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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第7章

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649.手掛かり

 グリューンの疑いを晴らすなど、そういうつもりは一切なかったが。結果的には、彼を疑わないで済む方法も網出せた。

 単純な話、グリューンが敵であるならば、彼をも囮にすればいい。

 フランツとグリューンを襲撃現場近くで歩かせ、その様子をカインたちは見守る。

 グリューンが裏切りを働いたとしても何とかなるし、仮にどうにもならずともテレクロス〟がある。もちろん、そういった意図はグリューンには伝えない。


 すぐさま行動に移したかったものの、まだ授業がある。

 三人一緒にサボるということはできず……とりあえずフランツには寮で待ってもらうことにした。襲撃者たちも流石に〝テレクロス〟の存在は想定外のはず。どこに消えたのか見当もつかないだろう。

 カインは、フランツを自室に連れて行き、絶対にどこにも出かけないよう言い聞かせ……ついでに私物をいじらないようにもいい含め……そわそわとしながらも、授業に臨んだ。

 そうして来る放課後。


「っし、準備は万端だ……」

「ねえ……。ソレ、本当に使うの?」

「そうですよ。カインさんは信頼していますが……何より音が……」

 時刻は夕方。太陽が地平線に沈みかける頃合いであり、裏路地に入るともはや夜のように暗い。

 その時間帯に合わせて〝歓楽地区〟にやってきたカインたちは、囮のためにふらふらと歩くフランツとグリューンをつけていた。


「一応の保険だから大丈夫だって。それに、コイツはまだ王国にはない代物だろ。何が起こったかなんて分かるやつはいないだろ」

「そうでしょうか……? くれぐれも、気をつけてくださいね」

「おう。ありがとな」

 じっと見つめてくるヴィーナが何を求めているのかがわかり、カインはその頭を撫でてやった。満足そうに目を細めたところ、ライカが手振りで合図を送ってくる。


 カインはちらりとあたりの状況を確認した。

 フランツとグリューンは、小路に入り込んでいた。裏路地とまではいかないものの、建物の密度が高く、大通りよりも狭い。

 地図によれば、十数メートル先に小さな噴水公園があり、ここを右に曲がってまた小路に入って少しすると、歓楽街の大通りに出られる。

 仕掛けてくるならば、噴水公園。


 物陰に隠れて、その時を待ち――。

「――来た」

 フランツとグリューンが噴水を横目に通り過ぎようとした時、公園を取り囲むアパートメントの屋上から次々と人影が降ってきた。

 合計六人。マントを羽織った襲撃者が、次々と音もなく二人を囲う。

 これは囮作戦。フランツもグリューンも、襲撃者たちを取り逃さないためにも、すぐには動かない。


「ヴィーナ、援護頼む。――〝静かにいくぜ〟、ライカ」

 ヴィーナを残して、カインはライカと共に駆け出した。

 〝静寂の魔法〟のおかげで、足音は極限にまで抑えられている。極限にまで接近し他ところで、ヴィーナの〝光源の魔法〟が後ろから追い越し、襲撃者たちの視界を奪う。

 その隙に一人確保。それだけできれば、事件に終止符を打てる。

 そう思っていたが。


「――ち、散開!」

 想像以上に、襲撃者たちの実力は高かった。

 魔法使い同士の戦いは、ファーストコンタクトが最も重要。互いに情報がなく、手の内が知られていないうちに圧倒するのが理想。

 だがその常識は、奇襲時には無意味なものとなる。

 成否を握るのは魔法の〝気配〟のみ。これを気取られてしまえば何もかもが崩れる。


「まずいっ……!」

 それなりに場数を踏んでいたものの、まだ認識が甘かった。

 モーシュからも忠告されていたが、〝カイン〟の〝ことだま〟は強すぎる。

