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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第7章

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639.前途

「まあともかく……。この様子じゃあ、ギルドには入れないね」

「キラ様。帰るだなんて言い出しませんよね?」

「僕をなんだと思ってんの……。危ないから案内があるまでここで見物しようって話じゃんか。――ほら、セドリック。ドミニク、小柄なんだからそう前に行かない。早い者勝ちじゃないんだからさ」


 人だかりを前にして気持ちが前のめりになったセドリックは、人混みに紛れようと一歩踏み出していた。

 キラはその背中をグッと引っ張って留め、リーウがドミニクを即座に抱え込む。帝国人特有の上背で、小柄な体を包み込むようにして抱き抱える。

 するとそこで、ギルドの方から魔法で拡張された声が轟いた。


「〝第二回ポイント大調査〟に参加される方々! 集合場所は冒険者ギルドではなく、王都南門の外側になります! 移動の方お願いします!」

 女性職員の声に、ギルド前に溜まっていた集団がぞろぞろと移動を始める。キラもリーウたちと共にその集団の後をついていく。


「結構大所帯だね……。どれくらいいるんだろ。リーウ、なんか言ってたっけ?」

「いえ、総数に関しては何も。ただ、ギルドの想定として、冒険者が十人、大学教授が一人、大学生が三人……十四人のグループを作るとは聞きました」

「ざっと……二百はいるよね。たださ、気になるのは……」

「はい。私も単なるメイドなので何もいえませんが……それにしても冒険者とは思えないような方が多いような気がします」


 ぼそぼそと小声で話しかけてくるリーウ。

 前回と同様にメイド服を着込んで〝大調査〟に臨む彼女だが、他のヒトたちも大概冒険者には見えなかった。

 大工を生業としているような若い男もいれば、すでに隠居生活に入ったのではないかというご老人まで。メイドや執事も複数人参加しており、さらにはなんの冗談か、子連れの母親もいる。


「なんか……。受付の人がだいぶ困った感じになってたの、わかる気がする」

「そうですね……。ギルドが受け持つ〝ポイント〟はほぼ無害という話ですが、それを百パーセント安全なのだと真に受けてしまったのでしょうか。〝魔獣〟は出るには出る……のですよね?」

「だと思うよ。危険があるから管理してるんだろうし。〝第一回〟が終わって噂が広まって、この〝第二回〟でっていう考え方をする人はいっぱいいそうだけど……。それにしても……」

「なんだか……。キラ様のトラブル体質に巻き込まれた気がします」

「いやいや……。やめて? 結構ガチめの声じゃん?」

 コソコソと話していたのがセドリックたちには聞こえたのか、ある程度歩調を緩めて会話に混ざってくる。


「なあ。もしかしてよ。俺らも結構アテにされる感じ?」

「そうはいっても、私たちも自信があるわけじゃない」

 二人とも、さっきまでのテンションはどこかに忘れてきたらしい。不安げに眉を顰め、違う意味でそわそわとしている。


「まあ……相応の覚悟は持っておいた方がいいかも。みたところ、戦いの経験がない人の方が多いっぽいし……。特に王都の外を知らない人にとっては、未知の世界だろうから……最悪、パニックになるかも」

「うあ〜……。き、キラもおんなじグループになるんだよな? そう言ってたよな?」

「……たぶん」

「く……っ。一緒でありますように……! 俺ら、まだそんな立ち位置じゃないんだよ……!」

「危険性は低いし、きっと大丈夫だよ。二人とも、敵を前にしてあたふたする段階はとっくに超えたんだしさ。落ち着いていけるって。そのためには……セドリックは〝身体強化の魔法〟は使わないこと。で、ドミニクは接近戦じゃなくって〝治癒の魔法〟重視」

「要は慣れないことはしない方がいい、ってことだな」

「そういうこと。もちろん、試せるってなったら積極的に使ってもいいけど」


 具体的にアドバイスしてやると、セドリックもドミニクも漠然とした不安から逃れられたらしい。二人一緒になって自分の頬を叩き、気合いを入れる。

 するとそこで、キラはリーウの視線を感じた。じぃっと上から見下ろしてくる彼女は、表情にこそ出さないものの、少しばかり不安そうに震えている。 


「リーウも同じだよ。自分の得意に頼ってれば、危険なんてものはないから。僕も、危ないってなったらフォローに入る」

 リーウはホッと頬を緩めていたが、最後の言い方に引っ掛かりを覚えたらしい。彼女だけでなく、前を歩く二人もぱっと振り向いてくる。


「な、何?」

「お、お前……まさか、何もしないつもりか?」

「そりゃあ……。だって、二人は騎士団の大会のためにも参加したんでしょ? 僕が前に出たら意味ないじゃん」

「なあ、まさか、さっきの『慣れないことするな』ってのは……」

「ん? だって、しくじったら敵が他にいっちゃうんだから。守る立ち回りを維持するためにも、自分の得意なところで敵を引きつけておかないと」

「お前……! 鬼畜にも程があんだろ! ぶっつけ本番なんて……!」

「心の準備ができてない限り、いつだってぶっつけ本番さ。だけど仮にも竜ノ騎士団に入ろうってんだから、これくらい身につけておかないとね」

「くそぅ……!」

「まあまあ。僕も一緒に範囲内にはいるから。色々と試していきたいこともあるし」

 意気揚々に、とまではいかなかったが……。

 とにもかくにも、およそ三週間にわたる〝第二回ポイント大調査〟が始まった。


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