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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第7章

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690.気力

〈ハァ、フゥ……! どうやって……!〉

〈キラくん、落ち着いてってば! じゃないと、何もできずに……!〉


 無論。

 最強生物なユニィが、暇を与えてくれるわけもない。


 ――いつもの負けん気はどうした、あァ?

 ふたたび、強襲。


 キラは、またもその動きすら読み取ることができなかった。

 危ないところを、エルトが助けてくれる。すんでのところで横っ飛びで回避。


〈ご、ごめん……〉

〈頼ってくれるのは嬉しいけど! 私が燃えるのは、いつもキラくんが超絶やる気になってるからなんだよ! だから――キラくんも、私見て燃えて!〉

 ずず、と左の瞳孔も赤く染まっていくのを感じる。

 表面化したエルトは〝センゴの刀〟を収めて、〝気配面〟を身体中に巡らせた。


〈ユニィ――まさか感電して死ぬなんてこと、ないよねっ〉

 ――誰に物言ってやがる!

 心臓の鼓動を頼りに〝雷〟を操っていたのとは、また違う――〝血因〟を介して、〝雷の神力〟の手綱を握る。

 バリバリと腕に巻きつく〝白雷〟が手のひらに集中させ――その爆発的な〝力〟を凝縮。


〈いくよ、キラくんのために編んだ技――〉

 ユニィが踏み込み、突進してくる。

 その直線上に、パッ、とエルトが躍り出る。


〈〝雷業〟!〉 

 太陽を思わせる超高密度の雷の塊を、白馬の額に押し付ける。

 直後、解放。

 雷鳴と雷光と衝撃波とが、一気にユニィに牙を向く。


 ――ハッ、効くなァ、おい!

 エルトの編み出した〝雷業〟は、最強生物にダメージを与えた。

 超圧縮された〝白雷〟が球状から解き放たれるや、白馬の体表を這い回る。バリバリと音を立てて蝕み、白い毛並みを焦がす。


 だが、足りない。

 全くもって。


 あらゆる生物の生命活動にも干渉する〝雷〟は、ほんの少し毛並みを汚した程度で、上空へ弾き飛ばされてしまった。

 空へ駆け上った〝雷〟は、白い雲の一団に突き刺さり、爆散。

 周囲の雲を全て弾き飛ばし、挙句、その轟音で大地すら揺らした。


〈む……無茶苦茶しすぎじゃない?〉

〈……ユニィに頼った面が大きいのは確かね〉

 ――エルト、テメェ! 自慢の毛並みをよくも!


 約半数。会場に詰めかけた一万人以上の観客が、エルトとユニィの攻防で気を失っていた。

 〝元帥〟たるリリィとアランも、口をあんぐりとして空を仰ぎ……そのうちに、エルトが退散した。体の支配権が元に戻る。


〈ま、それはともかく。どう? 自信、戻った?〉

〈……そう見えた?〉

〈んー、怯えてるとかそういうんじゃなくって……萎縮してるっていうか、自分の実力に疑い持っちゃった感じ? だから、喝入れたんだよ〉

〈……ふふ〉

〈笑った! じゃあ、もう大丈夫だ〉

〈――うん。ありがとう〉


 キラは、フッ、と肺から息を抜いて、ユニィを見据えた。

 ――は。そう来なくっちゃなぁ


 今度は、ユニィの未来が視えた。

 またも頭突き、に見せて、後ろ立ちになる。

 〝未来視〟が示したのはそこまでだったが、前足を打ち下ろすのは明白。


 ドラゴンの額も撃ち抜いた威力――避けたほうがいい――直前で回避すれば。

 頭に次々と考えが浮かぶ。が、その次に全く別の閃きがよぎり、キラは回避案を否定した。


〈――〝躯強化〟〉

〈いいね、ガチンコ勝負!〉


 〝未来視〟が描いた絵をなぞるように、ユニィが突進を仕掛ける。

 急停止、のちに後ろ立ち。


 ――しっかり止めろよ!