 繊細なコントロールによって成り立つものであり、それはすなわち、簡単に〝気配〟が漏れてしまうことになる。

 それでも自信があったからこそ作戦を決行したが、襲撃者たちは想像以上に駆け引きに長けていた。


 カインは自分に失望しながらも、動きを止めるわけにはいかなかった。

 懐に手を差し入れ、万一に備えていたソレを取り出す。


「――逃げてんじゃねえよ!」

 急変する状況にも、グリューンが素早く対応していた。護衛役を任されているだけあり、手近にいた一人を足止めする。

 接近戦を仕掛け、追い詰める――が、あと一歩のところで距離を取られる。


 その瞬間。

 カインは靴属を鳴らしながら立ち止まり。

 手に握りしめていたソレ――回転式拳銃を構え、引き金を引いた。

 弾丸を弾き出す音とともに、硝煙がゆらりと立ち上る。


「ぐぁっ!」

 直後、襲撃者に着弾。


 想定外の横槍によろめき、しかし、それで止まることはなかった。

 ぼふんっ、と魔法による煙幕が巻き起こる。噴水公園全てを飲み込むような白煙に、カインはたまらず口と鼻を覆い隠し……。


「くそ、逃げられた……!」

 晴れた時には、六人残らず姿を消していた。

「悪い。俺の魔法で気取られた……」

「仕方ないわよ。悪党っていうのは逃げ足だけは早いもん」

「俺とヴィーナの魔法の噛み合わせ考えて、ギリギリの距離保ってたってのに……。ったく」

 ため息をついたところで、カインはフランツの様子に気がついた。グリューンと一緒になって地面にしゃがみ、何かをしきりに見つめている。


「どうした、二人とも?」

「カイン。これ……」

 ライカがヴィーナを呼びに行っている間に、フランツの手招きに従う。

 彼が見せつけるようにして拾い上げたのは、封筒だった。


「なんだ……? 手紙?」

「みたい。封筒には宛名がないんだけど……便箋には、ほら」

「R……。差出人のイニシャルか……。内容は……暗号化されてんな」

「指示書ってやつだよね。よね?」

 標的となっているというのに、フランツは楽しくなってきたようだった。それと同時に少し恐怖を感じているのも確かなようで、体を寄せてくる。


「まあ、俺のヘマで取り逃しちまったわけだが……。最低限、手がかりは手に入れられたってことか。この暗号もすぐに解読できりゃいいが……」

 封筒と便箋を見比べていると、下の方からニュッと手が伸びてきた。見せろ、とばかりにグリューンが手首を掴んでくる。

 少年らしい仕草に笑いそうになりながらも、カインはグリューンが見やすいように地面に膝をついた。


「これ、王国貴族のだな。少なくとも立場ある身分には違いない」

「え? なんで分かるんだよ……?」

「封筒も便箋も上質だろ。文字は掠れもないし止めも払いもきちんとしてやがる。しかも明らかに万年筆の筆跡だ。封筒には封蝋で留めた跡……きっちり剥がしてるけどな」

「はぁ……。言われてみりゃ、そうかも」

「指示なんざ紙切れにでも書いときゃいいところを、わざわざこうして体裁を取り繕ってる。ってこたぁ、バレちゃなんねぇ立場で、バレちゃなんねぇ関係があるってこった」

「名探偵かよ……!」


「事情を知らねぇ使用人かなんかを介して、内密なやりとりをしてるってところじゃねぇか。そうすりゃ郵便に出す必要はないし、封蝋一つで合図になる。あとは、この暗号の文章と、〝R〟の筆跡を辿ればいい」

「お手柄だなぁ、おい……! 俺がヘマやらかしてもカバーしてくれるって。ありがとうな」

「いや。あれは……」

「どうした?」

「……別に。なんでもねぇ。とっとと離れるぞ。広範囲の煙幕とお前の妙な武器のせいで、人目が集まる。竜ノ騎士団が巡回してんだ……見習いでも面倒だぞ」

「それもそうだな。とりあえずは撤収だ」

 こうしてカインは、キラやリリィたちとは別の形で、長い戦いに挑むことになっていた。


   ◯   ◯   ◯


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