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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第7章

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672.裏、表

「よぉ。言っとくが、キラは世界に一人だ――お前らにゃ荷が重い」

 背後から面白くなさそうな口調で喧嘩を売られた。

 はっとして振り返ると、〝最上段通路〟を通りがかった小柄な少年が、何やらむっとした顔つきで見下ろしてきていた。


「お前ら、あいつの知り合いか?」

「ああ、友達だけど……。君も?」

「……。ダチ〝一号〟だ。お前らは〝二号〟と〝三号〟な」

「……フ」

「何笑ってんだ!」

「やあ……。キラのことが大好きなんだなあ、って思ってさ」

「……け」


 少年のそっぽを向く姿こそがあからさまに思えて、セドリックはドミニクと顔を合わせて笑うのを堪えた。

 その間に、どうやら少年と顔見知りのリーウが声をかける。


「おや、グリューンさん。いらしてましたか」

「……まあな。〝天神教〟の件はどうなった?」

「〝てんじんカード〟は帝都でも大人気のようですから。まだ時間がかかりますね」

「ふん……」

「落ち込まずとも、グリューンさんもきちんと登録されています。安心してください」

「別に。んなんじゃねえよ」


 見えるようで見えない話に、セドリックは首を突っ込みたかった。

 が、隣にいるロアールがソワソワと身構えているのを感じ、口を閉じた。

 何事にも好奇心旺盛な新聞記者は、いろいろと聞いてくるに違いない。そうとなると、多かれ少なかれ話さざるを得なくなり……ただでさえ人目を避けたいキラが、変に注目を集めることとなる。


