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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
6と2分の1章

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633/961

612.3-30「復活」

「それは……。どういう……?」

「クロエもキラ殿と同類よ。キラ殿が〝居場所〟を求めないのに対し、お主は〝騎士で在る〟ことに固執し過ぎておる。帝国との戦争の折、作戦として〝総隊長〟の任を外したが……わしとしては、騎士として戻らない選択肢も用意したつもりでな」

「あれはそういう意図があったのですか……」

「お主の父君にも、半年に一回は愚痴をこぼされるのだぞ? 考えないわけにもいかんじゃろうて」

「ああ、まったく……。父がとんだご無礼を……」

「よいよい。文句は言ってやるなよ? 後できっと感謝する。それに……結果としては、良い方向に進んでおる。少し前までならば、一国の王となったローラと姉妹のような関係には思えなかったろう」

「……そうですね」


 クロエは今そのことに気づいたかのようにパチパチと目を瞬いていたが、だからと言って態度を改めるようなことはなかった。ローラの視線に気づくと、まるで本当の姉のように柔らかに微笑む。

 そんな彼女の反応にローラは嬉しそうに顔を輝かせ、両腕を広げた。

 すると、クロエが吸い込まれるようにその合間にスススと移動し、わざと捕獲される。

 目の前で繰り広げられるちょっとした遊びに、ラザラスは心が温かくなり……それと同時に、こっそりとため息をついた。


「レナードはともかく……。リーバイは無駄に可愛げ無くなりおって……。出会った頃のアイツにそっくりとは……血筋は恐ろしい」

 低く呟いた言葉は、形にならない声として二人に届いたらしい。不思議そうに見つめられて、ラザラスはこほんと咳払いをした。


「とりあえず、キラ殿のことはわしも考えておこう。〝聖母教〟の要請ともなれば、下手には断れん。むろん、〝クロエ結婚案〟も良いが……恋愛の『れ』の字も知らん人間に、いきなりできることでもなかろう」

「む。失礼な。私だって、きちんと知識くらいは……。例えば……」

 ぴた、とローラにくっつくクロエは、そこから先何も言えなくなっていた。どうやら、具体例が何も出てこなかったらしい。


「間違っても、勢いで告白なぞするなよ。政略結婚ならばいざ知らず、恋愛結婚となればその勢いが仇となる。リリィ殿やセレナ殿、それにローラもいるのだからな。そこの関係性を無視してはならん」

「お、お父様……?」

「わっはっは! 冗談、冗談。しかしわしとしては、そうでなくとも良いぞ?」

「もう……っ」

 クロエに甘えながら頬を膨らませるローラには、色恋の気配は一つとしてなかった。

 一般市民ならばいざ知らず、王女としてそれはどうなのかとラザラスは少しの焦りを抱え……徐々に大きくなるであろうその問題を、一旦頭の片隅に追いやった。


「後一つ。少しばかり話しておかねばならんこともあってな。〝新大陸〟についてもまた、おまえたちが視察に行っておる間に進展があってな」

「そう言えば、そちらの方はどのような状況でしょうか? クロエさんと時折話してはいましたが……エルフ族の方達との交渉は?」

「ヴァンが一つ成果をあげてな。友好関係とまではいかないものの、とある里と良好な関係に持ち込めたらしい。が……」

「何か、悪いことが……?」

「あくまでも未確定であり、これからどうなるかもわからんが……。どうにも、〝魔王〟が復活するという噂が出回っておるらしい」

「〝魔王〟……? ……もしや」

「わしも、一瞬、何のことか分かりかねたが……。約千年前の〝世界会議〟に出席した者の一人――〝魔王〟シャーロット」

「まさか……そんな! だって――」

 〝使命〟にまつわる重大事項と思い出したのか、ローラはそこで口をつぐんだ。

 クロエは何が何だかわからないようだったが、彼女らしく聞いていないふりをしていた。


「クロエは知っておいてもよかろう。そういう噂が出た以上、最悪の事態に備えておかねばならん。覚悟が必要となる」

「……聞きましょう」

「〝魔王〟シャーロット――そやつは、歴史から消された〝最悪の魔法使い〟。約千年前には、〝神〟にも近づく魔法使いだったという」


   ◯   ◯   ◯


 エルトリア邸にて。

 キラは〝竜のくるぶし亭〟に戻れない日常を過ごすことになっていた。

 一度はセドリックたちと帰ったものの、用があるからとエルトリア邸を訪れたところ、リリィに引き止められたのである。

 冒険者として仕事ができたか。道中何もなかったか。トラブルに巻き込まれはしなかったか。怪我はないみたいだが……。


 今までが今までなだけに、彼女の心配っぷりはこれまで以上。

 何も危険はなかったのだと念を押した上で〝市民街〟で起こったことを話しても、ちゃんと説教をくらった。といっても、抱きつくように密着しながらの小言ではあったが。

 リリィ・オタクなリーウから、出会った時と同じような冷たい眼差しで睨まれたのが印象的だった。


 ただし、彼女はやはり〝元帥〟。ひとしきり抱擁を堪能したのち、そのまま腕に絡みついて〝マモノのクスリ〟について考えをまとめ始めた。

 途中で合流したセレナの知恵も借り、キラやリーウも口を挟んだ上で、その存在には箝口令を敷くことに。

 もちろん、現国王であるローラ三世、元国王であり近衛騎士〝総隊長〟ラザラス、竜ノ騎士団〝総帥〟代理シリウスには、セレナがそれぞれ共有することになった。


 そういった堅苦しい話し合いだけで終わることはなく。二日間……四十八時間、ほぼ隙間なしに、リリィと一緒に過ごすことになった。

 もちろん、その時間が嫌というわけではない。エルトの冷やかしが時折頭に響き、無神経な母親にカチンとくることはあるものの……驚くほど心穏やかに時間が流れていく。


「この櫛……。とても使い心地がいいですわ」

「ツゲの木を使った高級品……っていってた気がする。専用のキャップもついてたから、持ち運びにも楽かなって思って。リリィ、髪長いから」

「セレナも、ブレスレット、喜んでましたわよ。あのハートのチャームには……何か意味が?」

「え? いや……。可愛いんじゃないかなって思ってさ……。あれ……? 邪魔だった気がしなくも……?」

「い、いえ、そんなことはありませんわよっ。わたくしだって欲しかったくらいですもの!」

「ん……。おんなじのじゃあ芸がないなって思って」

「キラってば、自分はあんまりそういうのは欲しがらないくせに、プレゼントの時にはきちんと考えられますのね?」

「あ〜……。ちょ……と買いすぎて、セドリックに叱られた。ドミニクにも呆れられてたし」

「……お財布、すっからかんですものね」

「……うん」


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