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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第7章

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693.渦中

 おかしな火事だった。

 火の手が上がっていたのは三階建てのアパートメント。その二階から上が燃えていた。

 二階と三階の窓から黒い煙がもうもうと立ち上っていたのに対して、一階は何事もないかのように無事。


 グリューンは、火事が起こったまさにその瞬間に立ち会ったのである。

 誰かが魔法で火を放ったのだと理解したその時、一階から誰かが出てきた。

 間違いなく放火魔であり、グリューンは考えるまでもなく身を隠した。

 惜しむらくは、咄嗟の出来事ゆえに犯人の特徴をちゃんと捉えられなかったこと。男であることはわかっているが……。


 犯人が姿を消したのち、燃え盛る建物からもう一人の人物が這って出てきた。

 全身火だるま。さすがにグリューンも駆け寄って魔法の水をかけたが、その人物は火に焼かれ続けた。全身が炭化し、左手が取れ、右手は崩れ……。惨い死に様だった。

 思わず目を背けたところで、グリューンの目に入るものがあった。

 開け放たれた玄関先に転がるのは、随分とレンズの分厚いメガネ。そのままでは建物と一緒に炎に飲まれそうなところを拾い上げて……誰のものか、直感した。


「キラの友達第二号……。セドリックって言ったか。あいつらに絡んでた妙な新聞記者……アイツがカインの誘拐犯で、一連の襲撃事件のリーダー格」

「名前は?」

「さあな。こういうやつに名前なんざあってないようなもんだ。新聞記者ってのも本当かどうかわかったもんじゃねえが……気掛かりなのは、やつを見たのが〝招待者シート〟だったことだ」

「幸い、〝招待者シート〟に招いた人物は、騎士団側で全て管理しています。本当かどうかはともかく、新聞記者として訪れていたのならば、時間もかからず割り出せるでしょう」


「あとで調べてみるかな……。そんで、あんたならどう見る?」

「この報告書を見る限り、リーダー格は仲間の安全を第一に動いているように思えます。『手練れ一人』とやらを助けるために、クリーブ・ロードンを騎士団側に売ったのだとしたら……。始末の対象となるのも致し方ないのかと」

「俺もそう思う。ってこたぁ、〝フランツ襲撃事件〟は組織的な計略と考えていいよな」

「ほぼ確実に。となると、何が目的でしょうか……? 王国を陥れるため……?」

「……。そうか。その可能性があったか」

「どの?」

 グリューンはすぐには口に出さず、しばらく熟考した。

 セレナもせっつくようなことはせず、報告書を読んだり、壁を埋めるコルクボードを眺めたりする。


「リーダー格やその殺人犯が〝組織〟として動いていたとして……。〝フランツ襲撃事件〟は目的のための手段だったと言える」

「ふむ。フランツ・サラエボ殿の死が、〝組織〟に何か利をもたらすということですね」

「そ。んで。クリーブ・ロードンはフランツを狙う理由を『国際問題にするため』だとかいってた。『外交問題にかかり切り』になるから、『〝ロードン商会〟が成り上がる』んだと」

「はあ……。確かに、大問題となりますし、現時点を持ってもなかなかの事態ではありますが……。外交問題と商会の成長が、どう繋がるのでしょうか?」

「さあ、そりゃ、ロードンに直接聞くしかねえが……。今、問題視したいのはそこじゃねえ。フランツの死が国際問題になる、ってことだ――つまり、オストマルク公国が動き始める」


「当たり前ですが、愉快ではありませんね。エグバート王国とオストマルク公国とで戦争を起こしたかった、と?」

「もしも、〝組織〟の思惑通りにことが運んでいたら……。戦争がすぐ勃発するとは言わんが、そういう流れになっていたのは確実だ」

「帝国との〝二百年戦争〟も終わったばかりというのに、あまり考えたくはありませんが……。確かに、その可能性は高いですね」

「じゃあ、オストマルクの誰が出張るかって話になるわけで……」

「ミクラー教〝教祖〟……名をモーシュといいましたか。低俗なゴシップばかりであまり好きではありませんが、〝世界新聞〟によればこの世で一番に強い人物だとか……」

「〝元帥〟でその程度の情報ってことは、モーシュってのはよほど面倒な相手ってこった。〝魔法の神力〟を持つ〝授かりし者〟ってことは知ってるか? 〝創造の能力者〟だとか呼ばれてるんだってよ」

