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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第7章

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640.多難

 想定通り、キラはセドリックたちと同じグループで動くことになった。

 十四人で一つのチームとなり、あらかじめ定められた〝北西ルート〟を辿って、三つの〝ポイント〟を調査することになる。


 そこで、少しばかり問題が発生した。

 キラたち以外の十人は、やはり王都の外に出たことがなかった。

 旅に出ることの受け止め方もまるっきり違い、ほぼピクニック気分。

 三週間にわたる旅というのに支給された食料を間食か何かのように食べ始めたのには、キラ達四人同時にびっくりしてしまった。


 街によれば買い足すことはできるものの、何があるかはわからないからなるべく控えるように……。などと当たり前のようなことをいくつか忠告しておいてから、支給された三台の馬車の一つを陣取り、先陣を切って出発することになった。


「あぁ……。まだ集合から三十分も経ってないんだよね……」

「です……。とても疲れました……」

「しょーじきよ。この馬車に経験者集まりすぎだし、分散した方がいいんじゃないかって思ったけど……。無理だな」

「うん。常識と前提が違いすぎて……ストレスフル」


 ドミニクが手綱を握る中、キラたちは想定外の仕事に疲弊し切っていた。キラとリーウは支え合うようにして座り込み、セドリックは真ん中で寝転がっている。

 事実、一番大変だったのはセドリックだった。

 キラは人見知りで、リーウは王国初心者、ドミニクは口数が少ない。そういうメンツだったために、主な説明やら忠告やら段取りやら、全て彼が引き受けてくれたのである。


「ってか、この馬車、もしかしなくても僕らにあてたものじゃない? 職員さんにわざわざ『こちらを』ってあてがってもらったし。多分、他の背後に続く二台よりも食糧とか多いよね」

「お前らが指揮しろよ、みたいに言ってるもんだよな……。納得いく編成だよ。〝ポイント〟の調査の手伝いってだけなら、多分キラだけで事足りるんだろうけど……三週間一緒に行動するってなったら、そりゃあ人数かける必要あるよな」

「老人に子連れに、メイドが二人……。後一人は、冒険者としてはまともそうだったけど……クセが強そうだったね」

「バックス、だったか……。あいつとは気があわねぇ」

「へえ……。セドリックでもそういうことあるんだ」

「見下された感じがしたんだよ」


 セドリックと同じくらいの年頃の少年で、しかしながら絵に描いたように真反対な性格をしているのがバックスだった。

 一言で言い表せば、一匹狼。

 伸びっぱなしのボサボサな茶髪といい、整っているが故に鋭く厳しい顔つきといい、ボロボロの服装といい……。スラム街で育ったかのような荒んだ風体をしていた。


 とは言っても、その場の空気を崩すようなことをしたわけでもない。終始会話に混じろうとはせず、聞き手に徹していた。

 おそらくは、他の参加者の値踏みをしていたのだろう。

 大学教授や学生たちを含めて順繰りに鋭い視線で観察していき……その途中で、セドリックと目があったのだ。

 あからさまに表情を変えることはなかったものの、鼻を鳴らす様は確かに見下していた。


〈あんまり言えないけど……。多分、バックスっての、セドリックよりも腕が立つよね〉

〈だね〜。キラくんには一切視線を向けなかったし〉

〈ああ、そう言えば……。リーウまで見た後、スッて逸らしたような……〉

〈野生の勘は強いよね。プライドがそれを許さなかったっぽいけど〉

〈ん〜……。こっちに連れてくればよかったかな? 他のところだと、なんかトラブルになりそうで怖い……〉

〈そうするとセドリックくんがイーッてなるよ?〉

〈なに、イーッ、て〉

〈直感でソリが合わないんじゃどうしようもない、って話〉

〈そういうことね。まあ、とりあえずは様子見かな。何かしでかすようなら止めればいいし〉

〈勢い余って若い芽を詰まないでね〉

〈ええ? 殺しやしないよ〉

〈何があったかは知らないけど……ああいう子って、結構繊細なんだから。気遣ってあげなさい〉

〈ふん……。まあ、頑張ってみるよ。それでさ……〉

 思わずエルトと話し込みそうになったのを、リーウが割って入ってきた。


「さあ、キラ様。勉強を」

「うぅぐ……」

「最初は絵本を読みながら文字を把握しましょう。繋がりで覚えるのです。個別は後」

「はい……」

 もはや抵抗はできない。

 そう悟り、キラはリーウを先生にして文字の勉強を始めた。




「飲み込みは驚くほど早いのですが……。その集中力が仇となったのでしょうか。申し訳ありません」

「ぐ、う……だ、大丈夫……。慣れっこだから」

 ごとごとと馬車に揺られること三時間。

 太陽が真上に登ったタイミングで、馬車を止めて一時休憩とした。周囲何もないだだっ広い平原に三台の馬車を順に停めて、それぞれに昼食の準備をする。


 一息つきながら昼食を……。といきたかったものの、キラは例によって乗り物酔いでダウンしていた。

 セレナ特製の酔い止めで一時間はなんとか持っていたものの、そこから十分ごとに具合が悪くなっていき……馬車が留まる頃には、自力で立てないほどに酔いが回っていた。

 そのせいで、あるいはそのおかげで。

 わいわいと楽しそうに交流を深める一団から少し遠ざかったところで、リーウに膝枕をしてもらうことになった。

〝魅了〟の影響が気掛かりではあったものの、髪を撫でたり胸をトントン叩いたりと、子ども扱いなそのあやしかたが妙に癒しになり……キラの方が彼女の看病の虜になっていた。


「しかし、〝錯覚系統〟も効きづらいとは……。なかなか厄介ですね」

「ま、僕〝授かりし者〟だから。……あれ、リーウには言ったっけ?」

「帝都では色々とありましたから、キラ様のお口から聞いたかは忘れてしまいましたが……。セレナ様から伺いましたので、存じてはいますよ」

「だから……そういう関係もあるんじゃないかな」

「ふぅむ……そうだとしても……。この酔い方は尋常ではないというか……。過去に何か大きなトラブルに巻き込まれて、それが元でトラウマが呼び覚まされているような……そんな感じがします。何か、ありましたか?」

「あー……。ごめんよ。僕、記憶ないからさ……記憶喪失。多分、リリィかセレナから聞くとは思うんだけど」

「……? !!!」

「ああ、びっくりしたね? 一応、内緒だから言いふらしたりはしないでね?」

「はい……」


 リーウは物憂げな目つきをしたのち、ぎゅっと瞼を閉じた。

 鼻と目頭にいっぱいに皺を寄せてから、何事もなかったかのように目を開ける。それでもなお視線は何か言いたげだったが、彼女は自らの感情を押し殺してくれた。

 そんな彼女の様子に、キラは無意識に手を持ち上げていた。リーウの頬を撫でると、彼女はほっと息をつき、手のひらの暖かさを受け止めた。


〈グリューンといい、ローランといい……。良い人だ〉

〈キラくんのヒトを見る目は確かっぽいから。割と自信持った方がいいよ。そういうので泣くヒト、結構いるから〉


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