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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第1章

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62.リスク

 すっきりと言い放った後、レオナルドはぷつりとして黙ってしまった。

 修行を切り上げるのかとも思ったが、夢の中の世界が崩れていくわけではなく。かといって、再びブラックが目の前に現れるわけでもなかった。


 手持ち無沙汰となったキラは、刀を握り正眼に構え、先の戦いを思い起こした。

 ブラックの剣は洗練されていた。才能云々は、むしろ彼にピッタリの言葉なのかもしれないと思うほどに。

 正確無比で、無駄がなく、そして何より己の行動に迷いがなかった。


「”闇の神力”だっけ……やっぱり、強すぎる」

 刀の切っ先より少し上に視線をやり、幻のブラックをにらみつける。

 一歩、踏み込み、刀を払い……キラは唇を噛み締めた。

 その一手に対して、ブラックは同時に二つの対処ができる。真正面から黒剣で切り込みつつ、影を伝って”闇の神力”での奇襲をかけられるのだ。

「避けながら斬りかかることも出来る……けど、それじゃどうやっても綱渡りだ……」


 万全の状態ならば、常に奇襲に気を配りつつ、食らいつくことも可能だ。

 だが、キラは知っている。

 戦いは常に真正面から起こるものではなく、戦争は互いに削り合うことで成り立つ。奇襲で負傷することもあれば、思わぬ戦闘に出くわすこともあり、想定外の戦いによって体力も精神もすり減っていく。

 もしも、極限の状態でブラックと戦うことになったら。

 とてもではないが、戦いにはならない。ジリ貧に追い込まれ、なすすべもなくやられるのがオチだ。


「あれに対抗するには、”雷の神力”が……。どうにかして使えないかな」

 幻のブラックを頭の中で浮かべつつ、一人で刀を振るう。

 どれだけ想像力を掻き立てても、ブラックに攻め入る算段がなかった。常に二つの攻撃を一度に行える相手に対して、その懐に踏み込み刀を振るうしか手がないのだ。


「そういえば……」

 幻に何十回目かの敗北したのち、熱くなっていく頭の中でキラリと光るものを見つけた。

「レオナルド、”ノーリスク”って言ってた……。ってことは、リスクをおったら”雷の神力”を使えるのかな」

 再び刀を正眼に構え、今度はただひたすらに素振りを続けていく。右足で一歩地面をこすりながら踏み込み、掲げた刀を振り下ろす。

 そして今度は左足で一歩下がり、また刀を振るう。


「”雷の神力”……ロットの村で暴走したっけ。天気の悪い日には決まって心臓が気味悪くなって……リリィが『体が耐えられていない証拠にしか思えない』って言ってた気がする。セレナは『雲から雷を吸収してる』って仮定して……だから、暴走したのは雷を目いっぱいに溜め込んじゃったから?」

 寸分違わず素振りを繰り返しながら、ぶつぶつと記憶を掘り返していく。

「ああ、でも。ここのところ、天気が悪くても平気だったし……。あ――そうか、”旧世界の遺物”のお守り! あれが”雷の神力”を抑えてくれたのかな」


 ブンッ、と真っ直ぐな太刀筋で刀を振り終えたところで、ようやく頭の中で声が響いた。

「お前さんの持ってたお守りなら、オレが厳重に保管してあるぞ」

「あ……。それはありがたいけど……何してたの? かなり時間が経ったけど」

「ああ、まあ、野暮用だ。それよか、あのお守りだが――ランディのやつにもらったんだよな。なにか言ってたか?」

 女声の『誰か』についてなにか進展があったのか知りたかったのだが、まるでそれを封じるかのような早口の質問に、キラは少しばかり戸惑った。


 しばらく考えてから、口を開く。

「とある青年にもらったって。いつか役に立つから……って」

「なるほどなあ……」

「”旧世界の遺物”をもってたその青年、知ってるの?」

「いいや、話に聞いただけだ。だが……あいつの口ぶりからすれば、あの”お守り”はお前さんのためにあるものだと思えてならないんだ」

「僕のため?」


「そもそも、”旧世界の遺物”は、とある奴らの間では”聖地”とされてるんだよ」

「”流浪の民”……」

「なら、なぜ”聖地”と呼ばれているか? 明白だ――”流浪の民”は”授かりし者”の集まり。すなわち、”神力”に体が耐えられるようになるからだ。”聖地”の近くで滞在するだけで、な」

