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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
6と2分の1章

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624.4-10「”勇者”」

「――グリューン?」

 言い争いをしている若者たちの中には、見知った少年がいたのだ。記憶にある生意気な性格の通りに、呆れたように腕を組んで言い争いを見守っている。ただ、イラついてはいるようで、つま先でとんとんと地面を叩いている。


〈あれ、ほんとだ。何してるんだろ〉

 キラはエルトの〝声〟に押されるようにして、現場に近づいてみた。少し歩けば怒鳴り合いがちらちらと聞こえてくる。


「――はあっ? なんだよ、その言い分はよ!」

「そうよ! 罷り通るはずがないでしょう――バッカじゃないのっ?」

 グリューンの立ち位置的には、そうやってくってかかる男女が友達らしい。

 もう一人女性がそばにいたものの、二人を止めようとアワアワしたり、グリューンに助けを求めたりと、何の役にも立っていない。


「――だから言ってんだろ。男はいらねぇ」

「そ。オレらには花が必要なの。なんせ――〝勇者〟だから」

 聞こえてきた言葉に、キラは思わず足を止めそうになった。が、エルトがそれを許さず、勝手に動かしてくる。

〈なに、なに? 勇者って言った?〉

〈ちょ、ちょ! 足! 動かさないでよ、転ぶ!〉

〈じゃ止まんないでよ! はりーあっぷ!〉

〈ああ……ジャジャ馬!〉


 キラがグリューンに声をかけようとする時には、両者とも今にも戦い出しそうな雰囲気だった。男女二人も、相手の男二人組も、戦闘態勢に入る。

〈ん、なんだ、この〝気配〟……〉

〈ね。魔法でも〝覇術〟でもない〉

 妙なうねりのようなものを気味悪く思いながらも、キラはグリューンに声をかけた。


「グリューン。どうしたの、こんなとこで」

「うおっ? キラ! びびらせんじゃねえよ!」

 するとそこで、その場の注目が一気に集まった。男女二人組、おろおろ女性一人、自称〝勇者〟二人組。それぞれの視線が突き刺さる。

 キラはどきりとしつつも、あえてそれらを無視した。心なしか嬉しそうにするグリューンにのみ視線を注ぐ。


「びびった?」

「――誰が!」

「ふふ。で……何の騒ぎ?」

「ん……まあ、変に突っかかってきやがったからよ。意味わかんねえことも言うし、無視すりゃいいのに……気の早いライカが乗せられて。で、カインが便乗して……ヴィーナは役立たず」

 あけすけに話すグリューンに、三人の鋭い視線が向けられる。ライカという女性は烈火の如く、カインという青年はムッとして、ヴィーナという美女はどことなく涙目で。

 が、当人はどこ吹く風であり……キラと同じく、じっと視線を外すことなく話を続けた。


「お前もこんなとこで何してんだよ? ってか、帝都に行ったって話は何なんだ?」

「ああ……。話すと長いから、また今度ね」

「む……。生意気だな」

「君に言われたくないよ。ライカにカインにヴィーナ? 友達が多くて羨ましいよ」

「けっ……。じゃあ、俺も後で話してやるよ」

 キラは久々の会話に緩む頬を引き締めつつ、グリューンの前に出た。少年を隠すように立ち居振る舞い、カインよりも一歩前に出る。

 しかし奇妙なことに、相対する男二人はすでにカインたちに興味を失っているようだった。


「おいおい、マジかよ……! 超レアキャラじゃね? レジェンダリーってやつ?」

「〝鑑定〟で上限が見えねぇ……ってことだよな、この〝ハテナ〟はよ。それとも単なるバグ? この国に入ってから多いんだよなあ」

 グリューンのいう通り、確かに〝勇者〟二人組の言っていることはわからなかった。

 が、じろじろと値踏みをするような目つきには、何か奇妙な気配を感じ…………キラは無意識に〝センゴの刀〟に左手をかけていた。


「何言ってるかイマイチわからないけど……。揉め事はよしてくれないかな」

 〝勇者〟二人は、チグハグさが目立つ出立ちをしていた。勇者を自称するくせに、防具らしいものをつけていない。

 シャツにズボンと、至ってラフ。しかも、二人とも王都では見たこともない仕立てだった。

 濃い茶髪の青年はシルエットもわからないほど全体的にゆったりとしたもので、もう一人、プリン頭の青年は半袖に七部丈ズボン。ネックレスにブレスレットにイヤリングとアクセサリーも身につけ、洒落に洒落ていた。

 荷物は持っていないわけではないものの、それぞれカバン一つと、王都の外から来たにしては少なすぎる。


 そして、何よりも全体的な雰囲気。

 二人とも、その内側に不自然な〝力〟が渦巻いていた。リリィに感じた〝血因〟による靄よりも不安定に渦巻く〝力〟を……。

 魔法でも〝血因〟でも〝妖力〟でもないのは確か。触れれば暴走しそうなその〝力〟に警戒し、キラはいつでも対処できるように気を張った。


「揉め事なんて、大袈裟な。オレら、ちょっと勧誘してただけさ」

 茶髪の男がヘラヘラという。続いてプリン頭が賢しげに頷いた。

「そーそー。俺ら〝勇者〟なんだからさ。世界を救わなきゃいけねぇわけよ。そんためには仲間が必要だろ? だから、勧誘してたわけ」

 キラは、ちらりとカインの方を伺った。彼も、そしてその隣にいる活発そうな美女も、今に怒鳴りそうな勢いで息を溜め込んでいる。


「普通に勧誘したら、人の神経逆撫でするようなことにはならないと思うけど?」

 先手を打ってそう返すと、二人とも「よく言ってくれた!」とばかりに頷いた。その陰に隠れているヴィーナも、こっそりと同意している。

「男はいらないとか、花が必要とか……。ちらっと聞こえてきた限り、非があるのは君たちのように思える。自称……なんだっけ……ああ、勇者か――勇者って自分で名乗るもの? 職業じゃあるまいし」

〈わお、煽るぅ〉


 キラとしては特にそんな意図はなかったものの、他はそうではなかった。

 カインとライカは、ピッタリ息を合わせて見つめてきて、イタズラ小僧のようにニヤッとしてサムズアップ。ヴィーナはくすくすと笑いを堪え、逆にグリューンはケタケタと笑う。

 四人とは正反対に、面白くなさそうなのが〝勇者〟二人組。それまで機嫌良くヘラヘラしていたのが、途端にむくれる。


「ユウジ……。要るか、コイツ? レアっつっても、野郎だぞ?」

「……ムカツクが、高レベルの駒は欲しいだろ。ここは最強の国……別にそいつでなくてもいいけどよ――屈服させてこき使ってやる」

「お? じゃ、俺がやっていいか?」

「やりすぎんなよ、ハルト」

 濃い茶髪のハルトがニヤニヤとした顔つきで前に出た。腰に携えていた剣を抜き放ち、ぷらぷら振りながら前へ出る。


「一騎打ちと行こうぜ、黒髪。負けたら俺らの奴隷になれ。その女二人もな」

「……割に合わないね。君らが負けたら? 僕に見返りはあるの?」

「万に一つもないから安心しろ――この〝コピー能力〟に勝つ術なんてな!」

 たん、と駆け出すハルト。その左目が怪しく輝き、それと同時に手にしていた長剣が陽炎でも纏ったかのようにゆらりと揺らぐ。


〈なんか……!〉

〈仕掛けてくるね、気をつけて!〉


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