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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
6と2分の1章

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642/961

621.4-7「実情」

「リリィさん……。いらっしゃいますか」

 気がつけば、〝元帥室〟の扉をノックしていた。

 ととと、と軽い足音が聞こえて、ドアが開く。

 すると、もちろん部屋の主であるリリィ・エルトリアが現れたのだが……。


「おや……。なにか、いつもと違いますね」

「あら……。クロエさん、そのような格好で。どうされましたの?」

「私は……。敗北しました」

「わたくしは……。その、午前中はお出かけしていまして。――敗北?」


 互いに質問と回答がかぶり、わけもなく笑ってしまう。

 少し気持ちが楽になったクロエは、室内に招き入れられたところで、リリィの変化に気がついた。

 たまにしか見かけることがないものの、彼女は事務仕事の際にはほぼ男装。真っ白なシャツにピッタリとしたパンツスーツ。冬にはベストにコートと着込む。騎士装束の時もあるらしいが、それは〝西部騎士寮〟の騎士たちを訓練する時のみ。

 今日もレディーススーツであることには変わりない。

 が、パンツスーツはゆったりしており、靴もブーツではなくヒール。首元もラフに開けており、妙な色気とともに香水の良い香りが漂う。

 キラだ。と、クロエは直感し、思わずじとりとリリィを凝視した。


「う……。ク、クロエさん? せめてヘルメットは取ってくださいな。なにか、目つきが鋭いですわよ……?」

「……失礼。デートをされたのかと思いまして」

「へっ……? なぜそれを?」

「同じ女で、同じ殿方です。勘も鋭くなりましょう」

「……! クロエさん、何かありましたね?」


 フル装備のためソファに座るのを遠慮していたが、リリィに気楽にするように促され、その厚意に甘えた。鎧を脱いで、用意してもらった鎧置きに立てかけ、身軽になった騎士装束で改めてソファに腰掛ける。

 真正直に話すのは気恥ずかしかったものの、少しずつ話していく。

 エステル・カスティーリャが持ち込んだ話や、そこから感じた危機感……何度も戦場を共にした女友達は、真摯な態度で聞いてくれ、それがまたとない安らぎとなった。


 話が弾み出したところで、途中でセレナも加わった。

 リリィが帝都で見てきたことや、リーウという新たなライバルの出現などなど……異様なほどに盛り上がりを見せ、話が変な方向に逸れ始めた。


「問題は……キラ様にその気があるのかどうか、ということです」

 神妙に切り出したセレナに、クロエもリリィも頷く。

「確かに、そこはいちばん重要な部分ではあります。男は獣、とよく聞きはしますが……」

「わたくし、何度も添い寝していますが……。なんだかまるで、子どものようにあやされて……。全く色気に動じる気配がありませんの」

 セレナも同様に頷き……そこでクロエは自分一人だけその経験がないことに気づき、しょぼんとした。


「私も……。泊まりに行っても良いでしょうか……?」

「もちろん! クロエさんがいちばん不利な立場ですし……そうでなくとも、もっと深いお付き合いをしたいと考えていましたのよ。顔を合わせれば仕事の話ばかりで……」

「……! ぜひとも、お願いしたいところです」

「では、いっそのこと皆で攻めてみません? リーウさんも一緒に……お風呂に入るとか」

「い、一気に裸の付き合いですか……!」

 クロエは顔が熱くなり……リリィもまた、言ってて恥ずかしくなったようだった。想像してしまったのか、ボッ、と発火する。

「……お二人とも。本題が置いてけぼりです。話を戻しましょう」

 セレナがリリィの様子をまじまじと観察したのち、つと立ち上がる。暖炉前のテーブルに並んでいた三つのティーカップに、新たに紅茶を注いでくれる。


「――おほん」

 クロエが空気を変えるためにも咳払いをすると、リリィもぱたぱたと自分の顔を仰いで〝紅の炎〟を消した。

「私としては、キラ殿には……」

「クロエさん……いえ、クロエ。呼び方」

「う……。本当に変えねばなりませんか……?」

「もちろんですわよ。せめて〝殿〟と他人行儀な呼び方は変えませんと」

「しかし……。彼に会った時、そのまま呼んでしまうと、何かおかしな空気が流れませんか……?」

「んー……。では、キラの前では当分〝あなた〟と言ってみては? よくいうでしょう? 妻が夫に〝あなた〟と」

「……! それはそれで恥ずかしい気もします……」

「もう! 話がまとまりません! これは強制です! もしくは命令と捉えても構いませんわ」

「くっ……。命令とあらば……!」

「……ヒトって、そう簡単に変わりませんのね」

 二人ともに呆れられたのを感じ取り、クロエは改めて話を戻した。


「キラ殿……さん……くん。キラくんには、王国に……願わくば、王都にずっと残っていてほしいと思います。そこで〝元帥〟に推薦してみてはと思って〝人事局〟に掛け合ってみたのですが、あっけなく断られてしまい……」

「んー……。まあ、そうでしょうね……」

 リリィが言いづらそうにしながらも頷き、セレナが彼女に続く。

「私もキラ様を即刻〝元帥〟にと思ってはいますが、確かに〝人事局〟が一番のネックです。私やリリィ様、シリウス様、それからアラン……〝兵士局〟のトップ層がこぞって推薦すれば、流石に一言で断られるようなことはないでしょうが。それにしても、〝国民レベルの信頼〟という観点で考えた時、説得のしようがないのが現状です。竜ノ騎士団の間では認知度が高いのですが……」


「〝英雄の再来〟として実績は十分でしょう。終戦の折、リリィさんがキラくんと相乗りして戻ってきたことで話題になっていましたし」

「あの時はまだ私たちですら何があったかあやふやでしたし、キラ様を〝英雄の再来〟として認識していた方はそう多くないでしょう。〝黄昏事件〟の際も、その通り名のみが一人歩きしていました。なので……キラ様がどれほど王国の平和に尽くしてくれたかということを知っているのは、彼に近しい人間のみとなります」

「ふぅぅぅむ……。悔しいですね……。帝都ではキラ様を神様の如く讃えていると聞きます。それが王都では、名前も顔も知られていないとは。皮肉です……」

「今は幾分マシになっていますが、キラ様はかなりの人見知り……というよりも、人混みにかなりの苦手意識がありますから。あまり触れ回らないようにしていたのが仇となりましたね……」


 そういえば、とクロエは思い出した。

 キラが王国騎士軍の訓練を見学にきた際、とある一瞬の出来事が印象に残っている。

 戦場での怪我についての話になった時。彼はケガを前提とした戦い方を常識としており、それをクロエは否定した。リリィもぴしゃりと注意し、その場にいた騎士たちの多くがキラの話に引いてすらいた。

 キラはそれに対して何か反論をしたかったようだが……彼らしくもなく、それを恐れるかのように口を閉ざしてしまった。それでも最後には、『間違っていない』とぼやいていたが……。


 あのあと、ひどく反省したものである。

 彼が記憶喪失であることは、見学の直前にリリィにこっそりと教えてもらっていた。

 過去に何があったかはわからないが……彼ほどの実力者が記憶を失う何かがあったのは確実である。

 それに起因して、集団や団体にトラウマを抱えていたのだとしたら。あれほどに酷なことはないだろう。

 と、考えると……。


「言ってしまえば、これから私たちがなそうとしているのは、キラくんを人気者にしようという作戦なのですが……。果たして、それが本当にいいことなのでしょうか……? 立場にこだわらずとも、騎士団に入っていただくだけでよいのでは……?」


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