「じゃあ、僕のもっていた”お守り”も……?」

「当然、同じ効果がある。ま、お前さんの状態を見る限り、”聖地”ほどの効果があるとは思えないが。ただ――」

「ただ?」

「ランディのやつがそいつを手に入れたのが、”再生の神力”をすでにモノにしたときだ。つまり、その”お守り”はランディにとってほぼ無価値だったのさ」


 キラは首を傾げ、頭を捻った。

 『とある青年』とやらが、ランディが”再生の神力”をすでに扱える状態にあると知っていたのだとしたら……。ランディにとって無価値だと知りつつも、渡したのだとしたら……。


「ま、考えても仕方がねえことだ。――で、お前さんがブツブツつぶやいてるのを聞いちまったわけだが。まさか、”神力”を今すぐ扱いたいとか思ってるわけじゃねえよな」

「聞いてたならわかるでしょ。”闇の神力”……あれに対抗するには、”雷の神力”が必要だよ」

「駄目だ。リスクがでかすぎる」

「けど……!」

「駄目ったら駄目だ。そんな事考えてる暇があるなら……そら、さっさと修行を再開するぞ。単なるイメージトレーニングより、ブラックの弱点やら癖やらをつかめるはずだ」


 レオナルドが言い終わらない内に、幻のブラックが再び目の前に現れた。

 キラは幻影をにらみつつも、虚空に向けてブツブツ文句をたれた。

「そっちが待たせたんじゃないか……」

「ああっ? 余計なこと言ってないで、ほら、開始!」

「ユニィみたいに理不尽だ……っ!」

 突如として動き出したブラックに、キラは文句を噛み殺して対応した。




 翌日。

 何度かの食事と仮眠を取りながら、修行は続いていた。

 幻相手に挑んでは、攻めきれずに負け。苛立ちと焦りにまみれては、やり場のない怒りが溢れて、レオナルドに中断させられ。

 そうしながらも、徐々にではあるが、刀が届くようになっていた。


「――フッ!」


 息を吐き出しながら一歩踏み込み、ブラックの懐へ直進する。

 幻は何の躊躇もなく、まるで鏡写しのように突っ込んでくる。

 降りかかる黒剣に、影から形を伴い噴出する『黒棘』。


 その刹那。キラはすべての感覚を研ぎ澄ませた。

 ブラックの剣の軌跡を目で、微細な空気の動きを肌で、グジャッという『黒棘』が影から伸びゆく音を耳で。

 そうして、全てで『黒棘』の狙う場所を把握し――低めていた姿勢を更に低めることで回避した。背後から伸びる『黒棘』が首筋すれすれを通り過ぎていく。


 幻ながらも、ブラックは赤い瞳をわずかに見開いた。

 迷いで、剣がぶれる。

 大きな、大きな、隙だった。


 キラは刀をきらめかせ、剣を持つブラックの腕を斬り飛ばした。

 そして、更に一歩。ブラックの身体が後ろ向きへ傾ぐのを見て、地面を踏みしめ――そこで舌打ちをした。


「消えた……ッ!」

 どこへ現れるかは明白だった。

 勢いのついた身体は、そう簡単に反転できるものではなく。唇を噛み締めながら、頭だけでちらりと振り向くことしかできなかった。

 影から飛び出てきたブラックは、肘から先のなくなった右腕を、”闇”で補完していた。


「そんなの卑怯でしょ……!」

 真っ黒となった右手の手のひらには、光をも飲み込む球体が宿っていた。

 避けるまもなく、それを背中に押し付けられ――爆発。まともな受け身を取ることも許されず、キラは数十メートルを地面に叩きつけられながら転がった。

 ようやく勢いが収まり、うつ伏せにして寝転がったときには、すでに自力で起き上がる気力すら削がれていた。


「うぅ……」

「こりゃまた随分派手にぶっ飛ばされたな」

 頭の中に美女の笑い声が響くとともに、身体中の痛みが消えていく。

