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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第7章

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671.招待

   ◯   ◯   ◯


「フゥ! いやぁ、いいですねえ! 今年は豊作ってやつではっ? ねえ、ネェっ?」

「はあ……」

「もっっっちろん! キミたちも良かったですよっ。というか、キミたちも含めて豊作ということであってっ!」

「どうも……」


 妙なヒトに絡まれたものだと、セドリックはドミニクと顔を見合わせた。ドミニクの隣に並んで座るリーウも、困ったように微笑んでいた。

 そのまた隣にはエルトリア邸での彼女のメイド仲間もいて……皆、見て見ぬふり。

 とはいえ、〝公爵〟たるエルトリア家が認めた使用人たち。積極的には関わろうとはしないものの、何か起こればすぐに動けるくらいには警戒していた。


「しかししかし、彼も実に惜しかった……! まさに渾身の一撃! 一矢報いたかと思いきや……。その心意気、アッパレ!」

 やけに騒々しいのは、新聞記者を生業としているというロアール。

 天然パーマを抑えるようにしてハンチング帽を被り、今にも鼻からずり落ちそうな分厚いメガネをしており……きいきいと甲高い声からも分かる通りに、クセの強い男だった。


 先ほどから誰も何も喋っていないというのに、一人で勝手に騒いで、勝手に驚いて、勝手に話題を押し付けてくる。

 真剣にメモをとる様や、蝶ネクタイの目立つワイシャツ姿に惹かれて挨拶をかわしたものの……セドリックは数秒で後悔することになったのである。


「ン〜……それにしても目を奪われるのは、あの黒髪の少年。名前をキラ! 容姿といい、あまり見かけない武器といい……何やら〝英雄の再来〟と通ずるものがありますなア?」

 下から覗き込むように首を傾げるロアール。セドリックは不気味な仕草から少しばかり距離をとりつつ、話を合わせた。


「さ、さあ、どうなんすかね……。キラがすごいってのは、確かにそうっすけど」

「フムフム……。確かに! 繋がりがどうであれ……彼が素晴らしい逸材なのは間違いない! もしや、本当に大会を制したり……?」

「そりゃあ、俺らはキラが勝つもんだって思ってるっすけど……」

「け・ど?」

「そこ突っ込むんすね……。いいっすけど。――考えてみりゃあ、こういうかっちりしたフィールドとかルールって、あいつと相性最悪っていうか……。人目に晒されるのだって、割と好きじゃない方だし……」

「ほう、ほう! ヒト皆等しくヒトの子! というわけですなあ。しかし、先ほどの動きを見る限りにおいて……ほら! 誰もがかの超新星に期待を寄せている!」


 すでに〝新人クラス〟決勝は終えているものの、観客の興奮はやまなかった。

 それもそのはず。キラVSドミニクの第一試合を皮切りとして、数々の名試合が生まれたのである。

 周りの声から察するに、文字通り入団したての新人たちの戦いにさほど期待していなかったようだが、誰も彼もがすっかり魅入られている。

 それぞれに〝推し〟ができていたようで、その敗退に残念がったり、あるいはその融資で勇気づけられたり。


 もちろん、キラの存在感は凄まじいものがあった。

 なにせドミニクとの試合以降、二回戦と三回戦は一撃で決着をつけてしまった。

 セドリックはむしろ当然とすら思っていたが、観戦するヒトたちからしたら大型新人が現れたようなものだろう。


「とくに……。学生たちには刺激が強いでしょうなア」

 セドリックとドミニクがリーウたちといるのは、〝招待者シート〟の最上段。

 女王ローラ三世と〝司教〟エステル・カスティーリャが仲睦まじく試合観戦しているのを見られる位置取りである。

 座席の前後左右がゆったりとしていたり、オペラグラスが配られたり。貴族向けの待遇であり、事実、〝招待者シート〟に座っているほとんどがその見た目で身分が分かる。

 セドリックとドミニクはどう考えても場違いだったが、試合で健闘したこともあって、すんなりと受け入れられた。


 そんな〝招待者シート〟とほとんど同じ待遇を受けるのが、〝学生シート〟。ロアールによれば、各学校で好成績を収めた学生たちが観戦しているのだという。

 ちらちらと様子を見てみたところ、年齢層は十三歳から十八歳くらいまで。

 セドリックと同じ年頃の学生もかなりの数が居て、決勝戦では終始興奮が抑えられず、ほぼみんな立ち上がっていた。


「この大会に立ち会った学生が、数年後に期待の新人として台頭したのならば……。これもまたとない成長の機会と言えるでしょう」

「つっても……。キラに憧れたらキツイっすけどね。あいつ、ほんと規格外なんで」

「フッフ。キミたちもまた、彼らの憧れの的なのですよ」

 セドリックにとっては新鮮な〝学校の生徒〟を観察している間、何人かと目が合うことがあった。男の子だったり女の子だったり。その度にパッと視線を逸らされ、隣にいる仲のいい友達とこそこそと話をする。

 それが今までにない体験で……。こそばゆいやら、居心地が悪いやら……不思議な気持ちになってしまった。


「なんか……。キラが注目を嫌うのも分かる気がする」

「うん。わたしも……。キラだったのかも」

「おい。俺の方がキラだっての」

「……バカみたいに競ってこないで」

「ドミニクが言い出しっぺじゃんかよっ」

「だから言ったの」

「はいぃ?」


 一連の流れが聞こえてしまったのか、ロアールが「ブフッ」と笑う。

 さらには。


「よぉ。言っとくが、キラは世界に一人だ――お前らにゃ荷が重い」


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