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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
6と2分の1章

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639/961

618.4-4「カイン・ベッテンハイム」

「ンだよ。子どもだったら騎士になれねえってか」

 考えてみれば、これからいつ終わるとも知れない護衛兼監視の任務に就かねばならない。

 お利口さんだろうが無口だろうが、その役割に徹する事はできるものの、どこから綻びが出るかわからない。

 王都での任務となる……キラとバッタリ遭遇しようものならば、そんなハリボテはすぐに崩れる自信がある。


 栗色ストレートな女性は面食らったような顔つきをしていたものの、もう一人の女性と青年の方は慣れたように笑っていた。

 三人とも気品があるものの、どうやら生まれや育ちには差があるらしい。


「そんなことはねえよ。ただ……俺ら、よそもんだからよ。竜ノ騎士団って名前の大きさばっか気にしちまって。悪いな」

「なんだか、昔のアンタ思い出すわね……カイン。とびきり言葉遣い悪かったんだから」

「あ、あの……。お気を悪くされたのなら、申し訳ありません……!」


 返答もまた三者三様。カインは明るく笑い飛ばし、ブロンドショートの方はカインをこづき、最後の一人は行儀良く頭を下げる。

 見た目以上に癖のありそうな三人組に、グリューンは頭を働かせた。

 カイン・ベッテンハイムという人物は、単なる貴族でもないらしい。

 スラム育ちか、あるいはそれに近い生活をしていたのか、あのエルフ女性に対して取っていた態度と仕草が嘘のように剥がれている。

 公私の使い分けが上手く、年齢以上に場慣れしている。

 監視の対象にすべき人間だと、グリューンは直感した。


「あんた……。カイン・ベッテンハイムだろ」

「……!」

「ラザラスのジジイから、あんたの護衛をしろって言われててよ。三か月後くらいに留学しにやってくるって聞いたが……なんでもうこんなところにいる?」

 カインが……否、カインたち三人が何を考えているにせよ、その思惑通りにさせてはならない。それを突きつける形で、グリューンは己の正体を暴露した。


「こ、これは驚いたな……。いや、マジで。もしかしてよ……見張られてたりすんの?」

「……いいや。ただの偶然。〝アルマダ騎士団〟の護送作戦を手伝って、ちょいと用事を済ませようとした時にあんたらを見つけたんだよ。別に俺個人はどうでも良かったが……こうしてバッタリ出くわしたんだから、何かあるんだろうな」

「あー……。俺、やらかした……?」


 グリューンも、危ない橋を渡っている自覚はあった。

 カインたちが王国にあだなす意図を持っていた場合、始末しにくる可能性もある。

 ただ、それならそれでも良かった。膿を出すならば早くに限る。しかも場所は他国……キラのいる王都にまで問題を持って行かせる事はない。

 むろん、タダでやられる気はない。逃げ切ることはできる。一時期は〝闇の神力〟を持つブラックに鍛えられたこともあるのだ。

 正体を現すか、否か。敵意を丸出しにして刺激する。


 だが……三人の反応は、グリューンの想定外にあった。

 青年は天を仰ぎ、ブロンド美女は警戒の体勢に入り、ストレート美女はおたおたとしている。三人とも、まるで別の反応を示していた。

 特に栗色ストレートな女性の慌てよう。感情を隠す事なく顔を真っ青にして、仲間二人を見遣っている。その焦り方には演技らしいものは感じない。


「あー……わかった。えっと、君の名前は? ――いや、俺らからが筋か。俺はカイン・ベッテンハイム……って、知ってるな、うん。こっちが――ちょ、ライカ! 疑われてんのは俺たちなの! お前が真っ先に敵意向けてどうすんだよ!」

「だ、だって……!」

「もう自警団じゃねえの。――モーシュさんにどやされんぞ」

「それは……。ふふ、それで」

「おい!」

 グリューンが呆れて腕を組むと、カインがさらに慌てた。ライカとやらの腰を叩いて、自己紹介を促す。


「しょうがないわね……。私はライカ。怪しいものじゃないわ」

「……バカみてえな弁明だな」

「なんですって!」

 どうやらライカは、その見た目の可憐さにも関わらず、かなり気が短いらしい。カインはもはや体裁を取り繕う暇もなく、ライカを宥め続けている。

 そんな二人のやり取りを気にしつつも、最後の女性がおどおどと話し始めた。


「わ、私はヴィーナという者で……。その、ライカさんのいうように、決して怪しい者ではないというか……。あの、本当に……」

 おそらく、ここで三人の目的を問いただした方が効率的ではある。

 三人とも一つとして重なるような性格はないものの、実直ではある。立場的にも、素直に応えてくれる可能性は高い。


「……わかった。詮索はしないでおいてやる。一応、一国の要人だからよ」

 だが……。やめておいた。

 カインの口から漏れた〝モーシュ〟という人物。

 その名前は、ミクラー教の教祖に違いない。オストマルク公国の国教のトップと、カインは何やら繋がりがある。しかも〝さん〟呼び。

 帝国にいた頃、いろんなところで聞き耳を立てたところ……海を割るだの、空を裂いて〝夜〟を顕すだの、とんでもない話が飛び交っていた。しかも〝魔法の神力〟を授かる〝創造の能力者〟なんだとか……。

 下手すると、その〝モーシュ〟とやらがバックについている可能性もある。


 立場ある人物が、世界最強と目されるエグバート王国に喧嘩を売りにきたわけではないだろうが……そんな人物と繋がりがあるカインたち三人が送られたのには、必ず意味がある。

 カインたちの目的が、〝モーシュ〟の目的と合致していたならば適当に追い返してもいいが……。

 いつの時代もどの国でも、為政者とその下々とでは、全く別の思惑が動いている。

 ここで仮にカインたちが退こうとも、〝モーシュ〟は別の手を打つ。

 まだ見ぬ脅威に対応するよりかは、目に見えてわかりやすいカインたちを監視し、その内情を探った方がいくらかマシだった。

 王国の安否などどうでもよかったが……キラが住む場所をメチャクチャにされるのは、想像するだけでも我慢ならなかった。


「俺はグリューン。さっきも言ったが、竜ノ騎士団の人間だ」

「よろしくな。ところで、さっきラザラスの……なんとかって言ってたけど。もしかして……?」

「元国王のマッチョジジイな」

「やっぱり……! そんな人をジジイだのなんだのって……君、何者?」

「あんたと同じく、ちょっと特殊な立場にはいる。コネで騎士団に入ったみたいなもんだしな」

「そんで、俺たちの護衛に指名されたんだろ? その年で。……すげえな」

「……わかんねえやつだな」

 何か色々と思惑があるだろうが、先ほどの褒め言葉は真意に聞こえた。ライカにしてもヴィーナにしても、それに似た顔つきをしている。

 どうにも素直すぎる三人に対して、グリューンはやりづらさを感じ……ふと、背後を振り向いた。


「? どうした?」

「なんか……。騒がしくねえか……?」



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