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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第7章

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688.古代魔法

 アランが、またも接近戦を仕掛けてくる。

 先ほどの斬り合いでその上下関係はハッキリとしている――が、だからと悠長に構えていられるほど、〝無銘〟の纏った〝気配〟は甘くなかった。

 キラはほとんど無意識に一歩下がり、余裕を確保。

 焦りながらも〝呼吸〟を整えて、〝未来視〟を展開する。


「〝気配〟が――伸びる」

 まともに受けるのはもちろん、直線上にいるだけでもマズイ。

 キラは脳裏によぎった危機感に従い、身体を駆る。


 あえて前のめりに突っ込み、アランに判断を押し付ける。

 いかに〝人類最強〟といえども、敵が目の前に迫れば思考せざるを得ない。

 ただし、それもほんの一瞬。ギリギリの駆け引きである。


 当然、アランは迷いなく〝無銘〟を振り切る選択をした。

 上から下へ、単純、かつ、神速の斬撃。


 これをキラは、一歩分、右側へスライドしながら前進し、危ないところでかわした。

 〝無名〟は空を切り、同時に、ザンッ、という音が響き渡る。

 漆黒の刃は地面に届いてすらいないというのに、一本の太刀筋が闘技場の壁際にまで続いていた。


〈飛ぶ斬撃――師匠の〝覇術〟、の擬似バージョン!〉

 心底、ヒヤリとする。

 帝都で〝死の神力〟で蘇ったランディと対敵した時。防御不能のすり抜ける斬撃を受けて、意識が飛びかけた。

 アレと、ほぼ同じ〝気配〟。

 それを簡単に見せてきたということは、アランにとっては特別でもなんでもない通常攻撃なのだ。


 しかも。

〈〝気配〟が消えない……!〉

 〝飛ぶ斬撃〟は剣圧を飛ばしているのではなく、黒刀そのものを伸ばしているようなものだった。当然、伸びきったら縮み始める。

 実質、ほぼ無限の魔力。


「なら――」

 消耗戦は不利。

 キラは、フ、と息を閉じ込めて、気合を入れた。


 ともあれ、〝飛ぶ斬撃〟は回避した。アランは黒刀を振り切り、防御体制にはない――すなわち、〝無銘〟では防げない。

 その隙へ、〝センゴの刀〟を差し込む。


〈あ、キラく――〉

 エルトの〝声〟に反応する暇もなく、鋭く刀を振るった。

 狙うは、脇腹。流動する〝治癒の魔法〟も考慮して、少し深く抉れば。それをカバーするための小さなズレを狙うことができる。


 その算段は。

「ぬん!」

「――ハッ?」

 なんのけなしに振るわれたアランの左腕で防がれた。


 刀身から伝わるのは、鋼鉄でも打ったかのような硬い感触。

 〝気配〟もなく、〝鋼鉄の魔法〟がその左腕だけに宿っていた。


〈ああッ、そういう……!〉

 簡単な話だった。

 〝生きた魔法〟とは、それ一つで全ての起点となる魔法。

 人間でいう〝脳〟。脳みそがあるから、ヒトは思考できるし、声を出せるし、手や足を動かせる。

 理屈としては、同じ。


 〝古代魔法〟を常時展開しておけば。

 〝治癒の魔法〟という手を、〝鋼鉄の魔法〟という足を、それぞれ組み込みながら戦うこともできる。〝飛ぶ斬撃〟もその一つ。

 どれだけの数を同時に操れるのかはわからないが、一つ使ってまた一つ、という方法よりもはるかにタイムラグなく使い分けられるのは確か。


〈キラくん、右目瞑って!〉

 ズズ、と這い寄る感覚を覚え、キラは言う通りに身を任せた。


 半分、スイッチ。

 と、同時に、

「死んでくれるなよ――」

 アランが〝センゴの刀〟を振り払った流れで、ぐ、と踏み込んできた。


 左腕を構え――放つ。

 それに対して、エルトが体を動かして防御体勢を取り、〝防御面〟を展開。


 左拳を、左腕で受け止める。

 瞬間、衝撃。

 爆発にでもあったかのように、吹っ飛ばされた。


〈あ、あぶなかった……!〉

 ゴロゴロと地面を転がり、壁際にまで追いやられたものの、直接的なダメージはなし。悔しいが、エルトの方が〝防御面〟の完成度は高い。

〈まったく、何考えてんのよ、アランてば!〉

〈助かった……。それと……ごめん。二度はないから〉

〈何、それ? 母親が息子助けちゃいけないって?〉

〈いや、そうじゃなくって……〉

〈息子孝行させなさい〉

〈……なに、それ〉

 エルト独特の妙な言い回しに吹き出しそうになるのを堪えて、ゆらりと立ち上がる。


「ふぅむ……ほぼ無傷。完璧に防ぐか」

「まあ……。これに関しては、幸運です。けど――次はないので。アランさんの戦法、あらかた理解しましたし」

「ふっふ! なおも折れぬ強気! さすが……」


 てっきりまた〝古代魔法〟を仕込みつつ、仕掛けてくるかと思ったが……キラの警戒とは裏腹に、アランは戦闘体勢を解いてしまった。

 それだけでなく、あろうことか視線を外してしまう。

 キラは仕掛けるべきかと迷ったが……やめた。アランが見ていたのは、レフェリーを務めるリリィだったのだ。


「……?」

 リリィは飛び出そうな心臓を抑えるかのように、両手で胸を押さえ……アランの視線に気づいて、ハタとした。

〈なんだ……?〉

〈お! サプライズってやつじゃない?〉

 観客たちも違和感に気づいたらしい。それまで興奮の波が見えるかのように歓声を上げていたというのに、鳴りをひそめてザワザワとし始める。


「ご来場の皆様! 試合の途中とはなりますが――この元帥戦、いかがでしょうか? 正しくは、〝人類最強〟と目される〝元帥〟アランと互角に渡り合う彼……〝英雄の再来〟キラ殿は?」

 キラはぎょっとしてリリィを見つめた。

 そうやって彼女に問いかけられれば、興奮冷めやらぬ観客たちは『否』などと答えるはずもない。甲高い声やら甲高い口笛、あるいは囃し立てるような野太い声が混じって、リリィに呼応する。

 一瞬だけ視線を配ってきたリリィは、申し訳なさそうな顔をしつつも、〝元帥〟として進行を続けた。


「彼は、今日に至るまで、我がエグバート王国を守ってくれました。皆さんもご存知の帝国との〝二百年戦争〟に続き、旧エマール領における〝エマール領武装蜂起〟、さらには〝黄昏事件〟……我が国が窮地に陥るたびに陰ながら尽力してくれたのです」

 竜ノ騎士団は例外を嫌う。入団直後に〝見習い〟から〝元帥〟へ一気に昇格するのは異例中の異例……人事局が最も避けたい事態だという。

 それというのも、〝元帥〟は実力だけで成り立つわけではない。

 その立場は、エグバート王国に住まう全ての人間へ、分け隔てのない安心感をもたらさねばならない。


「今や同盟国である帝国では、その首都において重大な事件が連発していました。わたくしも〝元帥〟として足を運びましたが……帝都は崩壊寸前。しかしそこで踏みとどまることができたのも、彼の存在が大きかったといいます――」

 こうしてリリィが演説をしているのも、少なくとも、この元帥戦を観戦している人々を味方に引き入れるため。

 〝新人〟キラが〝元帥〟として認められるよう、訴えかけてくれているのだ。

 とはいえ……。

〈い、胃に穴が開きそう……〉


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