「……いえ」

 今度ばかりは、セレナの無表情にもはっきりと感情が現れた。目元も頬もぴくりも動かないが、眉がわずかによって、険しさを作る。


「モーシュが動くその契機を作ろうとしてる〝組織〟は何者か……俺はそれをハッキリとさせておきたい」

「いやにこだわりますね。〝組織〟の存在に。……あなたが」

 含みのある言い方に、グリューンは鼻を鳴らした。

「この国がどうなろうが知ったこっちゃねえが……。元帥になったキラに面倒かけるってんなら話は別だ。ってか、大会の観戦もろくにできなかったんだぞ――一生に一度の晴れ舞台だったんだぞ。企んでること全部へし折って、鬱憤ぶつけてやる……!」

「ふふ……。なるほど。納得できました」

 おそらく。珍しく、セレナが声を出して笑っていた。

 グリューンは呆気に取られて見惚れてしまったのを自覚して、けっ、とそっぽを向いた。


「話を戻すと……。俺は、〝組織〟はてっきりオストマルク公国のもんかと思ってた」

「……? 自作自演をしていた、と?」

「つっても、カインたちの仕業ってわけじゃない」

「――。理解しました。交換留学はフランツ・サラエボ殿が持ちかけたもの。それはすなわち、オストマルク公国の実権を握る〝教祖〟モーシュの意思に他ならない……ベッテンハイム殿たちの目的はともかく、モーシュには何かしらの考えがある。そういうことですね?」

「ああ。その考えってのが、王国に戦争を仕掛けること……と思っていた。ただ……『王国を陥れる』って観点に立つと、もう一つ可能性が浮かんだ」


「では……。モーシュ率いるオストマルク公国ではなく、他の国が絡んでいるものと?」

「エグバート王国に〝守護神〟がいるって話は……そういや、あんたはあの時にはいなかったか。旧エマール領のごたごたが終わった後……」

「その秘密会議でしたら、私も内容は聞き及んでいます。確かに〝守護神〟の存在はエマからも聞きましたが……。ルイシースが裏で暗躍しているのではと……すなわち、〝組織〟がそうなのではないかと、そういう話ですか」

「まあな。可能性で言えば、ルイシースの方が高いんじゃないかとも思う。今回の一連の襲撃事件が〝闇ギルド〟の一件と繋がってると仮定すんなら、なおさらな」

「確かに……。〝教祖〟モーシュが、ベッテンハイム殿を先兵のようにして仕掛けたのだとしたら、さまざまな点で食い違いが起こります。〝闇ギルド〟事件は、ベッテンハイム殿らが来る以前の出来事ですし」


「つっても、カインたちからも目は離せないんだがな。モーシュが〝組織〟とイコールで繋がらずとも、何かしら目的があるってのは確実なんだからよ」

「頭が痛くなる話です……。ともかく、名もしれぬ新聞記者を殺害した犯人を追えば、すんなりと解決に至るでしょうが……」

「俺があの放火魔を追ってりゃよかったんだが……。多分、手に負えなかった」

「懸命な判断です。〝ノンブル〟は情報に命をかけるものですから」

「ふん……」

 いっそのこと疑ってくれた方がスッキリとしたが、それを求めるのは違う。グリューンはため息をついて、無理やり溜飲を下げた。


「〝三人のキサイ〟の……エマだったか。あいつの知恵を借りたい」

「情報の共有はどこまでにしておきましょうか」

「なるべく少ない方がいいが……。そういうのは〝元帥〟で決めた方がいいんじゃねえのか」

「これは〝ノンブル〟であるあなたの案件です。裏切りを働かない限り、全ては〝ノンブル〟メンバーに委ねられます」

「重いな。そしたらそうだな……。今回は事前に防げたんだし、ンなに警戒するほどでもない気はするが……とりあえず、元国王のマッチョジジイと、〝鬼才〟のエマくらいに留めておく」

「ではそのように」


 こののち――。


「そう言えば。目的はよろしいのですか? キラ様を知るヒトを探す……そのために〝ノンブル〟に入ったのだと伺いましたが」

「……今も継続中だ」

「――何か、手がかりがつかめたのでしょうか?」

「まだ言わねえ。期待はするなよ」

「ええ。楽しみに待ってます」

「あんたな……。そうやって逆張りすんじゃねえよ」


 グリューンは、〝ガリア大陸〟から始まる〝世界大戦〟の渦中に巻き込まれることとなるが……。

 まだ、少し。先のお話。


   ◯   ◯   ◯




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