 瞬間的に迫り来る右の蹄。

 それを、キラはクロスした腕でガード。


 〝躯強化〟は、骨も筋肉も表皮も肉体も強化する〝覇術〟。点で強化する〝骨強化〟に対して、面で強化する。

 それゆえに、〝骨強化〟よりも強度が落ちる。

 相手が〝覇術〟の到達点にいるユニィであれば、なおさら。


 薄氷を割るかのように、すぐに破られる。

 〝覇術〟がなければ、腕がちぎれ飛んでいた。

 キラが欲したのは、メリ、と蹄が腕に食い込む一瞬。

 その一瞬で、右脚全体の角度や、振り下ろされる力の正確な方向を把握――流れに逆らわず、受け流す。


 ユニィの蹄が地面に食い破り、膝近くまで埋まる。

 地面には四方八方にヒビが行き渡り、一秒もしないうちに白馬は脚を引き出してしまう。

 そこへ、つけいる。


「〝コード〟」

 失敗することなど、もう考えない。

 頭に浮かべるのは、どうやって勝つのか。その一点のみ。


 〝弐ノ型〟で聴覚を尖らせ、体の中の〝血の流れ〟を汲み取り、

「〝インパクト〟!」

 〝参ノ型〟へと覚醒させる。


 ユニィの横っ面に掌を押し当て、衝撃波を叩き込む。

 完璧だった。直撃した。

 全てのダメージを余すことなく与えた。


 ――ッテェなぁ! イケメンが歪むだろうが!

 だが、ユニィは少し頭を傾けただけ。〝雷業〟すら弾き飛ばしてしまうのだから、当然と言えば当然。


「顎も外れないか……!」

 少しでも目が霞めば。少しでも顔面に異常が出れば。少しずつ何かがズレて、隙が生まれるかと思った。

 それすらも許さないほど、ユニィの防御は絶対的だった。頭を少し弾いただけでは、何も変わらない。


 ――さあ、次はテメェだぞ!

 ユニィは埋まった脚をズボッと引き抜き、くるっと回転した。


〈キ、キラくん、まずい!〉

 言われずともわかっていた。

 ユニィの癖は、何百と続いた特訓で把握している。不意をつきたいときに、よく後ろ足で足蹴にするのだ。

 人体とはまるで違う馬の体つきは、距離感を崩される。

 それを、今回も利用された。


〝躯強化〟は間に合った。

 が。

 〝覇術〟を使ってもなお、ガードした腕の皮がべろりと捲れる。


「――っ!」

 気づいたときには、体が壁に埋まっていた。

 全身に均等に衝撃が駆け抜け、脳みそも揺らされる。意識も一瞬飛び、地面に転がる衝撃で息を吹き返す。


「は……は……」

〈キラくん、しっかり!〉

「らい……らい、ひょー……ふ」

 くらりとする頭を抑えると、べとりと血がつく。ユニィの蹴りを受け止めた左腕は一向に持ち上がらず、それを支えた右手にしても動かしづらさがある。

 〝頑強な身体〟に〝防御面〟を施したからこそ、これだけで済んだ。〝覇術〟を使えず受け止めていたなら、今頃ぺちゃんこだった。 


 ――そら、降参しろ。あの小娘、今にも泣き出しそうだからよ

「――じゃ……あと……一発」

 呼吸が辛い。ただ、あと五秒もすればやわらぐだろう軽さではある。

 その間、ユニィに待ってもらってもよかった。絶対強者たる白馬は、勝負を急ぐことなく、どんと構えてくれている。


 だがキラは、今ある息苦しさを手放してはならないと直感していた。

 思い出すのは、帝都で初めて〝コード〟を使ったとき。今とは比べ物にならないほどに生きるのが苦しい中、それでも圧倒的な存在感を放つ〝始祖〟に立ち向かった。

 今も、程度の差はあれど、同じ状況。

 しかしあの時と違うのは、直感を操れる程度には意識がはっきりとしていること。自分の体が、この窮地を脱するために何をしようとしているのか、他人事のように把握する。


「そうか、こっちも僕の……」

 全身が冷えていくかのようだった。

 しかし、心臓はその真逆。火でもくべたかのように、熱く熱く唸る。


「〝シータ・チャンネル〟――」

 冷気と熱気とが混じり合い、

「〝スカーレット〟」

 〝赤い雷〟を引き出す。

 血が噴き出たかのように、真っ赤な〝雷〟がだらりと下ろした右腕に這い回り……掌に集結する。


 ――来てみろや、ヒヨッコ〝覇術〟使い!

 なおも余裕を崩さない白馬のユニィに一泡吹かせてやろうと。

 キラは前のめりになって駆けて――。


   ◯   ◯   ◯


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