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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第7章

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680.セドリックVSバックス

 想像通り。

 バックスは初っ端からぶちかましてきた。

 両腕をグッと背後へ伸ばして、手のひらから放出した爆破を利用して、急激な接近戦を仕掛けてくる。


「悪りぃけどな――」

 爆破の魔法を使ってくることを見越していたのもあるが、何よりもキラとの模擬戦の経験が活きた。

 静から動への急な展開にも、目も頭も心も追いつく。


「速いのには慣れっこなんだよ!」

 剣の腹をバックスに見せ、盾のようにして構える。

 逆に突っ込んでバックスの鼻を明かしたかったが、あえてグッと我慢した。


「ハッ――」

 一直線に膝蹴りしてくる――その軌道を、バックスは変化させた。

 手の角度を変えて、柔軟に体を捻らせ、頭上を越えてくる。


「慣れたところでなァ!」

 これも想定通り。


 模擬戦でのキラはもっと凄かった。

 まるで未来でも見たかのようにスカし、本命を入れ込んでくる。それを二対一の状況でやってのけるのだから、化け物という他にない。

 だからこそ、バックスの動きについていけた。


 が、バックスは魔法使い――キラとは違う。

 飛び越えて背後に着地するとばかり思っていたが、頭上で宙返りしているその途中で、両手を差し向けてきたのだ。


 爆破の魔法がくる。その〝気配〟を感じ取り退避。

 ドンっ! 

 直撃からは免れたが、爆風に飛ばされてしまった。


「くァ……!」

 キラから教わったのは、どんな状況でも視野を広く保つこと。

 視覚だけでなく、聴覚や触覚もフル活用して、変わりゆく戦場を常に把握しておく――そうすることで〝考える〟余裕すら生まれるのだと。

 鍛錬の時にはなかなかうまくいかなかったが……この土壇場で、少しだけ花開いた。


 体勢を立て直しつつ、無意識にバックスの位置へ的確に視線を向ける。

 本能に従う野獣のように粗暴なくせして、彼はずっと利口だった。

 今の爆発は揺動に過ぎなかった。

 

 本命はその次。

 爆発によって上空に飛んだバックスは、体勢を変えてさらにまた爆破――急降下して襲撃してくる。


「――ッ!」

 息を呑む。間に、考える。

 速い――避けきれない――防御は間に合う――攻撃の軌道を――。


 まるで大鎌でも振りかぶるかのように、バックスは蹴りを放ってくる。

 それを、今度こそ剣を盾にして防いだ。

 衝撃を受け止め、押し切られる前に、あえて自分で後ろへ倒れる。


「ち――ろくに魔法も使えねぇくせに……!」

 おそらく、バックスは爆発の魔法での移動方法が癖になっている。

 セドリックが尻餅をついている間にも、次なる魔法の〝気配〟が止むことはない。


 明確な弱点である。

 魔法をワンテンポ挟んでいる分、セドリックにも余裕ができた。

 それをコンマ一秒でも潰さないように、立ち上がりながら剣を構える。


「そ――らッ!」

 キラはたまに、刀を動かさずに置くことがある。限定的ではあるものの、攻撃を読み切った時に真価を発揮するのだという。

 セドリックも、それにならった。


 バックスの行動をギリギリまで引きつけ。

 大きく踏み出し、その直線上に剣を置く。


 キラから意図を聞いた時は疑問に思っていたが――確かに効果的だった。

 読みが甘かったか、踏み込みが弱かったか、二度目の爆発でふわりと避けられる。だがその影響で、バックスは明らかにバランスを崩した。


「く……ッ」

 忌々しそうに顔を渋めながら、ザザッ、と背中から着地。


 その大きな隙を逃さず――。

「一本」

 背後から首元へ剣を突きつけ、一ラウンド目を制した。

 

   ◯   ◯   ◯


「おー……。取った」

〈やるねえ、セドリックくん。キラくんの教え、かなり吸収してるじゃん?〉


 無事に初戦を突破したキラは、〝招待者シート〟で観戦することにした。

 貴族やそれに近しいヒトたちのために用意された席とだけあって、なかなかにリラックスできていた。

 他の観客席とは明らかに座席の大きさが違い、ゆったりと座ることのできる造りとなっている。一人一人に肘掛けもついており、さらには大きめのジョッキホルダー付き。


 定期的に売り子がジュースやお酒やらを売り歩き、声をかけると魔法で注いでくれる。

 売り子たちがカバンのように背負っているのは、売り歩き特製の木樽。

 事前に渡されたグラスを掲げると、その木樽から竜巻のように液体が巻き上がり、一人でに弧を描いて飛び込んでくるのだ。

 最初は頼むつもりはなかったが、そんな光景を見たらキラも頼まずにはいられなかった。ジョッキに注がれたソーダ水をあおり、観戦を楽しむ。


「けぷ」

「キラ様。はしたないですよ。……けぷ」

「リーウだって。我慢できないもんなんだよ」

「むう……。しかし、王都にこのような飲み物もあるとは。この不思議な感触、なかなか癖になります。一ヶ月を経て初心者から脱したかとも思いましたが……まだまだ王都初心者のようです」

「エルトリア邸じゃこういうのはないからねえ。けどまあ、こういうお祭りの時に飲むのが一番美味しいと思う」

「わかります。わかります」


 二度肯定しながらリーウはコクコクとジョッキをあおり、フゥ、と息をつく。

 エルトリア家にあてられた〝招待者シート〟枠は八席。

 竜ノ騎士団〝総帥代理〟であるシリウスや、〝元帥〟であるリリィとセレナは別途用意されており、エルトリア家に関わる使用人のために割り当てられたものである。

 だが席を埋めているのは、ほとんどが部外者。

 現在本戦出場中のセドリックに、そんな恋人の勇姿を震えながら見届けるドミニク。見事に試験を突破したミリーと、その保護者夫婦なナタリーとハリソン。

 そして。


「じ、自分……ここにいていいんですかね……?」

 〝下級二等〟騎士に昇格が決定した元見習いのコリーが、キラの左隣にいた。目の前でビールを楽しむ保護者夫婦とは違って、肩身狭そうに縮こまっている。

「まあ、何かあって怒られるのは僕だから。別に気にしなくていいよ」

「そ、そんなことを言われても……! 申し訳なさで爆発しますよ……!」

「あー……。ちょっと見たい」

「ええっ?」

 大袈裟なリアクションを見せてくれるコリーを肴に、キラはソーダ水を嗜む。


「まあでも、エルトリア家の使用人たちはそれぞれ友達とか家族とかと一緒に祭りを楽しんでるんだし。せっかく用意してくれた席を無駄に余らせるよりもよっぽどいいでしょ」

「ありがたい話ではあるんですけどね……。というか、キラさんと自分、次に対戦するというのに同席するのは果たして……?」

「二回戦は明日でしょ? なら……。気にすることないんじゃない?」

「ああ……。はあ」

「なに」

「なんと自分は運が悪いのだろう、と。勝ち上がればそれだけ強い方と当たるのは分かってはいましたが……キラさんじゃなくてもいいじゃないですか?」

「僕に言われても。ってか、それ本人にいうんだ」

「そりゃあ、キラさんを知ってますからね……! もはや〝師団長〟枠として後半グループに組まれるべきだったんですよ」

「じゃあ……。降参する?」

「……そんなこと、ありえないから運が悪いと嘆いているんですよ」


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