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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
6と2分の1章

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626.4-12「際限」

「さて――ちょっと聞きたいんだけどさ」

 今度は、障害なくハルトの首を引っ掴むことに成功した。指を立てて握り込み、大動脈に爪を食い込ませる。


「が、はっ……!」

「僕の〝コピー〟。もちろん、消してくれるんだよね? でないと――ここで始末する。〝勇者〟だろうがなんだろうが……その言動と性格を見逃すことはできない。君は敵だ」

「……!」

 数秒、待った。

 ハルトはじたばたともがくばかり。ユージはそれを見守るばかり。


〈なんか、弱いものいじめみたい……〉

〈仕方ないよ……。この先、キラくんの力を悪用されたらたまったもんじゃないもん〉

〈……あ〉

〈どうしたの?〉

〈ちょっと試してみたいことがあるんだよ。運が良かったら、殺さなくて済むかも〉

〈?〉


 首を傾げたような雰囲気を出すエルトに構わず、キラは集中した。

 〝弐ノ型〟に入ったまま、体の内側に意識を傾ける。〝覇術〟により研ぎ澄まされた五感全てを使って、心音に集中する。


「……ん」

 思い出すのは、〝パレイドリアの村〟での出来事。

 〝瞬間移動〟の〝人形〟からレオナルドを守ろうとした時、〝コード〟を使えた。

 その時に川のせせらぎのような〝血の流れ〟を感じたのだが……肝心なのはそこではなく、〝人形〟の〝瞬間移動〟に干渉できたということ。

 あの感覚は、今も色濃く覚えている。

〝力〟の核に触れたのだ。

 それと同じことをすれば――〝コピー〟も壊せる。


「〝コード〟……」

 まだ感覚ベースではあったが、今まではそれすらつかめなかった。

 帝都で初めて使った時と同じく、いまだに〝コード〟を使うのに必要な〝何か〟がよくわからなかったが――感覚頼りには使える。


 やるべきことは簡単。

 〝弐ノ型〟にまで〝呼吸〟を深く鎮め、発達した感覚で〝心音〟を探る。

 〝血の流れ〟を聞き当てることができれば――それが〝血因〟に触れられる〝参ノ型〟合図。

 あとは、これまでの様々な経験を引っ張り起こして、感覚を呼び覚まし……。


「〝ショート〟」

「――ッッッ!」

 右腕を伝って手のひらへ、そして指の腹からハルトの体内へ、〝雷〟が流れ込んだ。


「ハルト!」

 煙を上げて痙攣する仲間に、流石にユージも焦りを抑えられなくなったらしい。これまで躊躇していたというのに、いきりたって突っ込んでくる。

 それに対してキラはハルトを投げつけ、距離を取った。


〈ん。もう妙な〝気配〟はないね。どっちが壊れたかまではわかんないけど〉

〈むう……。なんだか、息子がどんどん怪物じみていく……〉

〈いや?〉

〈好み!〉

 ユージは慌ててハルトを受け止め、まだ息があることにホッとしてから、再度突っ込んできた。


〈さっきまで仕掛けてこなかったのは、絶対何か理由があるはず……。動きが素人くさいし……その上、刃物相手に素手?〉

〈だね。この子にも変なのを感じるってことは、〝コピー〟に相当する何か特殊な力を持ってるはず〉

〈ってことは――受け身にならないと何もできない、とか?〉


 事実、そうらしかった。

 立ち振る舞いといい、姿勢といい、ハルトと比べたら遥かに戦いに慣れている。愚直ではあるものの、タイミングを見計らう程度の頭はある。


 しかし動きが硬い。迷いがある。

 どう仕掛けるか瞬時に判断できていない証拠だった。それどころか、仕掛けてほしいとでもいうかのように、距離が迫るごとに鈍くなっている。


〈仕掛けてみよ〉

〈ええっ、危険じゃない?〉

〈ここで排除すべきかどうか――確かめる〉


 悟られないよう、いつものように。ぐっと〝センゴの刀〟を握り、前のめりになる。

 するとその瞬間に、ユージの顔つきが明らかに変わった。勝利を確信したかのように、ニヤリと笑う。