 それをドミニクも感じていたのか、先だって話題をすり替えた。

「グリューンは……。学生?」

「いいや。お前らの先輩だ。下級〝二等〟騎士」

「てっきり〝見習い〟だと思った……。キラもそう認識してたし」

「そういや階級の話はしてなかったな……。まあ今度会った時にでも話せばいいか」

「? 予選の決勝終わったんだから、待ってればいい」

「悪いが、これでも仕事中なんでな。時間を潰すわけにはいかねえの」

 グリューンはその場をさる前に、リーウ、ドミニク、セドリックと順に一瞥し……ロアールに目をやったところで、眉を顰めた。


「新聞記者か? 貴族でもねえのになんでこんなところにいる?」

「正しくは、〝招待者シート〟ですよ。新聞記者もその例外ではありません」

「ふん……。ならせいぜい良い記事書けよ。歴史的瞬間が来るんだからよ」

「おや! それは楽しみですなア!」

 ロアールの奇妙なテンションもグリューンには心地よく映ったのか、ニッと笑ってから背中を向けた。それから観客席の外周をなぞるようにして歩いていく。


「巡回でもしてんのかな。俺らよりも年下だろ。すげえな」

「ね。さすがは〝一号〟。キラに似て変わってる」

 その数分後に合流したキラにグリューンのことを教えたものの……。騎士として会場内を巡回しているであろう少年が、再び姿を現すことはなかった。


   ◯   ◯   ◯


 〝アイ・リング〟。

 それはモーシュから授かった〝三種の神器〟の最後の一つであり、カインにとっては特別な〝魔法具〟だった。

 なにせ、カインがアイデアを出して、モーシュが〝魔法の神力〟で生み出したものなのである。


 指輪とネックレス。二つで一つの役割を果たすそれは、いわば、二極の磁石のような役割を果たす。ネックレスがさまざまな反応を示すことで、指輪の位置を特定するのである。

 本当はフランツのために用意したものではあるが、強力な監視アイテムとしても転用できる。


「戻った」

「うっす。おかえり」

「お前らの見回りは取りやめだ。客席にキラとそのダチがいる。見つかったら巻き込んで……キラの試合が台無しになる」

「どこまでもキラ・ファーストなのな」


 現在、カインたちは〝王都闘技場〟の観客席に混じっていた。

 フランツを挟むようにライカとヴィーナが座り、その真後ろにカインが陣取る。先ほどまで空席だった左隣に、たった今グリューンが着席する。


 〝新人クラス〟にも関わらず熱い試合を繰り広げる新人騎士たちに、観客は熱狂していた。

 キラに関しては、他とは次元の違う強さに〝元帥戦〟挑戦者候補とまで語られ……グリューンに至っては、元帥も勝利するものと確信している。

 ともかく、毎試合のように名シーンを作り出す騎士たちに皆の目は釘付け。こっそりと作戦を進めるにはもってこいの場となっていた。


「ロードンの様子はどうだった?」

 カインが前屈みになりながら問いかけると、グリューンも同じような姿勢をとった。前の三席に並ぶライカたちも、背伸びを装って背中を逸らし、話を聞く。

「変わりゃしねえよ。クレイグスも姿を現さねえ」


 フランツに幾度も刺客を送っていたのは、落ち目の〝ロードン商会〟を率いる、クリーブ・ロードン。

 折りよくその身柄を確保したは良いものの、ロードンが全ての元凶というわけではなかった。

 〝王都武闘会〟前日祭に無断で出店し、さらには追われていたのだから、それほどの頭があるか甚だ疑問ではあったが……クレイグス卿とやらが入れ知恵をしていたのだ。

 王国各地で〝反王国派〟が騒動を起こしていたのも、その関係性によるもの。


 ただ、ロードンがそう言っていたからと、クレイグス卿をどうにかすることはできない。

 グリューンがざっと調べたところ、〝反王国派〟としての噂は皆無だという。

 確かに野心家であり、過激的な発言が度々議論を呼ぶものの、何か問題があるということはない。

 人間関係にしても、シェイク市長やブロア・ヒース、ダドリー・ハーボーンなど、清く健全な繋がりばかり……カインたちの知らない名前ではあったが、王国人にすれば潔白の象徴のようなヒトたちらしい。

 そのままロードンの証言を元に訴えたとしても、決定的な証拠でもない限り追い込むのは難しい。


 だが、事実は事実。

 クレイグス卿がクリーブ・ロードンと繋がりがあり、その色が真っ黒であるということはいうまでもない。

 クレイグスが言葉一つでロードンを動かし、痕跡の残らないように慎重に慎重を重ねていたのだとしても……ロードンという存在がいる限り、クレイグスの罪は消えて無くならない。

 ロードンが失敗し、その悪事の全貌が明らかになったとすれば。

 さすがのクレイグス卿も尻尾を出すはず。ロードンで釣り、本性を表したところで捕えるのである。


 そのためにも、何はともあれロードンと離れることが重要だった。

 〝アイ・リング〟の〝指輪〟をつけさせ、カインが〝ネックレス〟で逐一状況を確認する。〝指輪〟がその人物の行動を探知し、〝ネックレス〟に振動と色で合図を送るのだ。


 問題は、クレイグス卿がロードンと接触するかどうか。

 クレイグスがクリーンな人間関係を意図して築いているのは明白。

 そんな人物が〝反王国派〟筆頭のような人間と直接会うようなことをするのか……。ただ、痕跡を徹底的に排除するには、隠れて会う以外に方法がないのも事実。

 そこでロードンにクレイグスと会うように指示……したはいいものの、予選が始まってからこれまで、それらしい接触はない。


「〝野放し監視〟、間違いだったか……? いや、具体的に指示した方が良かったのか……?」

 不安になって呟くと、ライカが頑とした声で慰めてくれた。

「間違いなんかじゃないわよ。だって、普段通りのロードンじゃないとクレイグスに勘づかれるでしょ。最悪、クレイグスが姿を現すことなく、ロードンが暗殺されておしまいよ」

 続けてフランツが賛同する。

「ボクもライカと同じ意見だよ。クレイグスには、まだボクの暗殺計画が動いてるって思い込んでもらわなきゃいけないもん。少なくとも、ロードンが接触するその瞬間まで」

 ヴィーナは秘密の会話の内容が漏れないように魔法でサポートに回りながらも、力強くうなづいていた。

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