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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第7章

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663.収穫

「ここにあるのは全部、指示書の封筒とか便箋とかと一致するってことだろ?」

「ああ。特に万年筆……俺の予想なら、ペン先のヘタリ具合が指示書の文字と合致するはずだ。使用中のをこっそり入れ替えて盗んできたからな。ゴミ箱を漁った限り、ペン先を頻繁に交換する性格でもないから、決定打にはなるだろ」

「き……聞かなかったことにする。俺ら、一応要人なんだからな? 王国で下手な真似はできねえの!」

「わぁったよ。真面目だな」


 仕方なさそうに肩をすくめるグリューンに、カインはため息が出てしまう。

 ただ、だからといって机の上に並べられた証拠品を無碍に扱えるわけもなく……。元々自警団として活躍していたライカに保管を頼んだ。〝モーシュお手製魔法袋〟に緊急避難的に入れ込んでいく。


「首謀者が見つかったのはいいが……。こっからどうする? 正直、指示書だけじゃあ弱いだろ。こういう奴は口だけは一丁前なんだよ……。現行犯で捕まえるのが一番手っ取り早いんだけど……」

「直接的な証拠が欲しいってのは同意だ。だから、これでどうこうしようとは思ってねえよ。あくまでも〝R〟本人かどうかの確認なだけで」

「じゃあ、何か考えがあるのか?」

「盗みに入った時に思いついた」

「とんでもねえタイミングだな」


「クリーブ・ロードン……〝ロードン商会〟は〝王都武闘会〟の催し物に参加するつもりでいるらしい。招待を受けていないのにも関わらず、勝手にな」

「やりたい放題じゃねえか。なら、催し物だか出店だかで出張っているところへ、直接対決に行く感じか?」

「ロードンがそれで素直に反応してくれりゃいいが……腐っても商人、難しいだろ。しらを切って、雲隠れするに決まってる」

「厄介だな……」

「だから……。やつを動かしたい」

「動かす……?」

「いいか――」



 

 以前の囮作戦はうまくいかなかった。だからこそもう一度囮作戦を仕掛けるのだと、グリューンは語った。

 少年としては、どうやら前の作戦が失敗し、その結果として〝フランツ襲撃事件〟がずるずると長期化しているのが許せないらしい。

 〝天神教〟がどうだの、聖職者になるにはなんだの、不意に流れてくる呟きを聞く限り、噂の新興宗教に入り浸りたいようだった。


 ともかく、そういった欲望を一旦押し殺したグリューンは、クリーブ・ロードンおよび〝組織〟にしっぺ返しを喰らわせたいらしい。

 もう一度同じ罠を張ることで、より屈辱を味合わせたいという。

 それこそ子どもじみた発想だったが……カインはその内容に舌を巻いた。

 木を隠すならば森の中、というように。人混みに紛れて、襲われるのを待つ。

 人前で大胆に襲撃することはほぼ考えられないため、折りを見て裏路地に入り……誘い込んだところへ逆襲をかける。


 その決行日が〝王都武闘会〟の前日祭。

 最初は上手くいった。

 〝ロードン商会〟の出店もすぐに見つけることができた上、贅沢三昧だとわかるようなクリーブ・ロードンも確認できた。素知らぬ顔でフランツが串焼きを一本購入すれば、少し時間を置いたところで数人に尾行されるようになった。

 ここまでは完璧……だったのだが、致命的な誤算があった。

 〝王都武闘会〟成功に向けた竜ノ騎士団の並々ならぬ運営力と、それに引き寄せられた観光客の多さである。


 〝王都闘技場〟内では、王国各地から集まった特産品の大試食会が行われ。その外、闘技場をぐるりと囲う〝円形大通り〟では、出店に演奏会にパフォーマンスと、多種多様な催し物があちらこちらで開かれていた。

 この全てを騎士団が事前に招待し、配置や時間もきっちりと決めたのかと思うと、前日祭とはいえ途方もない規模だった。

 当然、これに応える形で人々が集まり……途絶えることのないヒトの波が出来上がっていた。

 予想はしていたものの、想像以上の人混みと熱気。


 フランツとグリューンは以前と同じ通りにセットで動いているが、カインたちは付かず離れずの距離を保たねばならない。

 が、ヒトに揉まれては、もはやライカとヴィーナとはぐれないようにするのが精一杯であり……気づけばフランツもグリューンも見失っていた。

 時間帯もまずかった。

 ヒトが多ければ多いほどいいということで夕方に開始したのだが……あたりが暗くなる一方の中、二人を見つけるのは至難の業だった。


 ラッキーだったのは、何事もなくフランツが帰ってきたということ。

 それに加えて、フランツを尾行していたチンピラ四人を確保できたことも、結果的には狙い通りだった。


「事前に宿確保しといてよかったな……。四人連れ込んでもなんとかなるとか、さすがは王都の宿泊所だな」

「そうね……。けどそれよりも……〝元帥〟、ほんと怖かった……」

「だなー……。モーシュさんの〝魔法具〟があったからなんとかなっただけで……普通に〝錯覚系統〟とかで隠れてたら、絶対見つかってた。看破する能力、エグない?」

「道具に頼りすぎたらダメってのは、こういうことだったのね……」

「リリィ・エルトリア……あんな美人なのに、マジ魔王かなんかに見えた。〝世界列強〟で十五位とかだっけ……? やばすぎ」


 〝王都闘技場〟から少し離れた宿泊所。

 その最上階の大部屋の一つを奇跡的に借りることのできたカインたちは、それまでの緊張感と疲れから解放されたように、各々グデっとしていた。

 カインはベッドの一つに手足を広げて寝っ転がり、その足元にライカとヴィーナが並んで腰掛けている。

 フランツが一緒のベッドに潜り込もうとしたものの、ライカにギッと睨まれ、隣のベッドへ退散。

 グリューンは、誰かが訪ねてきてもいいように、扉にもたれかかって座っていた。


 そして、大部屋に変更してかなりの額を支払うこととなった原因であるチンピラ四人は、すでに目を覚ましていた。

 猿轡を噛ませた状態でゴロリと転がっている。ろくに身じろぎもできないのは魔法で定期的に痺れさせているためである。

 流石にこの状態が見つかるのはまずい。

 遠路はるばるやってきた友達が酔い潰れてしまった、ということにして大部屋に変更してもらったのだ。

 とはいえ、見つかったとしても事件の全容を伝えればなんとかなるのだろが……カインとしては、できることならばこのまま自分たちで解決したいところだった。


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