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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第7章

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669.似た者たち

   ◯   ◯   ◯


 バックス・ストライドは、その粗暴な見た目と性格からスラム出身と勘違いされることが多いが……その実、由緒ある商人家系の出である。

 幼少期にはきちんとした教育を受け、他の貴族の子と同じように〝王立幼年学校〟に入っていた。卒業後は〝王立魔法学校〟中等部に編入。

 尊敬する父と同じく、商売のためにも魔法のなんたるかを学び、〝ストライド商社〟の跡取りとして世界的商会へと飛躍させる……はずだった。


 しかしそれも、父親が失脚してからは全て白紙。

 誰かにハメられただとか、何か手違いがあったとか、そういうことではなく……ただ単に、尊敬していた父親は言うほどの人物ではなかっただけ。

 要は、酒に溺れてギャンブルに負けたのだ。

 よくある話ではある。

 日々のプレッシャーとストレスに負けて、母を泣かして出ていかれ、挙句に酒と賭博に逃げては自滅する。


 バックスにとって幸いだったのは、その崩壊の一連を目にしていなかったこと。

 あるいは、とことん不幸だったというべきか。

 悠々自適な寮生活を送っていたところへ、母が失踪し、父が自殺をし、〝ストランド商社〟は吸収合併されて消滅……その一連の出来事を知らされるのみ。


 バックスの元に残ったものは、何もない。金も、地位も、立場も、何も。

 そういうこともあって、同級生には散々馬鹿にされ、暴力も振るわれ……吐き捨てられるかのように、〝冒険者地区〟にたどり着いた。

 こうして、それまでとは対極的なその日暮らしの生活が始まったのである。


「……」

 〝新人クラス〟予選決勝は三十分後。

 その間に腹でも満たしておこうと思って控え室を出たものの……そういう気分ではなくなった。

 〝王都闘技場〟を取り囲む〝円形大通り〟は、昨日に引き続き歩行者天国。

 前日祭ではパフォーマンスが多く見られたが、今日は屋台中心。あちこちからいい香りが漂い、それに人々が引き寄せられていく。


 誰も彼もが、楽しそうだった。

 友達同士で連れ添って食べ歩きしたり、恋人たちが分け合っていたり。誰がどうの、あの戦いがああだの……誰ひとりとして、不平不満を感じている者はいない。

 お祭りだから、当たり前ではある。皆が楽しみに来ている。


 だがその当たり前の光景が、癇に障る。

 何事もなければその一部に混ざれていたと考えると……バックスは、己の器の小ささを感じながらも、嫌悪せざるをえなかった。


「……そろそろ時間か」

 目にしていた光景を最後にじっくりと脳裏に焼き付け、〝一番ゲート〟から闘技場に入る。観客席へ上がる階段を素通りして、闘技場〝入場一番口〟に立つ。


「……」

 バックスが竜ノ騎士団に入るのは、トップを目指すため。バックス・ストライドの名前を、王国中に知らしめるためである。

 その足がかりは掴んだ。

 すでに本戦出場は確定している。

 決勝戦がどう転ぼうとも、どうでもいい段階ではある。


 事実、バックスはキラに勝てないのだと判断していた。

 〝第二回ポイント大調査〟の時から薄々感じてはいたが……大会中の動きを見て、化け物なのだと悟った。

 志願者から〝見習い〟になったばかりの新人たちはもちろん、〝下級騎士〟も〝上級騎士〟も、〝師団長〟すらその足元にも及ばない。


 上には上がいるのだと、在りし日の父が言っていた。

 どこでも、どんなものでも、〝上〟がいて……トップになれないのならば、うまく立ち回らねばならないのだと。

 その考え方でいけば、キラに勝とうとするのは愚の骨頂。

 どう足掻いても彼は〝頂点〟に近い存在であり、本戦出場も果たした状況で真正面から戦っても意味はない。


 だが……。賢く立ち回れと言っていた父は、自死した。

 それが何を意味するかはともかくとして、二の舞になるのは厭だった。


「喰らいついてやらァ……」

 

