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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第7章

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651.招集

 ナタリーのおかげでいくらか緊張がほぐれたらしい。ミリーは先ほどまでとは打って変わって、むしろ先導するかのように先をいく。

 〝パン屋通り〟の入り口付近で待っている馬車に乗り込み、キラとセドリック、ミリーとドミニクとで並んで座る。


「せま……」

 それぞれに荷物を膝に乗せ、ドミニク以外は武器も邪魔にならないように一緒に抱えるとなると、それなりに狭くなってしまう。

 キラは隣に座るセドリックと小競り合いをしつつ、しかし対面して座っているミリーにはつま先も〝接触〟しないように注意しながら、体を縮こまらせた。


「これが普通だっての。キラが知ってる馬車が全部大きすぎなの」

「あ……。キラさんって、もしかして貴族だったり……?」

「いや、こいつ自身は一般市民……だと思う。リリィさんとこ……エルトリア家に厄介になってるだけで」

「ええ……! すごい……〝元帥〟と仲良しだなんて! セドリックさんとドミニクさんもですか?」

「あー……俺らは何回か面倒かけただけで……。目をかけてもらってるっていやあ、そうなのか……?」

「羨ましいです……。リリィ様やセレナ様、うちにいらしてくれることもあるんですけど……私、なかなか喋れなくて」

「わかるわかる。俺、毎回頭真っ白になりそうだもん」


 ガラガラと着実に〝王都武闘会〟会場である〝王都闘技場〟に近付く中、セドリックがそれを意識させないように率先して話を振っていく。

「そういや、リーウさんはどうしたんだよ?」

「どうしたも何も……。リーウは試験には関係ないから今日は留守番。明日、リリィたちと一緒に観戦するんだってさ」

「そっか……。一緒に来てたら、もうちょっと魔法の訓練を詰めたかったんだけど……」

「んー……。〝身体強化〟はできるようになったんだっけ?」

「一応な。落ち着いた状況じゃなきゃ、まだできねぇけど」

「なら……。それがわかってるんだったら、もう無理に魔法を意識しなくてもいいと思う。殺し合いをするんじゃないんだし、今まで反復して練習してきたことを本番でもできるようにすればいいんじゃないの?」

「おお……! お前、ほんとこういう時は頼りになるよな」

「……それ以外は?」

「ポンコツ」

「……」

 一瞬、何か言い返そうかと思った。だが確かに思い返すと、彼らの前で戦い以外でいいところを見せたかというと、そうでもなく……シンプルに黙るしかなかった。


「ねえ。私にもアドバイス」

「ええ……? 魔法のことはよくわかんないし……。確か、〝武闘会〟に出場するのは選択式になったんじゃなかった?」

「私も、挑戦する。だから、ぷりーず」

「ん〜……。ドミニクって、戦闘中に魔法の〝気配〟は感じる?」

「たまに……。ノってるときなら」

「じゃあ……。〝身体強化〟で接近戦に備えるんじゃなくって、感覚を強化する魔法とかがあれば、それを中心に遠距離戦で立ち回ったほうがいいと思う。相手の魔法を感知して、それに合わせて戦ってみる、みたいな。大会で僕が先に出たら、参考にしてみて」

「……? キラもできるの? 魔法使えないのに?」

「あ? あー……に、似たようなことはね」

「そう……。接近戦に持ち込まれたら?」

「んー……。ナイフは最後の最後。切り札にしといた方が無難かな。互いに情報知らないんだし、魔法がメインって思い込ませれば初戦は勝てる。その後もナイフをちらつかせておけば、割と脅威にはなる」

「おっけー。ありがと」

「ところで……。僕ってポンコツ?」

「うん」

「……」


 即答されてしまうともはや反論のしようもなく……。エルトが頭の中でけらけらと笑うのを聞いているしかなかった。

 そのせいで、ショックというよりかは苛立ちが勝り……しかし、何か期待するような目を向けてくるミリーを前にしたら、一ミリも態度には出せなかった。


「あー……。何か聞きたいことある?」

「あの……。私は、大会にでるべきでしょうか……?」

「ん……その……。正直、難しいとは思う。魔法を使えるようになったのはすごいけど、それだけじゃあ戦えないし、剣術も未熟だから。怪我することを考えたら、無理をしない方がいい」

「わかりました……」

「まあ、戦って活躍するのは派手だけど、それだけじゃ騎士とは言えないからさ。チンピラでもできることを確かめたいわけじゃないんだよ……極端な話ね。肝心なのは、君が騎士として何ができるか。それを肝に銘じておけば、何があっても大丈夫」

「……はい」


 何をどうアドバイスすればいいかわかったものではなかったが、少女ミリーの中の漠然とした不安は薄れたらしい。

 馬車が会場に近づくにつれ、三人とも黙々と己と向き合い……そんな時にキラは、エルトと他愛のないやり取りをしていた。


〈ねえ……。ポンコツじゃなくなるにはどうしたらいい?〉

〈え……? ポンコツじゃなくなったら……それはキラくんじゃなくない?〉

〈……〉

〈ウソだよ、ウソ! でも……どうしようもないのは事実じゃん?〉

〈……否定したい〉

〈ほら、願望止まり。だからねえ、そのままでいいと思うわよ? なんでも完璧な超人なんてこの世にはいないんだしさ〉

〈もう……何の話かわからなくなってきた〉

〈ほぅら、ポンコツ〉

 もはや苛立つのもバカらしくなり、キラは小さくため息をついて、とりあえず車窓を眺めて落ち着くことにした。




 〝王都闘技場〟の周辺は、すでに前日祭で賑わっていた。

 ドでかい円形闘技場をぐるりと取り囲む〝円状大通り〟はすでに馬車侵入禁止となり、歩行者天国となっている。

 出店が多く連なり、その上路上パフォーマンスもところどころで催されているために、ヒトでごった返していた。


「あぁ……。気分最悪」

「いやぁ……。こればっかりはキラに同感だな」

「前日でこれ……。明日が怖い……」

「はぁ……。暑くて死にそうでした……」


 〝王都武闘会〟に先駆けて、竜ノ騎士団の志願者たちは集合をかけられた。

 竜ノ騎士団に志願するヒトたちは王国全土にいる。

 当然、王都に到着するまで何ヶ月もかかるというヒトもいて、となれば地方出身者はハンデを押し付けられることになる。それを避けるため、例年、〝転移の魔法陣〟を用いて志願者たちを移送しているのだという。


 本来であれば、試験は竜ノ騎士団の各〝騎士寮〟で行われるため、寝泊まりするのには困らない。

 が、今回は〝王都武闘会〟での開催。〝騎士寮〟を使おうにも、場所によっては大人数の大移動が困難となってしまう。

 そこで、〝王都闘技場〟の周辺の宿泊施設を全て押さえて、そこに集合をかけるという形を取ったのである。

 リリィによれば、最終的な志願者合計人数は約千人。一部屋四人、一つの宿泊所に百人、と考えてもなかなかの規模となる。


「あ。セドリック、ドミニク。案内の入った手紙、預かってるから」

「お、サンキュー。俺らはリリィさんに全部手続き済ませてもらってたもんな。……ちょっとヒヤヒヤした」

「僕が忘れてたんじゃないかって? そんなポンコツは……しないよ」

「どもらずに言い切れよ。まあ……俺らが持ってても無くす可能性はあるけど」

「ほら。だから内容だけ伝えたんだよ」

「ホントかよ」


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