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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
6と2分の1章

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627.4-13「四人」

「魔法か何か知らないけど――その妙な力も壊させてもらうよ」

 無様な姿に呆れはするものの、同情する気持ちは一ミリも湧かない。

 一時の状況だけで人間性を判断するのは早計とは思うものの、放置しておくにはあまりにも恐るべき力である。


 〝コピー〟に〝反発〟。

 例えばセドリックやドミニクやリーウが遭遇したとしたならば、どうすることもなく敗北してしまう。

 その後にハルトとユージが何をするのか……。それはすなわち、王国内に留めておく危険性にも繋がり、見逃すことなど出来はしない。

 ようやく転げ回ることをやめたユージのそばに膝をついて、その首にそっと右の手のひらを添える。


「〝コード〟……」

「や、め……やべで……っ!」

 ユージが力の入らない手で抵抗を始めた。

 取るに足らない行動ではある。

 だが、まだ〝弐ノ型〟のように〝参ノ型〟を瞬時に扱えるわけではない。時間が必要となり、集中力も要する。

 首から手を外そうとユージが弱々しく動くだけでも、キラにとっては大きな障害となった。


 結果。

 〝雷の神力〟がユージの体内へ入り込もうとした瞬間に、

「二人とも、逃げてください!」

 邪魔が入った。


〈キラくん、何か来る!〉

「ちっ……!」

 エルトの忠告に、キラは舌打ちしながらその場を離れた。反射的に、声がした方とは反対の方へと飛び退る。


 直後、風を切る音が聞こえる。

 キラは顔を上げて、瞬時に状況を把握した。

 一本の矢が迫っている――放たれたのは古めかしい木造建築の屋根から――二人の男がいる――一方が弓を――。


 まだ仲間がいた。

 その事実に冷や汗を流しつつ、降りかかる矢を避けた。

 と、思った。


「――!」

〈追ってくる!〉

 そのまま地面に刺さるかと思った矢が、不自然に方向を変える。

 まるで磁石にでも引き付けられたかのように、勢いを落とさずに鋭い鏃を煌めかせる。


 キラは咄嗟に〝参ノ型〟から〝弐ノ型〟に浮上し、〝未来視〟を発動した。

 追ってくるのならば、掴めばいい。


 だが。

「爆発する……っ?」

 エルトに頼る暇もない。

 心臓を唸らせ、〝雷の神力〟を引き出し、追尾する矢に叩きつける。

 ドンッ、と空気を叩いて〝雷〟が暴れ――爆発する鏃を丸ごと飲み込んだ。


〈あっぶ……! ひやっとした……!〉

〈よ、よく威力抑えたね……!〉


 直前に〝参ノ型〟を使っていたからか、想像以上に〝雷〟をコンパクトに使えた。

〝神力〟とは思えないほどにごく狭い範囲だったものの、密度の高い一撃で爆破を屠ったのだ。

 場違いながらも、新しい感覚に感動し……そこで、辺りを見回して気づいた。


「あれ……? あ!」

 真っ黒焦げになって溶けた〝雷〟の跡の周りには、ハルトもユージもいなかった。

 慌てて振り返ると、先ほどまで屋根にいた二人組がそれぞれ抱えて逃走している。

 と言っても、まだ南門を出るには距離がある。ハルトもユージも虫の息。とくにユージは〝雷〟の余波で脇腹が炭化している。

 怪我人を抱えての逃走である。今から追いかけても十分追いつきそうだった。


〈追ってくる矢に……それを爆発させる力。あの二人もやっぱり何か特殊な能力を持ってるんだろうけど……捕まえたほうがいいかな?〉

〈んー……放置でもいいと思うわよ。厄介なのはなんとかなったんだし〉

〈ふん……。ユージってほうは……まだ無事だろうなあ。乱れてるって感じはするけど〉

〈けどあれだけ手痛くやられたんだから、王国内で自由に動けないでしょ〉

〈一応、リリィたちに話しておくかな。面倒なことにならないといいけど……〉

〈あの程度だったら〝上級騎士〟ぐらいで対処できるよ。厄介は厄介だけど……それだけ。明らかに鍛錬積んでない相手に、竜ノ騎士団が劣ることはないもん〉

 エルトがそう言い切ったため、キラも無駄にモヤモヤとしたものを抱えるのはやめておいた。ため息として吐き出して、警戒を解く。


「グリューン、大丈夫だった? 咄嗟に使っちゃったんだけど」

「あんときに比べたら屁みたいなもんだろ。ヴィーナは腰抜かしちまったけどよ」

 グリューンは軽くそう言ったが、彼と共にいた三人組は皆無事ではなかった。

 怪我をしているわけではない。

 だが……。カインはいまだに頭痛にうなされてへたり込み。ライカは顔を青くして体を震わせて。ヴィーナは今にも泣きそうな顔で腰を落としていた。


「あー……。あの……。えっと。ご、ごめんなさい」

「お前が謝ることじゃねえだろ、キラ。元はと言えば喧嘩ふっかけてきた奴らのせいだし、こいつらは根性なしだったってだけだ」

 グリューンがいつもの生意気さを発揮すると、ライカがいの一番に反応した。


「ちょっと、あんたね……! 誰だって目の前に雷が落ちたらびっくりするでしょ! むしろあんたの方が文字通り無神経なのよ!」

「図太い性格してんのに繊細なのな」

「なんですって!」

 どうやら少年は、三人の扱いを心掛けているらしい。ライカを刺激すれば彼女が元気になり、彼女が元気になればヴィーナが宥めに入る。

 そのヴィーナもいつの間にか恐怖から逃れて、頭痛にうなされるカインへ気を配る……。

 グリューンが仕方なさそうにため息をついたのをみて、キラはぼやいた。


「……仲良さそうじゃん?」

「あん? 嫉妬か?」

「……うん」

「バカじゃねえの。それで何か変わるってか?」

「んー……。いいや」

「だろ?」

 態度の変わらないグリューンに安心感を覚え、キラはカインに声をかけた。


「どう? 頭痛は?」

「ああ……まあ。マシにはなった」

 そうは言いながらも、カインはヴィーナに支えられて立ち上がった。反対側からはライカの肩も借り……到底、『マシ』という言葉に信憑性はない。


「〝錯覚系統〟、かけて貰えば? 死にかけの時でも効くくらいだし、頭痛なんてへっちゃらさ」

「いやあ、それが……かけてもらってこれなんだよ」

「そっか……。じゃあ、近くに僕の下宿先があるし、そこで休んでいく? ここら辺、人通りが少ないって言っても、流石に注目されるし……」

「じゃあ……お言葉に甘えて」


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