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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
6と2分の1章

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591.3-9「クエスト」

 案内された応接室で、キラはセドリックとドミニクの間に座っていた。対するネイサンは、向かい側のソファにどっしりと構えている。

 背後に立ち控えているリーウに苦笑されるくらい、できるだけソファーの背もたれにもたれかかり少しでも稼いでいる……というのに、ネイサンの圧力はその全てを無視する。

 耐えきれなくなったキラは、自然を装って立ち上がった。ぐ、ぐ、と背伸びをしつつ、ソファの後ろに周り、リーウと同じポジションにつく。


「キラ様、刀を」

「ん、ありがと。魔法でも使われてたかな。圧迫感が……」

「最初はその気配がありましたね。キラ様が少し警戒されてから、すぐに引っ込めましたが」

「だよね……。ほんとにロジャーの部下……? やり口やばいんだけど」

「商人としての癖なのでしょうね。相手はきちんと見定めて行ってはいるようですが……。魔法というのは、時として感情に流されることがありますから」

「一種の職業病ってことかな……。でもその魔法、あんまり意味ない気がする。元からあの圧力じゃあさ」

 リーウとコソコソと話しているうちに、セドリックたちは依頼の詳しい内容に入っていた。


「――え。そんなんでいいんすか?」

 とは言っても、それほど難しいことでもなかった。

 やることは単純明快。〝行政街〟周りの瓦礫の片付けである。

 街の半分がまとめてあの瓦礫の山となっているため、石だったり木だったりレンガだったりを仕分けしながら所定の場所に運び込むのだ。


 キラも意外に思えるほどに簡単な内容だったが、ネイサン曰く、『誰もやりたがらない重要でつまらない仕事』らしい。

 ゴミの分別をしながらとなると相当に時間がかかり、関わったすべての人間の時間を奪う。

 竜ノ騎士団としても、大改革で忙しい〝行政街〟の人間としても、自分たちの生活基盤を立て直すのに必死な〝市民街〟の人々にしても……無視しようにもできない頭痛の種になっていた。

 そこまで聞けば冒険者ギルドに依頼が飛んできたのも納得だった。

 すでに他の冒険者パーティが取り掛かっているらしく、キラたちもネイサンに指示された通りの場所へ早速赴くこととなった。


 そこが……。

「ここ……かあ」

「こ、この門みたいなとこかよ……」

「想像以上」

「期間は一週間でしたか。作業内容で賃金が発生するので、流石にこの全てを崩す必要はないとは思いますが……」


 〝行政街〟の門のようにして積み上がった瓦礫の山二つ。目の前に立ち塞がるのを見上げて初めて、その異質感を体感することができた。

 積み上がっているのは土塊などではなく、ただの石や木でもない。

 木製あるいは石造りあるいは煉瓦造りの建物の一部が積み重なっているのだ。地面の塊もところどころにみえ、馬たちが怯えるのも無理がないほど微妙なバランスで成り立っていた。

 瓦礫の山の麓は細かなものばかり。上からの圧力に耐えられなかったのか、木片や石塊ばかりが積み重なっていた。


「どうする……?」

「私が魔法を使えるのを見抜いての配置でしょうから、そのようにしましょう。ただし、この全てを支えることなど〝元帥〟でもない限り不可能ですので、まずは誰も近づかないように封鎖をしなければ」

