表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
6と2分の1章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

652/956

631.4-17「遊び」

「なら、あんたはどう休暇を取ってるの?」

「午前中にリリィとショッピングに行ったけど……。昨日と一昨日はなんだかんだ疲れが溜まって寝てばっかだったし……」

「ろくな過ごし方してないわね。まったり本を読んだり、友達とチェスしたり。スポーツとかもあるじゃない? 王国はチェスも人気なんでしょ? そんな感じで遊んだりしないの?」

「遊ぶ……? って……?」

「――わかった。もう聞かない」

「その方がいいかも……。思い返してみれば、戦いと怪我繰り返してって感じだからさ。あと移動だね。馬と馬車と船……それが休憩時間といえばそうかもしれないけど」

「強さゆえ、ってやつね。でも、虚しくならない?」

「……? なんで? 何が?」


 質問の意図が分からず、キラは思わずまっすぐライカを見つめ返した。

 ライカは呆れたように口をあんぐりとさせていた。ため息をつくかと思ったものの、それをためらうかのように細く息を吐き出す。

 反対にエルトが盛大なため息をつき……二人の真逆の反応に、キラはますます訳がわからなくなった。


「決めた」

 頭痛に悩まされているかのように眉間に皺を寄せていたライカ。彼女は指で皺をときほぐしながら、何か覚悟を決めた。

 つい先ほどまで〝化け物〟と罵り怯えていたというのに、少しだけ距離を詰めて言い放つ。


「私たちがあなたの友達になる」

「おお……? そりゃ……ありがと」

「だから、折りを見て遊びましょ。そしたら、今度誰に聞かれても、そんなあってないような答え方することもないでしょ」

「お、おお……随分グッサリくるなあ……」

「事実だもん。身も心も削って戦いに身を置くなんて、そんなもったいないことないわよ。あなたがそれで良くっても……きっと、あなたの周りは、絶対に戦場から引き摺り出したいはずよ。絶対に、普通のヒトと同じように普通の生活を送って欲しいと思ってる」

「意外に……。他人のこと、考えられるんだ?」

「は? バカにしてるわけ?」

「ふふ……。いいや。褒めてる」

「ならもっと素直に褒めなさいよ……!」


 臍を曲げてそっぽを向いてしまったライカだったが。もうドアに体を擦り付けるように距離を置くことはなく、普通に座席に座っていた。

 そのおかげか、先ほどと同じく沈黙の空気が流れても、気まずいものとはならず……。

 〝馬車スルー商店街〟はよかっただとか、〝肉市場〟とやらに行ってみたいだとか、他愛のない会話がポツポツと続くようになっていた。




「野球?」

「そう! カインが考えたのよ! 拳ぐらいのサイズのボールを投げて、それをバットっていう棒で打つの。他にもサッカーにバスケットボールにバレーボール。全部楽しいんだから! 極めるのはどれも難しいんだけど……」

「へえ……。オストマルクはスポーツ大国なんだね? でも……なんでそんなに盛んに?」

「スラム対策よ。私たちの住んでたところは特にひどくってね。それこそ〝スラム人〟なんてひどい呼び方が定着してて……私も使ってた。だから、そういう問題を解決するためにカインが編み出してくれたの」


「スポーツが……スラム街を根絶するって?」

「そ。みんな余裕がないから、無理矢理にでも余裕を持たせるんだって。そしたら少しだけ視野が広がって、その広がった分だけ真っ当な可能性が見えてくる。遊びは心を豊かにしてくれるから」

「ああ……。それで僕に……」

「あんたには必要なさそうだけど……。けど別に、戦いとは微塵も関係のない日常生活まで気を張り詰めておく必要なんてないでしょ? たとえ〝元帥〟といえど、きちんとした休憩を取ってるはずでしょ」


「ま……確かに。オストマルク……っていうか、ライカたちの地元はどうなったの?」

「根絶まではいかないけど、でもスラム街の範囲はかなり縮小したわね。スポーツでお金を稼げるようになったから、バカな盗みをするヒトたちもぐっと減ったの」

「そりゃあ……いいね。平和だ……平和的解決だ」

「……どうしたの? なんか、元気なくなったけど?」

「――いや。なんでもない。それよりほら、到着したよ」


 以前にもリリィに連れられて訪れた〝学園の顔〟が、そこにあった。

 〝王立都市大学〟は〝学寮地区〟に位置し、本来は生徒や教師以外は立ち入りが禁じられている。

 唯一の例外が〝王立図書館〟。大学と併設されながらも、さながら城のような様相はまさに美しき〝顔〟だった。


「ってか、こっちで本当にあってる? 学生は別に入るところがあるんじゃないの?」

「でも、関係者以外は原則立ち入り禁止だし……。申請している間、あんた一人門の外で待たせるってわけにもいかないじゃない」

「僕一人……? グリューンは?」

「聞いてないの? 竜ノ騎士団の任務で、私たちの護衛をしてくれることになったのよ」

「へえ……?」

 いまいち状況が飲み込めず、そこでキラはまだグリューンから何も聞いていないことを思い出した。


〈いつの間に騎士団に……?〉

〈あの子の性格上、流されて入団するだなんて絶対にありえないだろうから……。きっと、自分から志願したんだろうね〉

〈なんか、意外だ……。てっきりそのまま冒険者にでもなるのかと思った〉

〈エグバート城にいたこともあったし、なにか転機があったんでしょ。ま、どうせキラくん絡みだとは思うけど〉

〈なんで……? だって、今はカインたちの護衛じゃん?〉

〈その経緯はわからないけど……。カインくんたちって、いわば他国の要人なわけじゃん? その護衛を任されるってことは、それ相応の立場にいないと不可能なんだよ。〝元帥〟とか上級騎士とかね〉


〈けど、グリューンは騎士団に入ったばっかで……。そういう急激な昇格って、例外ってことで嫌ってるんじゃないの?〉

〈そ。だけど、〝人事局〟にも手が出せない部隊があるんだよ。竜ノ騎士団の騎士ですら、大半が存在も知らない秘密部隊が〉

〈それって……〝ノンブル〟?〉

〈そ。〝ノンブル〟の加入条件って、かなり特殊でね。何しろエグバート王国国王が実権を握ってるから、騎士団側にはほとんど決定権がないの。人選も推薦もできるし、入団試験の管理も任されるけど、ほぼすべて王様の独断も可能なのよ〉


〈ってことは……。あの子が?〉

〈こら、不敬。ローラちゃん……ンン、ローラ三世女王陛下ね。ただ、王位についてからまだ間もないってことで、ラザラス様も関わりがあるはず。特に諜報部隊ってなれば、間違った判断はできない……だから、二人に認められたって形じゃないかな〉

〈んー……! さすがグリューン! すごいね〉

〈詳しいことは本人から聞いた方が早いだろうけど……。〝ノンブル〟だし、正体明かすわけにもいかないだろうから……今はそっとしておいてあげよう〉



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=811559661&size=88
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