表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
6と2分の1章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

658/961

636.4-23「枠組み」

 このまま接近戦に持ち込むか、遠距離戦を徹底するか。クロエが判断に迷っているのが、相対する剣から感じ取れた。

 強気に攻めても良かったが……少し、仕掛けてみる。


 駆け引きによる攻守ではなく、強引に〝センゴの刀〟を押し付ける。

 するとクロエは眉を顰めつつ、半歩引いた。力を緩めて、剣を退きつつ、体勢を崩しにかかる。


〈ま、そう来るよね……!〉

 これを読んでいたキラはぐっと下半身全体で踏ん張り、前のめりに倒れないように上半身を引く。

 その瞬間に、〝未来視〟を発動する。

 読み通り――わずかばかりに距離が離れたことで、クロエは魔法を放とうとしている。剣を脇に弾き、左手を突き出して、〝風〟を放ってくる。


 キラは寸前で体勢を直し、刀を振るった。

 峰で、クロエの左手を弾く。


「なっ……!」

 クロエが切迫した表情で後退し――キラは、それを無意識に追いかけてしまった。

 そこへ……。


「ンっ……! 〝錯覚〟……!」

「本当に……油断のならないお方ですねッ」

 ぐら、と。頭が揺らいで、体が傾く。

 キラはどうすることもできず、


「ぐへっ」

 クロエが再構築した〝風〟の魔法で弾き飛ばされた。

 ゴロゴロと転がり、ずぶ濡れの泥まみれになったところで、頭がはっきりとする。すぐさま受け身をとって、〝未来視〟で安全をとりつつ、後退する。


〈ああっ、くそ! もう少しだったのに!〉

〈キラくん油断するから! 確信はダメだって自分でも言ってたじゃんか!〉

〈おっしゃる通り! ごめんなさい!〉

 互いに、ほぼダメージゼロ。

 長引く戦いに、キラは自然と口元を緩めていた。


「楽しいって思えたの……。割と初めてかも」

「私もですよ、キラくん。同時に……これほどの緊張感、味わったことはありません」


   ◯   ◯   ◯


 オストマルク公国〝東都〟ブルーノ。

 当時深刻化していたスラム街で〝目が覚めた〟カインは、これまでにあらゆる体験をしてきた。

 〝スラム人〟と差別されたり、子どもながらにスラム街での抗争に身を投じたり、国の平和のために〝スポーツ思想〟を広めてみたり。

 ライカとは最初は顔を合わせればケンカをするような間柄で、ヴィーナにはこそこそと魔法を教えてもらっていた。


 中でも、〝ミクラー教〟の教祖たるモーシュが起こした奇跡の数々は鮮烈だった。

 なにしろ〝創造の能力者〟。その〝魔法の神力〟に出来ないことはない。

 一度、〝黄昏現象〟の発生に巻き込まれたことがあるのだが……それまでの努力はなんだったのかというくらい、モーシュが一人で解決してくれた。

 まさか、上昇した魔素濃度を空を割って宇宙空間へ放出してしまうなど、誰も想像しない。


 モーシュは、ヒトの形を保っているのが不思議なくらい、人外の化け物なのである。それでいて普段は人間臭さを感じさせるのだから、卑怯というほかない。

 彼女ほどの傑物はいないだろうと、確信していた。

 のに。


「レベル……違いすぎんだろ……」

 世界で一番の強国と名高いエグバート王国。

 〝ガリア大陸〟を奪還するという大きな目標を達成するためには、この国の協力を仰ぐことは必要不可欠。渋るモーシュに何度も何度もその重要性を説いて、ようやく訪れることができた。


 初めは、色々と軽くみていた。

 この数年でカイン自身も戦闘力に自信がついてきた。

 ライカやヴィーナをはじめとした仲間たちも、順調に育っている。

 いざとなれば王国の力など必要ないとさえ考えていた。しかもモーシュも〝ガリア大陸〟の奪還に意欲を示しているのだから、ただの保険のようなものとしか考えていなかった。

 だが……今、キラとクロエ・サーベラスの模擬戦を見て、いかに自分が甘かったか思い知った。


 二人とも、人外の実力を有していた。

 恐ろしいのはキラだ。

 防御に何かしらの手段を用いていたが、それ以外は一切魔法を使っていない。攻め手は刀一本のみ。なのに、魔法使いと対等に渡り合う……どころか、接近戦では終始追い詰めている。


 だからといってクロエが弱いかと言えば、そうではない。

 彼女も、接近戦では歯が立たないと心得ている。

 にも関わらずたびたび懐に潜り込まれ、窮地に陥るが……その全ての危機に、的確に対処している。

 キラの圧倒的な戦闘センスと反射神経に、対応力で押さえ込んでいるのだ。

 常に先手を読まれると判断するや、多彩な魔法で物理的に手数を増やし。さらにはタイミングをずらして、あるいは駆け引きに持ち込んで、判断ミスを誘う。


 確かに、モーシュの〝魔法の神力〟は規模的にヒトの枠組みを外れているが――キラもクロエも、別のベクトルで人並外れていた。

 幸運なのは、それが当たり前ではないということくらいか。

 周りの学生や教師たちの反応を見れば、二人の戦いがいかに突出しているのかがよくわかる。


 ただ、王国のトップレベルが全てあの水準にあるのだとしたら。

 下手に協力を仰ぐわけにもいかなくなった。

 万が一、エグバート王国に世界征服の野望があったとして、その可能性を知らずに、〝ガリア大陸〟にオストマルクの全勢力を傾けてしまえば……あっという間に、国が乗っ取られてしまう。

 モーシュがいればなんとかなるとは思うものの、キラやクロエをはじめとしたトップ戦力が揃ったら……。


「ねえ、カイン。もしかして私たち……藪蛇つついた?」

「珍しいな。弱音吐くなんてよ……」

「だって……! 南門の一件でもあったけど……」

 ライカは感情に任せて口走りそうなその先をグッと抑え……しかし、やはりこらえきれないようだった。距離を縮めて顔を近づけ、小声で叫ぶ。


「〝鑑定能力〟、アンタも上手く使えないんでしょ? しかも、キラにだけじゃなくって、エグバート王国国民に対して」

「まあ……。レベルを見るだけならできてたのが、それも上手く機能しないって感じでよ……。キラを〝仲間〟にできたら、色々とわかるとは思うんだけど……」

「やめといた方がいいんじゃない……? だって、機嫌を損ねてみなさいよ。私たちじゃ勝ち目なんてないわよ」

「そんなこと言い出したら……。このままなんの成果もなくすごすご帰る、ってことになんぞ? それでもいいのかよ」

「ぐ……。そ、それは……。でも、だって……」

「俺も下手打っちゃいけないとは思う。でも、あの〝能力者〟二人とは違ってバカじゃないし悪人でもない。慎重に動く必要はあるが……大丈夫だろ」

「カインがそういうなら……」

 本当に渋々うなづくライカ。彼女に続けて、耳をそば立てていたヴィーナも周囲にはそれとわからないように肯定している。

「出会ってすぐ仲間ってのは、ちょっと性急すぎたか……。後でそれとなく保留にしておくとして……。何はともあれ、まずは友達からだ」


【お知らせ】

一か月ほど投稿をお休みます。

再開は5月2日(木)。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=811559661&size=88
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