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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
6と2分の1章

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614.3-32「発火」

〈あー……。リリィには世話になりっぱなしだあ……〉

〈ほんとにね。キラくん、抱え込みがちだから。全部一人で何とかしようとするでしょ〉

〈う……。頑張って頑張るのをやめろって……? 結構、無茶〉

〈まったく……。少しずつ慣れていきなさい〉

〈けど、レオナルドにはちゃんと話したじゃん?〉

〈聞かれなかったら話す気もなかったでしょうに〉

〈……〉


 あのあと、リリィは珍しいことに「一緒に寝ます!」とは言い出さなかった。それが本来普通なのであるが……キラとしてはちょっぴり寂しい気持ちでベッドに入ることとなった。

 そうして意識のみが真っ白な空間へと浮上し、ボワボワ光る球体となったエルトと話し込むこととなった。


〈そ、それよりさ。リョーマ、どうなったのかな? 解決方法、見つかったかな?〉

〈はあ……。……まあ、何かしらヒントは持ってくると思う〉

〈今のところ、リリィの体調は大丈夫っぽいけど……。これからどうなるか、だね〉

〈うん――私みたいなことには多分ならない気はするんだけど〉


 帝都でリリィと再会したとき。

 その時にはすでに、一ヶ月ほど間が空いていた。

 王都にいた時は、まだ〝覇術〟の何たるかも理解できていなかった。〝深く長い呼吸〟が必要とは自覚していても、〝弐ノ型〟にまでは到達していなかった。

 すなわち――ひと月の間に、キラは〝覇術〟を使えるようになったのだ。リョーマのような達人の域とはいかずとも、彼の領域へたどり着く道筋を理解できるようになった。


 だからこそ。

 リリィと再会したとき。

 彼女に眠る〝血因〟の危うさを、はっきりと目にしてしまった。


〈私とキラくんは〝発火〟した時にわかる程度……。でもリョーマくんは、そうじゃない時もリリィの脳内に靄みたいなのがかかってるって言ってたよね〉

 リリィは、時折〝発火〟する。

 恥ずかしがったりした時など、おそらくは感情が極度に頭の中を駆け回った際に、ぼんっ、と嘘のように〝紅の炎〟がつく。

 今までは無意識に彼女が魔法を暴発させているのだと、勝手に納得していたが……考えてみれば、リリィ・エルトリアは〝元帥〟なのである。そんな未熟さがあるとは思えない。

 あの〝発火〟は、リリィに迫る危険への警笛のようなものだったのだ。


〈なんで……。私、気付いてあげれなかったんだろ……〉

〈タイミングが悪かっただけだと思う。リリィも理論上は〝覇術〟を使えるから〝魔法の炎〟が〝紅の炎〟になるわけで……ってことは、〝血因〟が巡ってるわけで。リリィは生まれつき耐性があるからだと思ってたのが……完全じゃなかった。徐々に、徐々に……蝕まれていったんだよ。ユニィだって気づかなかったし、そんな症状を知らなかったんだから、仕方がないよ〉

〈ねえ……。〝魅了〟でもどうにもならないのかな?〉

〈……〉


 パクスでセドリックたちに修行をつけている際、エルトは〝魅了〟についてとある仮説を立てた。

 いつ、どんなタイミングで〝魅了〟が発動し、女性を虜にしてしまうのか。

 それを解明するきっかけは、リーウだった。彼女と初めて会った時、随分とそっけなく、それこそ見下したような冷たい態度だった……というのに、みるみるうちに態度を軟化させ、ついには王都にまでついてくるようになった。

 他の帝国城のメイドや執事は、それほど大きな変化はなかったというのに。

 さらに言えば、〝妖精〟パーティの女性たちも最後まで〝魅了〟にかかった様子はなかった。最初の頃にフロンが少し様子がおかしくなっただけで、ボニーは一つとして傾いた様子はなかった。


 その差に注目したエルトは、『身体的な接触があるか』というところに目をつけたのである。

 事実、リーウにはたくさん看病してもらい、その際にはもちろん〝接触〟があった。

 触診したり、包帯を巻いたり……そうしているうちに、額に額を当てて熱を測ったり、寒くなるからとベットに潜り込んできたり。だんだんと大胆になっていった。

 思えば、リリィとの出会いもそう。

 彼女にも、初めは共に旅に出ることを否定された。

 〝魅了〟のおかげでそれがひっくり返ったとは思えないが、それでも共に夜を過ごしたあの瞬間から、少しだけ他人行儀な態度が柔らかくなったのは事実。時折母親に甘える子供のように引っ付くようになったのも、〝魅了〟の存在が大きいだろう。

