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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第7章

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エピローグ

 〝王都武闘会〟の閉会式では散々な目にあったと、キラはエルトリア邸の自室でため息をついていた。

〈あ〜……。やだ〉

 ――っるせえぞ! さっきから! さっさと寝ろ!

〈寝っぱなしだったから目が変に冴えてんの! 馬はいいよね、馬は!〉

 ――舐めてんのかっ! 静かにしろよ!

 閉会式が終わり、〝元帥〟の称号を受け取り、〝総帥代理〟であるシリウス・エルトリアの祝福を受けながら盛大な夕食をみんなと共にいただき……キラは、一人、ベッドに潜っていた。


 ほとんどの場合、リリィやセレナが一緒に寝ることになるが、〝王都武闘会〟の運営側である彼女たちにとってここからが本番。

 出場騎士の戦闘評価や下剋上での昇格などなど、〝元帥〟の役割が多く詰まっているのだという。

 しかもここに、騎士団の入団試験も重なっている。〝疫病〟試験の内容確認から、新人騎士たちの勤務先や寮の割り振りなどなど……リリィたちがこなすわけではないというが、ともかく多忙を極めている。

 キラも晴れて〝元帥〟として入団したため、その手伝いをすべきかと思ったが……ベッドに押し倒されてしまった。そうして、寂しくひとり布団をかぶることになったのである。


〈結果は上々……。っていっていい?〉

 激しい戦いの後は、大抵大怪我を負って、ベッドでうなされるばかりだったが……今回は違った。目立つ怪我といえば、ユニィの蹄により一部皮がめくれた左腕くらい。

 包帯を巻く量がそれだけで済んだのは、〝防御面〟と元々の〝頑強な身体〟のおかげだった。

 ユニィの蹴りをまともにくらい、壁にめり込んだ時にはリリィの説教コースかとも思ったが……。


〈ん〜? ユニィ相手ってこと考えれば、いい線だったと思うよ。最初はともかく〉

〈うぅ……。それは言わないで〉

〈ふふ……。けどね〜……へへ。閉会式のあのオドオドっぷり……ダメだねっ〉

〈あれは……。ってか、酔ってる?〉

〈え〜? 別にぃ?〉

〈そりゃ、さっきお酒は飲んだけど……。なんで僕は平気でエルトは酔うの〉

〈んー……ふふ。さあ?〉

 言葉はしっかりしているものの、口調はふにゃふにゃ。酔っ払いを自分の中で飼うという摩訶不思議な珍現象に、キラは唖然としてしまった。


〈……ご〉

〈ご……?〉

〈すぅ……〉

〈ああ、寝たんだ。それもよくわかんないけど〉


 すやすやと寝入るエルトの寝息を音楽に、キラは閉会式でのことを思い起こした。

 ユニィとの決着は、よく覚えていない。

 〝赤い雷〟を〝コード〟で引き出したところや、〝雷業〟を打ち出そうとしたところまでは記憶がはっきりとしているが、それ以降はあやふや。

 リリィによれば、結果は引き分け。

 〝赤い雷〟によりユニィが倒れたというのだが……キラは到底信じられなかった。意外と気が効くところもある白馬が、その場の空気を読んだといったところだろう。


 とんだ八百長試合だと思ったものだが、リリィやアランをはじめとして、試合を観戦していたヒトたちにはそうではなかったらしい。

 どうやら、エルトの〝雷業〟によるインパクトは相当なもののようで、観客半数が気絶してしまったことを〝一万人ショック〟などと呼んでいた。

 大半がものの数分で目が覚めたというが、そうでなければ批判は必死だっただろう。


 キラが医務室で目を覚ました時にはすでに閉会式が始まっており……〝元帥〟の授与式が行われるところだった。

 衆目に晒されるということで遠慮願いたかったものの、もちろんそんなことは叶わず。

 リリィに付き添われて、闘技場の中心に向かうことになった。

 てっきり、騎士団の〝総帥代理〟であるシリウスから何かしら受け取るものと思っていたが、違った。


 待っていたのは、元国王のラザラス、現国王のローラ三世、聖母教〝司教〟エステル・カスティーリャの並び。

 シリウスはクロエと共にその三人の後ろに控えており、目が合うと苦笑いしていた。

 この大層な顔ぶれが出迎えるのは普通ではないと、流石に察しがつく。だからといって、どうすることもできなかったが。


 最初に、ローラ三世からねぎらいの言葉。次に、ラザラスからこれまでの活躍への賛辞と感謝。

 そして最後。

 〝教皇〟カスティーリャの一人娘、エステル・カスティーリャから、〝聖母教〟の総意として〝元帥〟就任への祝福の言葉を受け取った。

 てっきり、噂に聞くローラ三世の戴冠式のように派手なパフォーマンスに晒されるのではと不安視していたため、静かに終わりそうでホッとしていたのだが……そうではなかった。


 エルトも、リリィやアランも、観客たちも。ぎょっとし、驚き、驚愕していた。ざわっとした空気が肌を打つかのよう。

 ラザラスは多くの反応に満足し、逆にローラとクロエはため息をついており……どうやら、キラの想像とはまるで別の事態が起きたらしかった。


 興奮気味のエルトによると。

 〝聖母教〟による〝元帥〟就任の正式な認定は、過去に一度もないのだという。

 国王の即位の際にはその権限を見せるものの、〝教国〟以外の諸外国が持つ軍隊に対しては〝黙認〟という体裁を一貫して保っている。

 〝聖母教〟の本質的に、戦いを生む軍事力を賞賛できないものの、一方で国を守るためという重要な役割を担うため、口出しをしないというスタイルを貫いているらしい。


 バカみたいな話だと返したところで、キラはことの重大さに思い至った。

 〝教皇〟の娘たるエステルが、二万を超えるエグバート王国の国民の前で、〝元帥〟であることを正式に認めた――その事実は、それこそ〝世界新聞〟が飛びつくほどの超特大のスクープである。


「はあ……。もう気にしないでおこう」

 キラはため息をついて、これから起こりうる諸々の注目度を頭から振り払った。

「それよりも……。〝元帥〟としての任務がもう決まるなんて」

 エステル・カスティーリャが〝王都武闘会〟で注目を浴びる立ち振る舞いをしたのは、おそらくはその任務の公表が狙い。

 〝元帥〟就任の祝いは、いってみれば副次的なものだったのだろう。

 というのも、晴れて〝元帥〟に就いたキラに対して、〝教国〟ベルナンドの首都アルメイダまでの護衛を依頼したのである。


「明日説明してくれるとかいってたけど……。何の説明?」

 何かが水面下で動いているような気はしたが……。

 ――寝ろっつったろ!

 どうやらボソボソとしたつぶやきが〝覇術〟で流れていたようで、キラはおとなしく目を瞑ることにした。




二週間ほど投稿をお休みします。

再開は8月21日(水)。

よろしくお願いします。

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