 夢の中限定の”治癒の魔法”だ。切り傷や打撲などの痛みは愚か、擦り傷等の小さなかすり傷でさえも忠実に再現されているために、そのありがたさを如実に感じる。


「だが良い線いってたんじゃねえの? 何かコツでも掴んだのか?」

 キラはうめきながら体を起こし、あたりを見渡した。少し離れた白い地面に、刀が突き刺さっているのが見える。

 軽くなった身体を重い気持ちで動かし、突き刺さった刀の元へ向かう。


「ブラックは……一点に攻撃を集めないっていうのが、やっとわかったんだよ」

「一点に?」

「例えば、剣で首を跳ねようとしたときに、『黒棘』では首を狙わない。絶対に、別に致命傷を負わせようとする。背中側から心臓を狙ったり、足を引き裂こうとしたり。狙いが正確だから、二点同時攻撃がかぶることは絶対にない」

「はあ〜……なるほどな。よく気づいたな?」

「だから、『やっと』って言ったんだよ……。レオナルド、あなたの弟子……すごく面倒くさい。なんで腕切ったら腕生えるの……しかも痛みで怯みもしないし」


 重い溜息を付きつつ、”センゴの刀”の柄を握る。

 地面から引き抜き、その美しい白銀の刃に傷一つないことを確認して、すらりと鞘へと収める。

 チン、と甲高い金属音がひびき、どこか心地のよい重さが左の腰にかかった。


「あいつも、ある意味では天才だからな。オレの元へ来たときには、すでに”闇の神力”を扱える状態だった」

「いやになるね……」

「フッフ。それをお前さんが言うかい。並の剣士なら、ブラックの相手など一秒と持たない――なのにお前さんと来たら、腕まで撥ねてしまう。誇っても良いんじゃないか」

「ふっとばされて誇れっていうのは、なかなか皮肉だよ」

「くはっ、そうかもな!」

 からからと笑うレオナルドに、ため息をつきつつキラは聞いた。


「今何時? 修行開始したのは朝の六時くらいだったけど」

「ああ、そうそう。もう九時回っちまうから、飯にしようぜって声かけたんだった」

「……また肉?」

「ったり前だろ! 贅沢言うな、もっと食え!」


 鋭い叱責が脳内で反響すると同時に、ぐらりと身体の傾く感覚が襲う。

 何度目かの”解除の魔法”だが慣れることもなく……気がついたときには、キラはベッドで横になっていた。

「あぁ〜……気持ち悪い」

「その声! よっぽど苦手なんだな」

 あいも変わらず麻袋を頭にかぶったレオナルドが、ベッド脇のテーブルについていた。石壁とぴったりくっついた卓上は、かなりの広さがあったが、乱雑に広げられた本や何やら色々と書き散らした紙類などで狭くなっていた。


 朝の九時、といっても、部屋に太陽の明かりが差し込むことはない。

 何しろ、”転移の魔法陣”があった広い部屋と同じく、修行場として使っている寝室は地下にある。蟻の巣を参考に繋げられていった地下室の数々は、どこを訪れても殺風景な石の壁と床と天井に囲まれているだけなのである。


「笑い事じゃないって……。うぅ……」

「その様子じゃ、飯はしばらく後にしたほうが良さそうだな。喜べ、今日はステーキ三昧だ」

「うん……。っていうか、昨日も思ったけど、よくそんなに色んな食材を買ってこれるよね。シチューはいっぱい具があるし、肉だって色んな部位あったし」

「うん? お前さん、王国から来たんだろ。だったら、あっちのほうが食が豊かだぞ」

「まあ、色々あって……立ち寄ったエマール領ってところは、王国の中でも例外的な場所だったんだ。なんだっけ……シスから聞いたんだよ。『ミテなんとか』のおかげで、まだマシだって。でも、スープは質素だったし肉だってそんなにあるわけじゃなかったんだよ」