   ◯   ◯   ◯


〈セドリック、強くなったなあ〉

〈ね。ほんと別人みたい。キラくんの癖を読んだってのもあるだろうけど……ピンチからの対応力が格段に良くなってる。力任せなところはあるにせよ……〝闇ギルド〟の一件、ほんと悔しかったんだろうね〉

〈それにさ……。セドリックの実力が見たいからって、〝未来視〟をやめた時……セドリック、それに気づいてたよね〉

〈あ、やっぱり? アレ、本人は無自覚なんだろうけど……どういうことだろ? 〝覇術〟を感じ取ったってこと?〉

〈まあ……。理論的にはあり得そうだけど。魔法に〝気配〟を感じるように……〝覇術〟にだって〝気配〟があるんだし。でも……今までそんなそぶりは見せなかったよね〉

〈うん……。極限の集中力が才能を開花させた、って考えられるけど……。うーん……?〉


〈〝気配面〟に特化してた、みたいな話だったり? 魔法を使うのは苦手だけど、他から感知するのは得意、みたいなさ〉

〈あー……。ありうる。ヒトによって系統の得意不得意はあるもん。ってなると、魔法も〝覇術〟も読めるってことで……ひょっとしたら、大化けするかも?〉

〈でもやっぱ、普通に魔法を使って欲しい感じはする。最後のあの一撃、〝身体強化〟とか使われてたら僕も吹き飛ばされてたし〉

〈下手したら切り落とされてたかも〉

〈う……。やっぱ〝骨強化〟じゃなかったか……〉

〈そりゃそうだよ。剣を素手で払いたいってのに、骨強くしてどうすんのよ。皮と肉やられたら意味ないでしょ〉

〈あー……魔法的に使えるようになったはいいけど、判断が一つ増えるってのは、なかなかなデメリットかも。めんどー……〉

〈慣れなさい〉


 キラはため息をついて、〝新人控室〟を見回した。

 すでに、待機している人間は他にいない。ドミニクを含めた予選敗退の新人騎士たちは控え室を去っている。

 セドリックは三位決定戦に見事勝利し、ひと足先に本戦出場への切符を手にした。

 約四時間にもわたる予選の緊張をほぐすため、ドミニクと一緒に観客席へ上がり、今頃はリーウと合流しているだろう。


〈そういえば……。バックスの実力、ほとんど見れてないよね……。どうしよ〉  

〈加減は禁物じゃない? ああいう子ほど、したたかに奥の手を隠してるものよ〉

〈えー? そういうタイプには見えないけどなあ。どっちかっていうと、応用と即興で切り抜けていく感じに思ったけど〉

〈ま、油断してるとアッというのは確かだろうね〜〉

〈けど……。初手から〝センゴの刀〟で潰しにいっていいものかどうか……。うっかり切り飛ばしたらシャレになんないんだけど。ほら、格闘家だし〉

〈そんなヤワな子じゃないでしょ〉


 試合開始五分前の銅鑼の音が鳴り響き、司会のジェイによる前説も始まる。

 予選とはいえ決勝戦。ジェイも観客もボルテージが上がり、雌雄を決する二人が同じ入場口から現れるのを今か今かと待ちわびている。

 キラは長椅子から立ち上がり、控え室を出た。廊下に出て左手へ向かえば、指定された〝入場一番口〟にすぐに着く。


 闘技場につながる入り口の前には、すでにバックスがいた。

 なんとなく気まずいものを感じつつ、キラはその隣に立つ。ちらりとバックスの方を見てみると、彼の鋭い視線とがっちりと噛み合った。


「お……」

「あ? ンだよ」

「いや。セドリックと同じ顔つきしてたから。意外と似てんだなあ、って思って」

「あぁッ? 俺とアイツのどこが似てるってッ?」

「気づいてない? 二人とも負けず嫌いじゃん」

「誰でもそういうとこはあるだろうが!」

「あぁ……そうかも。――セドリックも、君も、もちろん僕も。負けるために戦うわけじゃないもんね?」

「――。ったりめェだろ」

 けっ、とバックスがそっぽを向くのと同時に、司会ジェイによる入場の合図が轟く。


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