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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第7章

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658.ランク

「あー……。さっき、合格とか不合格とかって言ってたけど……。僕は騎士団に入団した、ってことでいいの?」

 男としての葛藤など知る由も無いリリィは、ただただ甘えるように抱きつく力を強めてくる。彼女の顔が首元に埋まり、微動だにしなくなる。

 キラは行き場を失った両手で自分の体を支えながら、理性を保ち続けるためにも話題を振った。


「ええ、そうですわよ。別途入団手続きが必要となりますが、現時点でもうすでに竜ノ騎士団の〝見習い騎士〟という肩書きになっています。キラに限らず、各宿に戻った方たちも」

「で……。〝王都武闘会〟に参加するのは自由?」

「初めは全員参加で、大会の終了をもって騎士団の入団という形にしていたのですが……。〝王都武闘会〟はそれまでの成長を見せる場ですから。これからが本番という志願者たちに強制すべきでは無いと判断したのです」

「そっか……。志願者たちだけが出るってわけじゃ無いもんね?」

「トーナメント本戦に出場するには、予選で三位にまで勝ち上がらねばなりませんが……。ああ、そうです。これ、お伝えしておかねばと思いまして」

「うん?」


「今大会の最大の目玉である〝ランクアップ〟制度、ご存じですか?」

「ああ……。告知で張り出されてたね。確か、下の階級が上の階級の騎士に勝つと、一つランクアップするんだっけ? 見習いが下級騎士になったり、下級騎士が上級騎士になったり」

「その通り。これはトーナメント出場者全員に平等に与えられる権利となり……むろん、志願者も例外ではありません」

「僕ももう〝見習い〟だから、だね?」

「はい。志願者は入団して間もないということもあって、初戦は同クラスと当たるように組みますが……勝ち進めていけば、下級騎士や上級騎士とも当たることになります」

「じゃあ……。いきなり上級騎士からスタート、なんてこともある?」

「もちろん。生半可ではいかないでしょうが……たったひとり、例外はいるでしょうね」

「あ? ヌ……誰だ……? 生意気な」

「キラは……。もう少し、自分が注目される存在だと自覚してくださいな……。まあ……だからこそ〝天神教〟が設立されたといっても過言ではないのでしょうが」

「そうなの……?」


 ありがた迷惑、とは口が裂けても言えない。

 それを言ったが最後、エルトに怒涛のようにブチギレられる。実際に、ひょこっと頭を出すかのように存在感を感じ、監視されていた。

 リリィも何かを感じ取ったのか、密着していた上半身をそらして、じっと見つめてくる。

 キラは負けじと見つめ返したかったが、じとっとした視線に思わず逸らしてしまう。


「ま……。決める時にはきちっと決めますから、咎めはしませんが。もう少し、自分に胸を張れるといいですわね」

「……善処するよ」

 ピンポイントで急所をついてくるリリィには敵わない。彼女の目をチラチラを伺いながら答えると、リリィはにこりと満面の笑みを浮かべた。

 逸らしていた上半身を元に戻して、再び密着してくる。今度は恋人がそうするように、首に腕を絡めて。

 キラは反射的に彼女の背中に腕を回し……不意に抱き合う形になる。


「ン……」

「リリィ?」

「……おほん。なんでもありませんわ」

「おー……?」

「それで、ですね。もうすでにキラは〝見習い〟なので、先ほども言った通り、ランクアップ制度が適用されます。首尾よく大会を制すれば、〝師団長〟の地位を得られるでしょう。――本題は、その先です」

「先……」

「大会優勝者は〝元帥〟への挑戦権を獲得でき……ここで勝利をもぎ取れば。ランクアップ制度を利用して、即時〝元帥〟昇格を果たせます」

「もちろん、手は抜かないよね? リリィも、セレナも、アランさんも」

「当然。……キラならば、そう言ってくれると思いました」

「ヤラセは時と場合を選ばないと。セドリックたちのことを考えたら、なおさら手抜きは考えられない――せっかく、あそこまで信頼してくれてんのに」

「ふふ、ですわね。期待して待っていますから……キラも、駆け上がってきてくださいな。きっと、驚きますわ」

「……? 驚く? 何に?」

「内緒、です」


 ちゅ、と頬にキスをしてから、リリィは体を離した。

 身体中から熱気を剥がされた気がして、キラは思わず彼女の顔を見上げた。

 すると、彼女もまた名残惜しそうに眉を下げ……むむ、と眉間に皺を寄せて、きりりとした顔つきで言った。


「試験が終わったとはいえ、まだ大会も控えていますし、〝元帥〟であるわたくしが特定の個人と親しくしていてはならないのです。なので……また、のちほど。ね?」

「別に、そこまで子どもじゃないけど……。お祭り、一週間くらいあるんだし……。時間空いたら……」

「ええ。それを楽しみに仕事に励みますわ」

 リリィは手慣れたように鎧を身につけ、〝元帥〟の顔つきになり、ひらりと手を振って美しく部屋を去っていった。


〈空き時間……。どーしよ。一旦エルトリア邸に帰ってみるかな〉

〈えー? 遠くない? お祭り楽しむとこじゃない?〉

〈エルトが行きたいだけじゃん……〉

〈だって、お祭りなんてほとんど行ったことないもん! イベントがあったら〝元帥〟として呼ばれるしさあ! 買い食いしたい、踊り子さんと踊りたい!〉

〈わかった、わかったよ……。踊らないからね?〉

 駄々をこねるエルトの〝声〟に応えるべく、キラはため息をつきながら身支度に入った。


   ◯   ◯   ◯


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