「ああ、問題だらけの公爵のお膝元か。どういう経緯かは知らないが、難儀なことだ。『ミテなんとか』ってのは、たぶんミテリア・カンパニーのことだな」

「あ、たぶん、それだ」

「昔、ラザラスが立ち上げた海賊団が起源の商会さ」

「……はい?」

「ラザラス、知ってるか?」

「王国の王様の名前……。そんな人が……なに、海賊?」

「どこぞの海賊を私掠船に仕立て上げれば良いものを、『そんなの面白くない!』とかいってチンピラかき集めて海賊団に仕立てやがった。それが今やどんな国も無視できない完全中立の商会となってる……これを思い描いてたんなら、オレもびっくりの天才だ。馬鹿だが」

「えっと……。今は海賊じゃない、ってこと? その商会……ミテリア・カンパニーは」

「さあな。立派な軍を持って、海路を縄張りにして、自分たちの理念を侵略されりゃ徹底的に戦う……ってのは、まあ、海賊じゃねえんだろうな」

「ほぼ海賊じゃん……」


「根は変わらないってことだろうさ。ただしかし……妙なことだ」

「妙?」

「今言ったように、奴らは商取引を成立させるために中立を貫いてる。どこの国にもなびかず、どこの国にも屈しない。ラザラスのやつが掲げた理念が曲がってなきゃ、今でも”食で世界をつなげる”ことを目的にしてるはずだ」

「食で……」


 キラはエマール領内でのことを思い出した。

 ”隠された村”は、飢餓と病で潰れそうなところをギリギリで回避した。それから今までの事情は聞いていないが、少しの間一緒に過ごしただけでも、彼らが特に食に困ってはいないのは分かった。

 村壊滅の危機が去ったとしても、毎夜祭りのような幻想的な景色を楽しむ余裕があるものかと、不思議に思っていたが……。エマール領リモンの労働街とつながったミテリア・カンパニーの物資があったとすれば、その矛盾も解消する。

 今更ながらに、セドリックたちが再び飢餓に苦しむことはないと思いいたり、キラはこっそりと安堵の息をついた。


「だが……」

 続くレオナルドの言葉に、キラは耳を傾けた。

「ミテリア・カンパニーの行動は、その”食の理念”に則ったものだ。となれば、”食の王国”なんて呼ばれもする王国と関わろうとするはずもないんだがな……」

「リモンの労働街の市長が取引を始めた、って聞いたよ」

「ほう……? しかし、そもそもミテリア・カンパニーと出会う機会すらなかったはずだ。そのリモンとやらが海に面した街ならともかく。……こりゃ、ラザラスが一枚噛んでるな。だが、ミテリア・カンパニーの今のボスは、王国を嫌ってたはずだが……内部で派閥ができてるのか……?」


 麻袋の中でぶつぶつと呟くレオナルドに、キラはふとした疑問をぶつけた。

「なんでそんなにミテリア・カンパニーについて詳しいの?」

「あん? そりゃ、オレも創立に立ち会ったし。今はこんな絶世の美女だから、向こうもわかっちゃいねえはずだが」

「袋かぶってよく言うね……」

「これに関しては全面的にお前さんが悪い」

「えぇ……」


「ま、この話を振り出しに戻すと……俺がよく買い出しに行く町じゃ、ミテリア・カンパニーが商売をしてんだよ。肉やら野菜やら、世界中から集められてるから、そりゃ種類は豊富でな。よく行くもんだから、顔も覚えられたくらいさ」

「ああ、それで……。話もよく聞くんだ? ボスの話とか?」

「世間話がてらにな。ま、いまのお前さんの話を聞く限り、海賊らしく内部分裂しかけてるようだが……。変なふうにならねえことを祈るだけだ。買い出しに行くオレが面倒になるばかりだ。――で、酔いは収まったか?」

「……まだ」

「そいじゃ、今のうちに追加でスープでも作っとくかな」

「増えるの……?」

「全部食べろ」


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