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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
6と2分の1章

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622/956

601.3-19「直接」

〈〝聖母のタリスマン〟……だっけ。高い位の人しか持てないっていう……〉

〈そ。私も直接目にしたのは数回だけ。普段は国を出ないヒトしか持たないから……。でも、こうして改めて見ると……〉

〈エルトも気づいた? コレから、妙な〝波動〟を感じる〉

〈うん……。魔法を込めた道具なんてこの世に存在し得ないはずなんだけど……。どういうことだろ〉

 何より〝聖母のタリスマン〟が持つ圧倒的な存在感に目が釘付けになり……手を伸ばしかけたところで、イグレシアス卿が声を顰めて言った。


「出てきましたぞ」

 その警告にハッと我に帰り、キラはタリスマンから視線を引き剥がした。

 酒場〝シャンパン〟は、〝市民街〟の隅にある。

 活気のあふれる大通りから離れた場所――大通りから脇道を何度も経由し、裏路地を抜けてようやく見つかるような場所である。街の外から回った方が早いくらい。

 川に寄り添うようにしてぽつんとあり、その裏口から一人出てきた。

 暗くて見えづらいものの、店内から漏れ出る光を頼りに目を凝らせば、あのウェイターであることがわかる。

 誰かを待つように川辺に立ち、葉巻を取り出しゆっくりと燻らせている。


「……あの様子ですと、キラ様を待っている様子ですな」

「ですね……。この暗さだと、〝センゴの刀〟は気付かれることない……けど」

 金を借りに行くという約束のため、〝センゴの刀〟を堂々と持っていくことはできない。

 そういうこともあって、ニコラから借りたソードベルトを剣帯代わりにして、少し無理やり刀を背負っている。紅色の下緒を左手に緩く巻き付け、いざという時の戦闘準備もバッチリ。

 もともと店内に入ったと同時に戦闘を始める予定だったが……外で取引を行うとなると、話が変わってくる。


〈中の様子を……。〝気配視〟で……んー……〉

〈……キラくん。〝弐ノ型〟使いすぎて、〝一ノ型〟の感覚忘れてるでしょ〉

〈ぐ……。だって、〝一ノ型〟とか言いながら使う機会が無さすぎるから……〉

〈言い訳しない。こうやって会話できてるのだって、〝一ノ型〟なんだから〉

〈あれ、そうなんだっけ……?〉

〈ほら、『キラくんはいつも〝覇術〟を使ってる』説。今こうして話してるのも、限りなくゼロに近い〝一ノ型〟を使い続けてるからなんだよ。だから、〝呼吸〟をほんの少しだけ深くするだけ――ほら、早く〉


 エルトに急かされ、キラはほんのわずかに〝呼吸〟を意識した。

 〝弐ノ型〟の〝呼吸〟のタイミングはそのままに、普段と変わらないくらいに浅く呼吸をする。

 すると、以前よりも〝血因〟の動きをくっきりと把握できた。ゆっくり、ゆっくり、体の内側を循環していく。

 〝弐ノ型〟ほどは強くはないものの、周囲の〝気配〟を如実に感じ取る。空気に溶け込んだ気にすらなり……周りのありとあらゆる鼓動を把握することができた。


〈あ……〉

〈どうしたの?〉

〈いや……。前にエルトが使ってた〝空梟〟……今なら使えるかもって。押し広げる感覚っていうの、解った〉

〈――確かに。〝血因〟の動き方が……なんか、洗練されてる〉

 キラはその感覚の勢いのまま、酒場〝シャンパン¥zの様子に集中した。ヒトの気配が透けて視える。


「五……六人。でも奥行きが……」

 そこでキラは瞼を閉じ、酒場まで広がった感覚に頼った。ぼんやりと、頭の中でイメージが膨らんでいく。まるで空から見下ろすかのように、〝気配〟を数えることができた。

 店内に五人――うち二人は、おそらくバックヤード。

 残る一人が、川辺にいるウェイターの近く。位置からして裏口から伺っているような形である。


「待ち伏せされてる……?」

「キラ様……。今、何かされましたか? 魔法を使ったようには思えなかったのですが……」

「え? あ、ああ、まあ……似たようなものを」

「ほう……。さすがは〝天神教〟の主。お見それしました」

 イグレシアス卿が隣にいるのをすっかり忘れていたキラは、どきどきとする心臓を押さえながら、そそくさと立ち上がった。


「じゃあ、行ってくるんで……。ほんと、何かあったらすぐに逃げるように」

「かしこまりました。キラ様も、お気をつけて」

 それまで見張っていたことを悟られないように、キラはあえて酒場〝シャンパン〟から離れた。雑多に並ぶ家屋の合間をぬう小道に出て、くねくねとした道順を辿る。

 小道が行き着く先は、ほぼ街の外。空き地のようなそこに〝シャンパン〟は構えていた。

 特に気配を隠すこともなく、普通に酒場に近づく。

 すると、砂利を踏み締める音に気づいたのか、ウェイターが店の裏手から姿を現した。


「いらっしゃいませ」

 あたりの暗さと店から漏れ出る光とで、青年の顔には濃い影がかかっている。

 声や口調は昼間と同じではあるものの、闇に埋もれた顔つきからは奇妙な視線を感じた。

〈バレてるなあ……。何かと〉

〈だね。店の裏で仕掛けてくるかも〉

 頭の中の会話を表情にして出さないよう細心の注意を払いつつ、キラは青年に声をかけた。


「あの、昼間の……。約束を」

「ええ、存じておりますよ。ではこちらから……。一応、店の方は閉まっていますので」

 案内をしてくれる青年に素直に従う。正面の入り口の右手から、川に沿うようにして裏へ回り込む。


 そこでキラは、〝弐ノ型〟に入った。

 青年が今まさに開けてくれようとしている扉。

 そこを潜れば、待ち構えている一人が間違いなく襲ってくる。そうやって店の中で決着をつける腹づもりだろう。

 敵は、約束を守るふりをして、誘い込むつもりなのだ。


 ならば。

〈今〉

 その誘導が成功する直前。

 一瞬であろうと、僅かであろうと、気の緩みを見せたその瞬間こそが好機。


 エルトに言われずとも――キラは背中から〝センゴの刀〟を鞘ごと抜き去り、青年に襲いかかっていた。

 青年を扉に押し付け、素早く鞘で左腕を固めて拘束する。


「さあ――色々話してもらうよ」

「チッ……! 気づいてやがったか、クソが!」

「っと、暴れるね。下手すると首飛ぶから、気をつけて」


 鯉口を切って少しだけ抜き身にし、〝センゴの刀〟の冷たさを首元に押し当てる。僅かに動いただけでもプツリと肌に食い込む。

 じんわりとする暑さの中、流れる血の冷たさで死を感じ取ったらしい。青年は暴れることは無くなった。

 とりあえず、一人確保――そう思っていたところ。


「開けろ!」

「んえ――ッ!」


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