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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
6と2分の1章

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629/961

608.3-26「進展」

   ◯   ◯   ◯


 数日後。

 エグバート王国王城、ローラ三世の執務室にて。

 現国王、元国王、公爵家次期当主という、肩書だけを見ればなんとも豪華な面々が集っていた。


「おお、元気になって何より! 体力をつけんとなあ、ローラ! へなちょこは王は務まらん!」

「うぅ……。面目ないです……」

「ラザラス様。ローラ様にはこのクロエがついておりますので。ムキムキになる必要などございません」


 ただし、堅苦しい空気など皆無。

 うち二人は親子であり、後の一人も血のつながりのある親戚。家族も同然であり、となれば自然と雰囲気も柔らかくなる。

 しかし、以前とはまた別の和やかさがあるとラザラスは感じていた。

 部屋中央に設えたソファにどかりと座って、マジマジと向かい側を観察する。


 齢十四の若き女王ローラは、王国騎士軍〝総隊長補佐〟たるクロエにぴっとり寄り添っていた。その様は少し歳の離れた姉に甘える妹。

 クロエが〝総隊長〟だった時は、まだもう少し距離があった。ローラにとってのクロエは頼れる女騎士であり、クロエにとってのローラは〝第三王女〟だった。

 とりわけどこまでも真面目なクロエは、誰に対しても他人行儀。


 それが今や、妹が可愛くて仕方がない姉となっている。

 いつも鎧を着込んでいたというのに、それをとっぱらい、なおかつ自分から密着しにいっている。しきりにローラの髪の毛を撫でたり、頬に触れてみたり……前まではありえないことだった。

 ローラにしても、心の拠り所を見つけた子猫のように、クロエのスキンシップを目一杯に享受している。


 それもこれも、約一ヶ月にも及ぶ視察があったからだろう。〝黄昏事件〟により被災した各地へ向けて、ローラとクロエは二人きりの旅に出たのである。

 王女の護衛は、クロエただ一人。

 しかしそのクロエは、竜ノ騎士団〝元帥〟リリィ・エルトリアを上回る強さを誇る強者。彼女を出し抜きローラに危害を加えようなど不可能というもの。

 とはいっても、もとより平和な王国での旅路に、費用の負担になるほどの護衛は必要ないのだが。


 だからこそ実現した二人旅が、彼女たちの距離をグッと縮めたのだろう。

 楽しい旅ではなく、苦痛と心労の伴う被災地訪問である……互いに互いを気遣うことを強要される。否が応でも、仲は深まるというもの。


「それで、ラザラス様。ローラ様は病み上がりなわけですが……いかなご用件で?」

 父親として、親戚として、二人の仲の進展にはニヤニヤが止まらず……しかし持って来た話が話なだけに、腕を組んでムンと表情を引き締める。

「旧エマール領リモン……もとい、〝奇跡の街〟パクスにて進展があってなあ。早いところ共有しておきたいと思った次第よ」

「なるほど……。それで〝やきつけ〟を」


 クロエがちらりと視線を動かす。

 部屋の四隅の目立たないところに、盗聴防止用の魔法陣が焼き付いている。

 〝陣札〟により〝魔鉱石〟を転写したものである。一度〝音漏れ防止〟を使えば、四箇所の魔法陣が共鳴し、目には見えない強固な壁を作るのだ。


「あの……。一体、なんの話でしょうか……?」

「ローラは視察の準備で何かと忙しかったからなあ。出発前にはあえて何も伝えてなかった。……というより、あの時点ではいかな形にまとめるか迷っていた。策を放棄することも視野に入れるくらいにはな」

「はあ……」

 首を傾げるしかない娘に対し、ラザラスはしばらくどう伝えるべきか考えた。


「ことの発端は……〝黄昏事件〟の直後。ペトログラード殿が来訪したのは覚えておろう?」

「ええ、もちろんです。クロエさんのお母様……へーラさんがとても慌てていましたから。何かまたあったのかと胸騒ぎしたのを覚えています」

「ふっふ。〝秩序の番人〟はいついかなる時も冷静だからなあ。娘の前ではわからんが」

 チラとクロエの方を見れば、彼女は気まずそうに咳払いをしていた。そうしておいて、まるで何も聴こえていなかったかのように話を引き継ぐ。


「私も当事者でしたから。ロジャー殿の船でペトログラード殿の護衛を任されまして……。そういえばあれは確か、ラザラス様の指示だったような気がします。王家に手紙が届き、『腕利をよこしてくれ』と……」

「もともとはな。ロジャー殿が内密に帝国の皇帝を護送したいと手紙をよこしたもんだから、そりゃあ最大戦力をもって出迎えねばと思ってなあ」

「今思えば……。先に言って欲しかったです。到着してようやく要人の正体が明らかになる気持ちを考えてください」

「わっはっは! さぷらいずよ、さぷらいず!」


 生真面目なクロエのこと。要人であるペトログラードを前にして態度には表さなかっただろうが、頭の中は混乱していただろう。

 そこへ〝黄昏事件〟が重なったのは不運としか言いようがなく、だからこそあまりからかいもできないが……彼女の精一杯のポーカーフェイスを見てみたかったというのが、ラザラスの本音だった。


「で、じゃ。クロエとロジャー殿がペトログラード殿を連れて王都にやってきた……それと同時に、ロジャー殿はとある人物から手紙を預かっておった。わし宛のな」

「お父様に……? 一体誰が?」

 冒険譚を聴くときのように、ローラが前のめりになって聞いてくる。

 するとほぼ同じタイミングで、クロエもまたソファから背中を離した。その二人の様子はまさに仲のいい姉妹。


「そういえば。私もまだ差出人……というより〝策〟の仕掛け人についてお聞きしておりませんでした」

 似たもの同士になって来た二人に笑いそうになるのをこらえ、ラザラスは応えた。

「ブルータスという名の男よ。パクスに迫る危機をいち早く察知し、わしに手紙を宛てたらしい」

「要点は掴めましたけど……。なんだかモヤモヤします。そのブルータスさんという方は、なぜその〝危機〟というのを手紙という形でロジャー殿に……? ロジャー殿は、確かリヴァーポートからお越しになられたのですよね? そもそも、お父様に手紙を出すというのも引っ掛かります……普通はもっと別の方法を取ると思いますが」

「さすがわしの娘! よく頭が回る! ――が、今はまだ、ブルータス殿の正体についてはわしとロジャー殿の胸の内に秘めておこう」


「なぜ……?」

「こう言ってはなんだが――扱いに困る人間でな。良い意味でも、悪い意味でも。慎重にことを進めねば、少々ややこしいことになる」

「……お父様がそういうのであれば。冒険のお話だって、肝心なところをぼやかされたことが何度もありますし」

「わっはっは! すまんの!」

 ぷくりとむくれるローラに、じろりと睨んでくるクロエ。そんな二人の態度に対して、ラザラスは笑い飛ばす他に方法を知らなかった。


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