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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第7章

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655.課題

 皆で倒れていた砂浜は、少し傾斜がかかっている。近くに土手があり、それに差し掛かるに連れて勾配がキツくなる。

 砂の坂道をざっざと登って土手に上がると、すぐ目の前に街道が横たわっている。右から左へ土手沿いに続き、その先には小さな町が見えた。


「まさか、あの町が……?」

「僕が知ってる騎士団支部とはかなり規模が小さいから、あそこに〝転移の魔法陣〟があるとは思えないけど……。でも、こうしておあつらえ向きに街道が目の前にあって、見える位置に町があるのなら……試験に関係してるって考えていいと思う」

「おお……! みんな、上がってこいよ!」

 セオドアが皆を率いているうちに、キラは町に向かって歩き出した。


〈ここまで説明しなきゃなんないの……?〉

〈まあ、経験の差だよね。キラくん、遭難するのには慣れっこだから〉

〈言い方。ってか、これで間違えてたら僕のせいになるんだろうなあ……。セオドア、なんか自分の手柄みたいに誘導してるけどさ〉

〈捻くれすぎー……っていいたいけどね。あり得なくもない〉

〈ねえ……。〝元帥〟の仕事って、本来こういうことだったりする?〉

〈んー……。雑務も多いのは確かだね〉

〈ええ……。〝元帥室〟の隣に事務室みたいなのなかったっけ?〉

〈例えば、本部勤めの上級騎士たちの実力とか、〝元帥〟クラスにしかわからないじゃん? そういうのを言語化して報告書に落とし込むのは〝元帥〟の仕事なんだよ。まとめるのは事務官たちがやってくれるけど〉

〈げえ……。リーウに任せたらダメかな〉

〈リーウちゃんは騎士団の人間じゃないじゃん〉

〈けど、僕の専属メイドでしょ〉

〈じゃあ自信持って掛け合いなよ。アンダーソンは堅物だよ~?〉

〈く……。ざ、雑用とかで入ってもらって……。なんとかこじつけできないかな〉

〈あ~。わりとあり、かも。キラ君が〝元帥〟になれたらね〉

〈うぅ……プレッシャーかけてくるなあ〉


 キラは鞄を背負い直しつつ、ちらりと後ろを見た。

 少し離れて志願者たちの集団がついてきている。彼らの中心にいるのはやはりセオドアで、和気藹々と自己紹介などをしていた。

 呑気と思うべきか、結束力が築かれていると思うべきか。どちらにしろキラには混じるつもりはなく、彼らもまた〝英雄の再来〟に距離を取るばかり。


〈こういう時、ランディさんならどうすんだろ〉

〈指示する能力とまとめる能力は違うからね〜。奔放なラザラス様に自由なレオナルドが身近にいたから、師匠はまとめ役なことが多かったみたいよ。でも……やっぱり、今のキラくんと立ち位置は変わらないと思う〉

〈ええ? ホント?〉

〈割と自分で決めてホイホイこなしちゃうヒトだから〉

〈あ~……。そういわれればちょっと強引なとこはあったかも。やんわり強引〉

〈そそ。道を示しつつまとめていく、みたいなね〉


 町が近くなってきたところで、誰かが待ち構えていることに気づいた。最初は門番か見張りかとも思ったがそうではなく、腰の曲がった老人だった。

 しかも、近づくごとにその人数が増えていく。老人がはたとして周囲を見渡し何やら声をかけると、ぞろぞろと町民たちがその後ろに集まり始めたのである。


「ようこそ、おいでなさった!」

 妙な歓迎ムードで老人が切り出し、キラはどう反応したものか戸惑ってしまった。すると、隣に立ったセオドアが一歩前に出る。

「これは……一体?」

「竜ノ騎士団に志願した者たちで間違いはないの?」

「ええ、そうですが……」

「わしゃ、この町の長のブライスというものでしてな。栄誉あることに、サンドラ・タウン総出で入団試験の問題を出させていただくのですじゃ」

「ええっ!」


 良くも悪くも目立ちたがりな彼に対応を任せ、キラはさっと周りを見た。

 サンドラ・タウンは、村が少し発展したかのような町だった。

 村の真ん中を貫く道に沿って家がまばらに建てられている。海に面しているとだけあって、隣接している砂浜には魚やら海藻やらが干されており、海岸には小舟もいくつか係留している。

 いつもならば町民たちがせっせと働いているのだろうが、今日はそうではなかった。

 町長を名乗る老人の言った通りに、町をあげて竜ノ騎士団に協力をしているらしい。


〈なんか……二組に分かれてるっぽい?〉

〈ね。半分赤い服を着てて、もう半分は青い服……。入団試験とか言ってたし……これ、協力する必要あるんじゃない?〉

〈ええ……? 団体でクリアしなきゃいけない……とか?〉

〈個人を測る意味もあるから、必ずしもそうじゃないとは思うんだけど……。協調性を見るのは間違いないわね〉

〈んげえ……〉

〈今日はため息ばっかりつくね〜〉

 楽しげなエルトの〝声〟を一旦無視して、老人の説明に耳を傾ける。


「試験に入らせていただく前に……。これは全て演技であり、真ではないことを念頭に受けていただきたい。良いですかな?」

「もちろん。みんなも、いいな?」

 当然のように受け答えするのはセオドア。

 それに合わせて志願者たちがやる気に満ちた返事をし、キラは逆にどんどんと気力が削がれていた。

 とはいえ、そこで減点されてはたまったものではないため、適当に声を出しておく。


〈キラくん。下緒で刀縛っておいたら?〉

〈そんなどこでもここでも抜刀はしないけど……〉

 万が一のことも考えて、剣帯から刀を抜いて、鍔と鞘を〝紅の下緒〟でくくりつける。

 皆も武器を封印し、中には指定された場所に荷物と一緒に置いておく志願者もいた。

 セオドアもその一人だった。どうやら大斧は、日常生活的な動きにすら支障が出るくらいに邪魔らしかった。 


「さて、みなさん、こちらへ。そう。こう、門を横から見るかのように」

 こういったある種のお祭り事が好きなのか、町長は楽しそうに志願者たちの顔を見回して続けた。

「入団試験といっても、町での困り事を解決してもらったり、何か手伝いをしてもらいたいわけではない。一つの問いかけに答えてもらいたいのじゃ。右か、左か、というふうにな」

「はあ……。それだけ、ですか」

 皆の心を代弁するセオドアに、町長が深く頷いた。

「テーマは、〝疫病との戦い〟じゃ。心して取り組むように」


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