 

〈確かにリョーマは、僕が近くにいる時に度々靄が和らいだって言ってたけど……。多分、それって一時的に麻酔で和らいでるだけなんだと思う〉

〈じゃあ、〝魅了〟を当て続けてあげれば……〉

〈麻酔って、痛みがなくなるだけで、血は出るし傷も開くんだよ。それをうまくコントロールできればいいんだけど、それでも根本的な解決にはならない。だから……それこそ、〝発火〟が鍵なんじゃないかな〉

〈……どういうこと?〉

〈風邪引いてさ。熱が出たり咳が出たり、くしゃみしたり。そういうのって、人間が生まれつき備えてる防御反応でしょ? だから、風邪も治るし、体調も元に戻る。――きっと、

〝発火〟もそれと同じ絡繰りなんだよ〉

〈そう……。なのかな? 私には難しいや〉

 もう何も考えていられないのが、エルトの弱々しい声から伝わってきた。

 だからこそ、キラは〝声〟をかけ続けた。


〈大丈夫。エルトの時とは何もかも違う。僕もいるし、ユニィだって見張ってくれてる。それにリョーマも協力してくれてるし、〝次席〟って人も動いてくれる。で、なんたってエルトがいるんだから。――どうにでもできる〉

〈……ああ。もう。みんなが頼る理由がわかる気がする。リリィもセレナもクロエちゃんも惚れるはずだよ。危ないなあ〉

〈ええ? エルトにはシリウスさんがいるじゃん〉

〈私、もう死んでるんだよ……?〉

〈――それさ。まだまだ妄想でしかないんだけど……ちょっと、アイデアがあるんだよね。まだ、エルトはこうして僕の中で生きてるから……完全に死んだわけじゃないんだよ。その理由が、きっとあるはず〉

〈……え?〉

〈ま、機会があったら。ちょっと狙ってみる〉

〈え〜! そこまで言ったら教えてよ!〉

〈ダメ。半端な期待は良くないでしょ〉


 今にも消え入りそうなほどに萎んでいた淡い光は、元の快活さを取り戻した。ぼわぼわっ、と総毛立つように発光し始め、ぐるぐると空を駆け巡る。

 空元気であろうと、そう見せようとする活力は湧いてきたらしい。


〈ところでさ、エルト。〝魅了〟って僕が〝ユニークヒューマン〟である証拠みたいなもんだよね?〉

〈たぶんねー〉

〈エルトの仮説だと、僕は〝妖力〟を持ってるってことになるよね。魔法みたいなのも使えるようになるかな……?〉

〈う〜ん……。どうだろ。〝ユニークヒューマン〟が『こういうタイプ』ってくっきり分けられてるのって、個性がはっきりと分かれてるからなんだよね。それこそ〝モンスタータイプ〟っぽい竜人族なんて、火の代わりに雷を吐いたりなんてしないわけで〉

〈なるほど……?〉


〈だから……思うに、〝妖力〟って共通した概念は各々持ってるけど、できることが限定されてるんじゃないかな。得意とする〝覇術〟は血統によってちょっとずつ違ってくるみたいにさ〉

〈なんか……。そう聞くと、本物の〝妖力〟がある感じがする〉

〈本物?〉

〈今の〝ユニークヒューマン〟が持ってる〝妖力〟は、〝原本〟みたいなのを分割した力……みたいなさ〉

〈おー……? そういえば……。レオナルド、作戦を立てる時に、〝生きた魔法〟がどうたらこうたらって言ってた……。じゃあ、現代の魔法はいわば〝衰退した魔法〟……?〉

〈……気味が悪い〉

〈……ね〉

 魔法と〝妖力〟の奇妙な繋がりについて、それ以上考えたくはなかった。二人して、話題の方向性の舵を切る。


〈ああ、それでさ。何とかして〝魅了〟をコントロールできないかな? その先に魔法みたいに使えたらな、って思ったんだけど……〉

〈そういうこと? リョーマくんたちは自在に変形したり火を吹いたりしてるから、自分の意思で何とかなるとは思うけど……。でも、ドミニクちゃんみたいに無自覚な場合もあるし……実際、キラくんだってほぼそうだったし〉

〈できるようにならないと……。色々マズイ気がする〉

〈え。いいじゃん。リリィとセレナとクロエちゃんで。間に合ってるでしょ〉

〈な、なんでそんな急に圧を……〉

〈なに? 不満?〉

〈不満……? ああ、いや、そういう意味じゃなくって――〉

 


2週間ほど更新お休みさせていただきます

再開は3月4日(月)

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