 試しに〝未来視〟で先を読み――。


〈普通に受け止める……?〉

〈なになに、何が視えたの?〉

 引き留めていた割には乗り気なエルトに応えず、キラは気を引き締めた。


 垣間見たのは、上から降りかかる刀に対して、ユージが腕で受け止めるところ。そこまでしか読み取れなかったが――その表情には余裕があった。

 何かあるのは明白。

 そこでキラは、その未来通りに”センゴの刀”で軌跡を描き——ユージが防御に入った瞬間に、力を抜いた。


「――ちッ」

 かすり傷をつける程度。

 それを、ユージは歓迎していなかった。


「なるほど……」

 キラは下手に追撃せず、大きく距離を取った。


「さながら〝反発〟……。こっちの攻撃を無力化しつつ、跳ね返す能力……」

 防御したはずのユージの腕には傷ひとつない。

 逆にキラは、胸あたりにちくりと痛みを感じていた。

 見れば、通り魔にでもあったかのように、胸あたりが引き裂かれている。ぺらぺらと揺れる服に隠れて、薄い傷跡が血を流している。


「やたら勘がいいなァ、おい。てめぇも〝召喚者〟か?」

「召喚……? なに、それ」

「ならクソゲーにも程があんだろ。モブがたてつきやがってよ……! ――だがテメェに勝ち目はねぇんだよ」

「そう? でも、やってみないとわかんないからさ――」

「――ッ!」


 キラは納刀し、スピード重視で接近した。

 一か八かの賭けではあったが、考えは的中した――わずかに、ユージは一歩退いた。


 それが人間的な反射によるものならば話は別だが、そうは見えない。〝反発〟で傷つかない人間が、たかだか素手での接近戦に恐れるわけがない。

 何しろ、刀相手に丸腰で挑める度胸があるのだ。

 ならば――〝反発〟での無力化には限度があるにちがいなかった。


「一発、我慢くらべといこうよ」

 ハルトよりもマシというだけで、ユージも能力にかまけてろくに戦いに慣れていない。

 おかげで懐に潜り込むのも苦労せず、その額を引っ掴むことができた。


「おい――それ――お前もタダじゃ……!」

〈もう、キラくんてば無茶しぃなんだから!〉

 二人の声と〝声〟が重なる。


 どれだけ痛みがあろうと、どれだけ心配されようと、キラは止める気など一切なかった。

 ユージの足を払って、前のめりになりつつ、その頭を地面に向かって投げつける。

 普通ならば、頭が割れるどころの話ではない。

 ここは〝冒険者通り〟であり、都心部のように地面が石畳やレンガで整備されているわけではないのだ。


 運が悪ければ、ゴツゴツと尖った石が食い込んだだろう。

 実際、砂利道の様子からその可能性は高かったが、思った以上にユージにはダメージが入らなかった。

 頭を抱えてゴロゴロとのたうちまわってはいるが、それだけ。気を失うことも、血を流すこともない。


「……ッ!」

 逆に、キラは〝反発〟の影響で膝をつきそうになった。何もされていないというのに脳内が揺らされ、眩暈がする。

 ただ、痛みはそれほどなかった。


〈もう! 無茶する時は一言かけてよ!〉

〈ありがと……。でも、言っても許してくれないじゃん?〉

〈は? 当たり前〉

〈理不尽ー……。じゃあ、あとで防御面教えてよ〉

〈わかったから、ほら警戒!〉

〈っていっても……〉


 エルトに急かされるままにとりあえず抜刀体勢に移行したものの、どう考えてもその必要はなさそうだった。

 上限はあるものの、確かに〝反発〟は羨ましいくらいに優秀である。

 その能力があれば、どれだけの修羅場もかいくぐることはできるだろう。ハルトのような仲間がいれば、文字通り無傷で戦場を切り抜けられる。


 だが、そんな環境の良さが仇となった。

 今までろくにケガを経験しなかったせいか、ユージは痛みにとことん弱くなってしまったらしい。

 仮にも戦いの場というのに、起きあがろうともせずに地面を転がり続けている。


「魔法か何か知らないけど――その妙な力も壊させてもらうよ」

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