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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第7章

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685.密度

 入り口からすぐの階段を上がり、観客席に向かう。

 今は昼休憩の真っ最中らしい。闘技場では〝王立都市大学〟で募ったチアガールたちによる〝応援合戦〟が行われ、試合中とはまた違った歓声が飛んでいる。

 昼食に繰り出すヒトたちも多く、階段を上がるのも一苦労。

 いつものように〝招待者シート〟に向かっているが、〝学生シート〟が隣り合っているせいか、学生がかなり多い。


 流石にキラへの注目度は半端なかった。

 簡素な半袖シャツに作業服の様なカーゴパンツと比較的地味な格好……とはいえ、王都では少数派な黒髪に、精悍さも兼ね備えた童顔、そして何より左腰で揺れる刀とくれば。

 特に彼の活躍に注目していた観客からすれば、アイコニックの塊だった。

 すれ違うたびに学生たちが二度見をして、特に女子グループは黄色い歓声を上げる。


 その一方で、キラは彼ら彼女らの視線を嫌がっていた。その一切に気づかないふりをして、階段を上がっていく。

 ようやく観客席に出て、折り返してすり鉢状の上部を目指す。

 一番上にまで上がって、左に曲がって〝学生シート〟の列をこえると、〝招待者シート〟に到着。


「あ〜……。キラじゃなくても人混みに酔うわ……。お……?」

「セド、どうしたの?」

「バックスがいる……」

 右手に並ぶ〝一般者シート〟の最後方。友人やら恋人やらで賑わいを見せている中、一人もくもくとサンドウィッチを食べている。

 一瞬目があったものの、それだけ。挨拶はもちろん、鼻を鳴らしたり悪態をついたりといった反応も見せることすらなく……腹を満たすことに集中していた。

 階段を上りきり、バックスから少し離れたところで、セドリックは声をかけた。


「なあ、キラ。あいつって……」

「あいつ?」

「バックスの試合、どうなった?」

「ああ……。上級騎士が相手だったからね。名前は……確かバートン。なんとかっていう師団長を師匠に持ってるみたいだし……そりゃあ、ちょっとね」

「ふん……」

「心配?」

「別に励ます様な仲でもないし。ただ、なんか……変な気分ではある」

「おー? ライバルってやつだ」

「そんなスッキリした関係じゃないだろ」


 〝招待者シート〟は、すでにエルトリア家の使用人たちで埋められていた。セドリックとドミニクはいつものように、前側の列の通路側二席に収まる。

 午後の部の試合開始にはまだ時間がある。そこで後ろ側の席に座ったキラに話しかけようとしたところで、隣り合う〝学生シート〟からコソコソとした話し声が聞こえてきた。


「なあ。バックス・ストライド、覚えてるか?」

「覚えてるも何も……。さっき、試合に出てたじゃん」

「ストレートで負けてやんの。ザマァ、ってのはこういうこと言うんだろうな」

「おいおい……。ま、気持ちはわかるけど。俺らもだいぶ迷惑してたから」

「な! 親が社長だか何だか知らねえけど、取り巻き連れて偉そうに……。なんか色々あって退学したってな」

「まあ……。そうな……。自業自得っていうとアレだし、因果応報ともちっと違うけど。巡り巡って、ってやつ? 結局は自分に返ってくるよなあ」

「つっても、今は竜ノ騎士団〝見習い〟。面白くねえの」

「それは同感。喧嘩っ早いのがそこで活きるってのがさあ……」

「落ちろよ、って思うよなあ」


 どんなに聖人であっても、嫌われるときには嫌われるものであり……苛烈な性格なバックスに敵が多いのは想像に難くない。

 そうはわかっていても、流れてくる陰口を聞くのは気分が悪かった。

 とはいえ、セドリック自身も良くは思っていない人間のために、見ず知らずの学生二人に噛み付くことなどできず……。ふん、と鼻から息を抜いておくにとどまった。


「なんか……。〝王都〟って感じがする」

「ほんと……。街ってフクザツ」


    ◯   ◯   ◯

 

 セドリックにも話した通り、キラが一番に警戒しなければならないのは怪我だった。

 相手を侮っているわけではない。むしろ、魔法に疎いキラにとっては一人一人が強敵。

 〝気配汲み〟で魔法のタイミングをはかれても、〝未来視〟で予見をしたとしても、まさに無限の変化を遂げる魔法相手に無傷でいられるのは至難の業。

 だからこそ〝防御面〟を徹底的に仕上げた。付け焼き刃でも急造品でもなく、きちんと理論を体に染み込ませた。


 しかしユニィ曰く、まだ『密度が足りない』。 

 昨日の第二回戦、上級騎士バートン戦。

 その戦い方は、あの褐色肌の〝授かりし者〟ガイアを思わせる。

 魔法により、全身を岩の様に硬くしてしまう。その防御力を攻撃に転じ、格闘術も爆破の魔法も真正面から打ち砕くスタイルである。

 まだ『密度の足りない』キラの〝防御面〟には天敵だった。単純に相手の方が硬度が高いのだ。正面からぶつかれば、たちまち〝防御面〟がヘタり、吹っ飛ばされてしまう。


 ただ、まだ戦いようはあった。

 彼には、体を硬化する際に動きを止めるクセがある。体の一部分のみにしか適用できないのも大きかった。

 〝未来視〟と〝気配汲み〟を使い分けつつ、クセに付け入れば。難なく二本先取も簡単だった。

 だが。


「ほんッッッとに! 師弟そろって……!」

「オウオウ、どうした! 根性が足りんぞッ!」


 今相手しているのは、〝第十師団〟師団長タルフ。

 バートンのように、甘くはない。


「ガッハッハ! こいつが苦手だな? ――ゆく、ゾッ」

「――ぶなッ」


 上級騎士バートンの師匠であるタルフは、今までに見たことがないタフガイだった。

 身長は二メートルを悠に超えている。あのアランと比べても頭一つ分は差がある。

 それだけの巨体を支える筋肉も桁外れ。

 アランとは真逆の発想で、腕から腰から足周りから、つけられるだけつけている。蛮族の様な格好のために、膨れた筋肉に太い血管がはい回る様がむき出しになっている。


 見るからに鈍重で、動きの幅も狭い。特に肩周りは、筋肉がつきすぎているせいで、腕が一定以上動いていない。

 普通であれば攻撃の的。

 だがそれを、バートンとは比べ物にならない硬度を施す魔法によりカバーしていた。


〈私が知ってるのは、〝硬さ〟で補強する様な拙い戦い方だったけど――ココまで突き抜けるとホントやばい!〉

〈迂闊に近づけない……!〉


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