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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
6と2分の1章

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623/961

602.3-20「共通項」

「開けろ!」

「んえ――ッ!」

 扉が内側にパッと開いたことで、青年を押さえつけていたのが途端にひっくり返る。

〈うわ——この扉、内開きだったのっ?〉

〈どこも大抵そうだけどっ? 珍しく初めっからうまく行ったと思ったら……! 何やってんのよ、バカ息子!〉


 痛恨のミスに嘆く間にも、状況はどんどん暗転していった。

 青年と共にバックヤードに雪崩れ込み。

 素早く体勢を立て直したのも束の間、待ち構えていた太った男が砲弾のように突っ込んでくる。

 

 寸前で回避したものの、今度は青年の蹴り。

 それもなんとか腕でガードし――しかし、その衝撃までは受け流せずに吹き飛ばされた。

 青年の華奢な体つきに、なってない蹴り方。

 というのに、随分なパワーだった。


 再び扉を破って、今度は店内に転がり出る。

 立ち上がった時には、すでに物騒な男たちに取り囲まれていた。


〈今の……。なに? あの蹴り、魔法使ってないよね〉

〈わかんないけど――ピンチだよ、キラくん〉

 キラは左手に巻きつけた紅色の下緒に鞘を差し入れ、〝センゴの刀〟を手離さないように握り込む。

 いつも通り、咄嗟の状況でも抜刀できるよう、親指は鍔にかけておく。


「一応聞くけど……。いつからバレてた?」

 周りの粗野な男たち五人は答えない。

 一番先に口を開いたのは、バックヤードからのそのそとやってきた青年だった。砲丸のような大男を従えているのを見る限り、やはり彼がリーダー格のようだった。


「見かけた瞬間にだ、この化け物。何食ったら毒が効かねぇ体になるんだよ」

「毒……?」

「しかも気づきもしねぇ。ンな異常なやつを警戒しないバカがどこにいる?」

「にしては……随分無防備だった。それに、あの蹴りも……。慣れてないっていうより、戦うの下手?」

「てめぇ……! この状況でよくアオれるな、あア?」


 そういう意図があったわけではないが、青年は随分と短気だった。

 プライドが高いのか、あるいは劣等感が刺激されたのか……自分が始末をつけるとばかりに目線で仲間たちを威圧しつつ、一歩出る。


「生きて帰れると思うなよ……!」

「そりゃ……。こっちのセリフさ。色々と喋ってもらうためにも、一人は生きてもらわなきゃ困る」

「減らず口を……ッ」

 青年はポケットから何かを取り出した。

 手のひらに握られたそれは、茶色の小瓶。中にはチャプリと揺れる液体が入っている。


〈あれは……クスリ?〉

〈気をつけて、キラくん。あれから嫌な〝気配〟を感じる〉


 キラは頷くことすら忘れて、青年の挙動を注視した。

 青年は怒りのままに、しかしそれにしては慎重に小瓶をあおる。

 半分ほどを残して蓋をして、背後に控えている大男に放る。大男は、まるで金塊でも投げ渡されたかのように慌てて受け取っていた。


「——————ッ!」

 青年は言葉にもならない苦しそうな雄叫びを上げ、見る見るうちに変わっていった。。


 それまで華奢だった体つきが、メキメキっという痛々しい音とともに膨れ上がっていく。

 体の内側で爆発でも起こるかのように、至る所がぼこぼこと膨れる。その度に服がちぎれ、弾ける。

 貧弱な体つきが垣間見えたのもつかの間。まるで獣のように、青い体毛が急激に伸び始めた。

 体格も骨格も、劇的に変化しているようだった。


 深く俯いた青年の顔つきも、瞬きをするごとに変わっていく。黄色い歯が牙のように尖り、同時にバキバキと口元が突き出ていく。

 随分と長い変身時間だったが……キラは、その間に見定めねばならないと直感した。


〈あのクスリを飲んだ瞬間、変な〝力〟が溜まり始めた……。〝神力〟でも〝覇術〟でもない……。あれが〝妖力〟ってやつかな?〉

〈そんなわけないよ……! あんな歪んだ〝力〟、見たこともない。リョーマくんからあんなヘドロみたいな汚れた雰囲気、感じたことないでしょ〉

〈確かに。どっちかっていうと――〉


 青年は、ついに完璧に変身を遂げた。苦痛が晴れるのと同時に、〝力〟に満ちた万能感に高揚したのか、大きく首を逸らし……吠える。

 仲間ですらその異形な姿に恐れをなし、何人かは腰を抜かしていた。


〈何から何まで共通点が多いわね……! 帝都じゃ〝始祖〟が〝神力〟を与えて、ここじゃああの〝クスリ〟が怪物じみた〝力〟を与えた……!〉

〈しかも――見た目は〝黄昏現象〟の〝魔物〟っておまけつき〉


 青年は〝クスリ〟により狼男に化けた。

 それだけではなく、あの忌々しい〝黄昏現象〟にて猛威を振るった〝魔物〟の特徴が現れていた。長い体毛をかき分けるようにして、額に目玉が生えたのである。

 ビリビリの服を脱ぎ捨てる様は、ヒトであったことを忘れたかのようだった。


「ドウ、ダ……! コレ、が、オレの〝チカラ〟……!」

「……振り回されてちゃ世話ないね」

「ヘラズ口ヲ――タタクな!」


 三つ目の狼男は、天井にも届く巨躯。

 というのに、その速さといったら。動き出しも、トップスピードへ至る速さも、駆ける動作も――全てハイレベル。


 キラも反応が遅れ――、

〈〝エルト流魔道術〟〉

 合図もなく体を乗っ取ってくるエルトに、防御行動を任せた。ズズ、と右目が赤く染まっていくのがわかる。


〈〝鎧熊〟!〉

 姿勢を低くして鋭い爪を伸ばしてくる狼男に対し、エルトが両腕を合わせて盾を作る。

 とん、と軽く後退して位置を調整し、腹をも抉るような一撃を防いだ。


 到底それだけでは受け止めきれない――そうエルトは想定して、両腕に重心を置きつつも、全身に防御面を展開していた。

 おかげで、壁を突き破って転がり出ても、なんら痛みはない。


〈防御は私に任せて! いっぱい技考えたんだからっ〉

〈警戒してたんだけど……反応遅れた。助かったよ〉

〈んふふ! 〝魔道術〟師範ですものっ〉

〈……ああ。それ、生きてたんだ〉

 軽口を叩きながらキラは立ち上がり、ふ、と息を吐いた。〝弐ノ型〟を隅々にまで行き渡らせ、感覚を研ぎ澄ます。


〈……まただ〉

〈何?〉

〈川の音。いや――たぶん、血が流れる音〉

 サアッ、と聞こえるそれに集中したかったが、敵はそれを待ってくれない。

 狼男は、〝クスリ〟により判断力まで上昇したらしい。先の一撃で仕留めたとはつゆとも考えず、まだ店の中にいるという状況を利用した。

 すなわち、スピード重視の奇襲である。


 だが。

「まだセドリックの方が〝考えてる〟よ」


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