた。




