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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第7章

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691.フランツ襲撃事件

   ◯   ◯   ◯

 

 キラとユニィが、一線を画す実力を見せつけたその一方で……グリューンはエグバート王城にいた。

「ったく……。次から次へと面倒が舞い込みやがって……。さっきの地震、絶対キラの仕業だろ。見たかった……」

 王城が有する尖塔の一つ、〝ダラム尖塔〟にあてがわれた部屋。

 一人では使いきれないほどの広さを活用して、自分専用の捜査室を築き上げていた。


 コルクボードを何枚も繋げて壁一面を埋め、そこに画鋲で紙を貼り付けていく。

 内容はもちろん、〝フランツ襲撃事件〟について。

 狙われたフランツとその人物像、彼と繋がりのあるカインたち。フランツを襲った刺客。

 ところどころに注釈のように追加事項をまとめた紙も貼って、視覚的にまとめていく。


「はあ……。ごっちゃになった。最初っからだな」

 グリューンは腕を組んでボードの前に立ち、ふと振り返る。部屋の隅の方には適当に追いやったテーブルと椅子がある。

「一応、報告書としてもまとめとくか……」

 魔法で引き寄せ、続けて万年筆とインクと紙束とをごちゃっと用意する。

 コーヒーも欲しいところだったが、ボードの整理で柔らかくなった頭で集中を維持したかった。


「フランツが襲われたのが始まり……。〝歓楽地区〟近くの広場で六人の刺客に襲われて……〝テレクロス〟で脱出。で、〝王立都市大学〟の空き教室に〝転移〟……」

 〝テレクロス〟だの〝転移〟だの、別件としてオストマルク公国が問題に上がりそうだが、それには一旦眼を瞑っておく。

 最初の出来事を書き留めたところでグリューンは手を止め、ボードの方を見た。


「やっぱ……。人間の違和感ってのは正常に働くのな。どう考えても、六人で一人に襲いかかって逃げられたってのはおかしいんだよ」

 同じ状況で生き延びられるのは、それこそキラと同レベルくらい。

 どんな方法で奇襲したにせよ、最初の一手は襲撃者側にある。それが六人分の猶予があると考えれば……。流石のキラも、傷の一つは負う。

 ましてや、キラよりもはるかに実力の劣るフランツが、〝テレクロス〟を持っていたとしても初めの数秒を凌げたとは思えない。


 すなわち、襲撃者たちは初めから殺すつもりがなかったということになる。

 正確にいえば……。一度目のフランツ襲撃時点において、襲撃した六人には、共通して殺害の意思がなかった。


「で、次だな……。二度目の襲撃事件。これはカインの案で、あえてフランツを囮にして、襲撃者どもを誘き寄せた……。結果は、半々……半々なんだよ」

 ガリガリと万年筆のペン先で紙を擦り、事務的に綴る。その時の事前準備や、カインの使った〝拳銃〟と〝ことだま〟についても。


「襲撃者はとらえられず……。代わりに、暗号化された〝指示書〟を入手……」

 ペン立てに万年筆を入れて腕を組み、ボードを眺める。

 ボードの中心のフランツから伸びる、一本の赤い毛糸。その先端には『襲撃者六人』としたメモ用紙。

 そしてその『六人』からは、『クリーブ・ロードン』につながる。


「まあ、今となっちゃあ、あの〝指示書〟は握らされたと考えていいだろうな」

 不自然さはあった。

 暗号化されているとはいえ、解読される危険性のある〝指示書〟をわざわざ持っていたこと自体が妙な話である。

 標的の主な特徴も書かれていたが、そういった諸々は事前に頭に叩き込んでおくのが陰に潜む人間のやり方である。


 しかも、襲撃者たちがカインの強い〝ことだま〟に勘づいた瞬間。

 一人だけ、動きが鈍かった。

 判断を迷った……風を装ったのだと、今は確信できる。

 そうしてわざと攻撃をもらって、あえて〝指示書〟を落としたのである。


「あの〝指示書〟がないとどうなったか……? あんなに早くクリーブ・ロードンに近づくことは不可能だった」

 事件と『クリーブ・ロードン』を繋ぐものは皆無。

 襲撃者六人のうち一人でも捕まえていれば状況は違っただろうが、二度目の事件時……囮作戦の失敗の瞬間においては、フランツを狙う犯人については目星もつけられないはずだった。


 となると。

 襲撃者六人は、暗殺指示を出したクリーブ・ロードンに背いたことになる。


「ああ、今のくだりも全部書いとかなきゃいけねえのか……。めんどくせえ」

 箇条書きでザッとまとめる。

 続くは、〝ロードン商店〟の出店の情報。ゴミ漁りやら盗みに入ったことやらはぼかして書き、〝王都武闘会〟前日祭で起こった核心的な出来事を思い起こす。


「フランツとはぐれたことは、まあいいとして……。問題は、キラを襲ったチンピラ七人」

 考えねばならないのは、なぜチンピラたちがキラを襲ったのか。

 正しくは、本当はフランツが襲われるはずだったのに、どうしてキラが巻き込まれる羽目になったのか。

 そもそも……。

 なぜ、二度にわたって襲撃を仕掛けたあの六人ではなかったのか。


「キラの見立てじゃあ、内訳は『素人三人』に『手練れ四人』……」

 襲撃者六人と、クリーブ・ロードンは、単純な上下関係にあるわけではない。それは、それまでの二度の襲撃事件により明らか。

 ロードンが、誰かから紹介してもらって、暗殺の仕事を任せた。

 つまりは、ロードンお抱えではなく、外部の暗殺者。そういう形として認識した方が、全てしっくりとくる。


 外部に委託していたならば、出店を出したその先でバッタリと標的と遭遇した時、襲撃者六人とすぐには連絡がつかない。

 だから、急遽チンピラを雇って、フランツを襲わせたのだ。


「って考えると……。ちょっと笑える」

 ただ、七人いたチンピラが、全員『雇われチンピラ』ではない。

 キラの見立ての『素人三人』『手練れ四人』。これにしたがって考えれば、襲撃者六人のうち四人が、チンピラに扮していたことになる。

 逆に考えると、襲撃者六人はクリーブ・ロードンの行動を常に見張り……フランツへ仕掛けたために、急遽チンピラに扮したのだろう。


 すると、襲撃者たちは自分の意思で動くことはできない。何しろ、チンピラとして振る舞わなければならないのだから。

 たとえ『素人三人』のうちの誰かが、間違えてキラに仕掛けたとしても、『そいつは違う』と止めることなど出来はしない。

 キラを知っていたかどうかはともかく、その強さにさぞかし肝を冷やしただろう。下手をすれば、襲撃者側の計画が頓挫していた可能性もある。


 事実、この出来事をきっかけとして、真相に近づいている。

 ふと、キラが全てを片付けてくれればと思いはしたが、そうなると有無を言わさずこの騒動に巻き込むことになり……。

 そっちのほうが、たまらなく嫌だった。 


「で、キラにのされて残ったのは、『素人三人』に『手練れ一人』。この手練れチンピラは、間違いなく仲間を逃すために一人残ったんだろうな……。まあ、微妙な判断だな……キラと遭遇したのが運の尽きというか」

リーウがいくつか自分で作った〝てんじんカード〟のレプリカである。

 真鍮製のそれには、単に中心に〝00〟と刻まれただけ。〝天神教〟の『て』の字もなければ、飾りも意匠もグリューンの名前もない。

 ただの数字を掘っただけの真鍮製の板に、グリューンはそこはかとない愛着を持ち始めていた。

「ホント……。運を運んでくれるというか……」


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