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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
6と2分の1章

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592.3-10「裏をつく」

「あー……。ねむ」

「昨日は頑張りすぎましたね。今日は鍛錬は程々にしましょう」

「んー……」

 何度もあくびをしながら、キラはリーウと一緒に〝行政街〟の目抜通りを歩いていた。


「しかし、キラ様はさすがですね。昨日も眠そうにしながらも、結局セドリックさんとドミニクさん二人相手に一つも負けませんでしたから」

「まーねー……。二人とも、対人戦は未熟だから。セドリックもパワーあるけどそれだけだし、ドミニクは牽制気味にしか仕掛けてこないもん」

「というより……。お二人とも、それしか攻略法がないと判断していたような気がします……。私も何戦か受けてもらいましたが、キラ様には攻撃が当たる気がしませんでした。雰囲気もガラリと変わって……」

「そう……? けど、格上相手にどう凌ぐかってのも、戦士の素養の一つだとは思うよ。負けは死につながるから。正直、あのバーズってのを相手に生き残ったのは、コリーの存在がでかいと思う」


「もしや……。眠気を押して鍛錬に付き合ったのも、それが理由ですか?」

「うん。王国飛び出してエリック連れ戻そうっていうんだから、想定外の敵なんて山ほど出てくるだろうし。最低限、負けても死なないよう対応力を磨いてもらわなきゃ。今は、なんかちょっと発想力が低い」

「あー……確かに、パターン化されていたような気がします。先の読める手が多くなるというか……」

「追い詰められた時にこそ、敵の裏をかかなきゃいけないんだよ。そこで一番冷静になって、頭をフル回転させて……っていうことが、セドリックもドミニクも全然できてないと思う」

「それで、あれほどギリギリまで追い詰めるような戦い方をしていたのですね。単なる鬼畜かと思いました」


「ぐ……。セドリックたちにもそう思われてるかな……?」

「そこは心配ないかと。私が戦いに関して浅いだけで、お二人とも最後まで立ち向かっていましたから」

「だといいけど……。あと、リーウの練習方法も考えないとね。ナイフでの接近戦なら教えられるけど、魔法を交えてってなると僕じゃどうしようもないから。そういう意味じゃあ、やっぱりちゃんと戦い方を学ぶならセレナに頼んだほうがいい気がする」

「ですね。しかし、キラ様との組み手は継続して行いたいのですが……。あの恐怖感と緊張感を相手に戦い続けられれば、この先どんな敵が来ても平常心で臨めます」

「そりゃあいいけど……。そ、そんな雰囲気変わる?」

「はい」

「そう……」


 〝行政街〟は、まだ小さい規模ながらも、王都を思わせる街並みに整っていた。

 整備されていない砂利道から石レンガの道へと舗装され、両側には赤煉瓦の建物が立ち並ぶ。〝行政街〟というだけあってそれぞれが役所で、一軒一軒がかなり規模のでかい建物となっていた。

 歩道と車道もきちんと区別がつけられ、その境にはガス灯も等間隔に並んでいる。以前までは見かけないような二輪馬車も走っており、改革の成果が垣間見えた。


 新たな息吹を身近で感じることのできる目抜通りは、そのまま〝市民街〟につながっている。

 前のように関門で堰き止められることもなければ、高い壁で阻まれていることもない。

 閉塞感と圧迫感の象徴だった〝境界壁〟は見事になくなり、代わりに街路樹が植えられて一つの街になったことの象徴となったのだ。


「ん……?」

 全く別の街に訪れたような奇妙な感覚を楽しんでいると、ふと視界に止まるものがあった。

 旧リモンにできた二列の街路樹。王国各地から集められたであろう木々は、一つ一つが違う表情をしている。

 その木々の合間から、古めかしい建物が見えた。

 良くいえば古風。悪くいえば廃屋。新しくなっていく中で一つだけ取り残されたそこに、キラも見覚えがあった。


「キラ様? あの建物がどうかされましたか?」

「あの〝聖母教〟の教会……。前と全然変わってないなって思ってさ」

 街路樹に囲まれるようにしてポツンと佇んでいるのは、以前、リリィと少しだけ訪れた教会だった。

 〝武装蜂起〟の作戦の際には、エヴァルトが教会から通じる秘密の通路を辿って〝貴族街〟に潜入した。

 ブラックとのファーストコンタクトもあの教会を前にした時であり……何かと、脳裏に残る存在感を放っていた。


「はあ……。何しろ、世界最大の宗教ですからね。改築などの手入れはしても、取り壊しはありえないのでは……?」

「ああ、いや……。ここからもちょっと見えるだけど、結構ボロボロなんだよ。この街って、前はエマール家が支配しててさ。〝聖母教〟は軽視されてたというか、捨てられてたというか……エマール家が〝イエロウ派〟っていう宗派のトップなもんだから、淘汰されてたんだよ」

「そのエマール家とやらが国外逃亡したというのはうかがいました。……ということは、確かにあの状態は不自然ですね。まるで、〝聖母教〟が見限られたかのような……」

 リーウがそこまで口にしてはたと気づき、キラも眉を顰めた。


〈帝都の時とおんなじ状況になってるってことじゃない?〉

〈だとしたら、まずい……。帝都の〝教団〟はなんとかできたけど……〉

 キラが焦燥感に従って足を踏み出そうとしたところ、

「うん? キラ殿ではないか。朝早くから何を……?」

 偶然通りがかったらしいニコラが声をかけてきた。

 彼が所属する〝連絡課〟の朝は早いらしく、〝市民街〟で借りているという宿所から出勤する最中のようだった。


「ああ、ニコラさん……。眠そうですね?」

「ん、うむ。朝早いのは特別苦手でもないのだが、昨晩遅くまで起きていてね。王都に出向いたシェイク市長に色々と報告の手紙を……。それで、一体何を?」

「あの教会……。前と見栄えが変わらないな、って不思議に思って」

「ああ……。やはり我らが〝英雄〟。目の付け所が鋭い」

「な、なんですか、その呼び方……」


「ん、すまない。街の名前をどうするかが、目下の課題でね。私としては、あの武装蜂起にて一人で希望を繋げてくれたキラ殿にちなんだ名前がいいと思うんだが……。シス殿を推すものがいたり、エヴァルト殿を推すものがいたりと、なかなか……。共通の言葉がないかと模索していて、ならばいっそのこと〝英雄たち〟ということにして……と、日々頭を悩ませているんだ。キラ殿はどう思う?」

「どう、って言われても……」


 これほど重大で、これほど他人事なことはない。

 エマール領での反乱に一役買ったとはいえ、その街の全てとも言える名前を決めるとなると、口出しにも慎重になる。気恥ずかしいからやめてくれと軽くも言えない。

 ニコラは本当に四六時中そのことを考えているのか、深いため息をついた。


「まあ、その話はまた後で」

「ああ、あとで……」

「とりあえず、歩きながら話そう」


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