「お。んじゃあ、俺がひとっ走りして、ネイサンさんに縄とか杭とかもらってくる」

 勢いよく走っていくセドリックを横目に、キラは近くに停めていた馬車のほうへ寄った。剣帯ごと〝センゴの刀〟を外して、荷台に置いておく。


「帝都の時は寒かったからまだ良かったけど……。この暑さで動くとなると、だいぶ消耗するぞ……」

〈水はまだたっぷりあるけど、四人分だし、みんな年頃だし……。多めに用意しておいた方がいいかも。馬車を用意しておいたのはナイス判断だったね〉

 頭の中で響くアドバイスをもとに、ドミニクに声をかける。セドリックの小さな相方は、はたとしてすぐさま街の方へ向かった。

 残ったリーウとともに、瓦礫の山を前に腕を組む。


「とりあえず、僕らで試しに片付けてみようか」

「ですね。分別したものは、ここより東の方に〝リサイクル広場〟があるとのことでしたが……」

「まあ、持っていく前に、まずここでざっと分けた方がいい気がする。ただ、一輪車は借りれたけど……絶対荷車とかの方がいいよね。ゴルゴルとスペスペも連れてきたし」

「しかし、この子達の体力も考えねば。道中頑張ってくれたのですから」

「ああ……。こんなことならユニィ連れてくれば良かった。あの不思議生物ほど適任はいないでしょ」

 ぼやいたところで何かが起こるわけもなく、キラは気合いを入れ直してリーウと共に作業に入った。




 ネイサンが運営する〝スミス商店〟に到着したのが昼過ぎごろ。

 ここから周辺の安全確保や水分補充の確保、〝リサイクル広場〟への運搬ルートの確認など、必要な下準備に一時間。そこからようやく、瓦礫の山の一つを崩しにかかった。


 リーウとドミニクが魔法で警戒しているうちに、キラとセドリックは麓の瓦礫を運んでいく。

 突き出た角材を引き抜いては、ガラガラと滑り落ちてくる壁の一部に避難し。ドミニクが対処してくれている間に、再び角材に手をかけ一気に引き抜く。

 すると今度は人間サイズの地面の塊が転がり落ち、これをリーウが見事に粉々に砕く。

 そうやってぎゃあぎゃあと叫びながら作業をしていくのだが、これが楽しいだけで非常に効率が悪いのだと気付いたのは、三回ほど休憩を挟んでから。


 結局のところ、誰かが頂上にまで登って崩した方が早い。

 だが、ただ上へ登って、瓦礫を下に放り投げればいいというわけではない。

 山が崩れる危険がある上、そもそも投げられるほど小さなものはほぼないといっていい。

 一応、キラが〝雷の神〟を使うという策はあるものの、リサイクル価値があるもの全てを消し炭にするのは避けたかった。


 そこでリーウが、〝毛糸の魔法〟の応用を編み出した。

 山の頂上にまで届くロープを用意し、一人が頂上まで登る。大きな瓦礫を見つけて、飛び出たところなり穴が空いたところなりを見つけて、ロープを結びつける。

 そして〝毛糸の魔法〟の要領で、瓦礫を釣るのである。まるで獲物に噛み付く蛇の如く、ぐぐ、と持ち上げて下まで慎重に運ぶ。


 問題は、誰が上に登り、誰が魔法を使うか。

 というのも、その時点で早くもリーウがダウン寸前。旅慣れをしていないこともあって、やはりというか、王国の気温と労働の消耗に耐えきれなかった。

 ただ、『では次に誰が魔法を使えるか?』を考えれば、役割を決めるのにさして苦労はしなかった。

 キラが頂上にまで登り、ドミニクが〝毛糸の魔法〟を使う……のだが、渋ったのはセドリックだった。リーウの提案で、彼もまた瓦礫運びに挑戦しなければならないためである。

 いきなりのぶっつけ本番に危険だのなんだのと拒否反応を示していたが、最後は折れる羽目になった。

 どんな世界でも、恋人にうるうると見つめられては頑とした態度は取れない。


 と、いうわけで……効率は爆下がり。

 キラはなんの問題もなく山の頂上に登れた。頭の中でエルトにここが危険だのあそこはやばいだの注意を受けながら、ひょいひょいと瓦礫に手をかけ登っていく。


 問題は魔法使い二人。

 ドミニクは数回もすればコツを掴んだ。が、頂上でヒトがいるとわかっているからか、これ以上ないほどに慎重になってしまった。

 セドリックはセドリックで、まず〝毛糸の魔法〟が使えない。

 瓦礫運びには、ロープそのものを蛇のように操り、その先端を頂上に届けるという工程が前提となるが……二メートルもしないうちにへたってしまう。それでも本人的にはかなりの進歩だったらしく、失敗するたびに喜んでいた。


 そうしてすっかりと日が暮れ、作業を終えてネイサンに紹介された宿に戻る――というわけにはいかなかった。

 セドリックもドミニクも、一時間ほど休憩すればそれまで地面にへたり込んでいたのも忘れて、訓練に乗り出したのである。

 キラとしてはベッドに潜り込んでぐうすか寝たかったのだが、リーウも回復してやる気を出したことで、無視するわけにもいかず……。どっぷりと暗くなるまで、模擬戦に付き合うこととなった。


 そうして迎えた二日目。

 ここから、少しずつとある事件に巻き込まれることになる。


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