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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
6と2分の1章

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585.3-3「原理」

「〝食の王国〟とは聞いていましたが、まさかこれほどの量をポンと渡されるとは……。正直、かなり衝撃を受けました。ショックと言い換えてもいいかもしれません」

「まあ……。だろうね。だけど、帝国もじきにそうなるよ」

「ですね。ただ、気になっていたのですが、王国にも〝保存の魔法〟があるのでしょうか? 船の上ではそれらしい魔法は見受けられませんでしたが……」

「〝保存の魔法〟……? あ、ロジャーが言ってた〝作り置きの魔法〟?」

「はい。厳密には少しずつ用途が違うのですが……。総じて〝時間停止の魔法〟となりますね」


 リーウが続けようとしたところ、ドミニクが食いついた。が、ミカンを口いっぱいに詰め込んだせいで、まるでリスのようにもごもごと喋れないでいる。

 ただ、長年苦楽を共にした恋人たちは考えていることも通じ合っているのか、ドミニクの代わりにというようにセドリックがびっくりした。


「時間停止って、そんな魔法ありっすか?」

「その様子では王国にはないようですね。時間停止とはいいましたが、物体の周りの魔素に干渉して、空気の接触を遮断しているだけです」

 魔法には疎いらしいセドリックはもちろん、ドミニクも何を言っているのか理解できなかったらしい。

 だがキラは、リーウの言った意味をきちんと把握できていた。


「食べ物の周りに真空状態を作るってことだよね。空気を遮断して、新鮮な状態を保つ……ああ、だから、〝保存〟とか〝作り置き〟とか使い方が違うのか。腐らないようにするのと、温かい状態を保ちたいのとでは、全く違うから」

「よく分かりましたね。その通りです」

「でも……。人に向けたらめちゃくちゃ危なくない?」

「空気をなくすと言っても、たかがしれています。そもそも、密閉状態にしなければ意味がないのですから。少し動いただけでも崩れてしまいます」


 そこで、魔法に精通したドミニクも原理を理解したようだった。はたと顔つきが変わり、体を逸らしてリーウを見上げる。

「その魔法、教えて欲しい」

「もちろんです。他にも聞きたいことがあれば何なりと」

「やった……!」


 嬉しそうにする恋人とは対照的に、セドリックはぶうぶうと文句を垂らした。

「いいなあ……。俺、まだ〝毛糸の魔法〟未完成なんだよ……。不器用だし」

「根気と慣れの問題ですよ、セドリックさん。あるいは、考え方の違いかもしれません」

「考え方の……って?」

「セドリックさんは剣士とお見受けしますが……自分を中心として考えすぎているのかと。魔法の全ては〝魔素〟にあります。空気中に漂うそれを、すべての行動における主人公と思わなければなりません」

「ええ……? どういうこと……?」

「剣を振るのは自分、敵を斬るのも自分……その考え方に、魔法も置き換えてしまうといけないのです。魔法――いえ、厳密には魔法という〝自然現象〟が起きるのは、〝魔素〟があるからなのです。魔法使いは、その〝自然〟の流れを汲み取る必要があります」

「ああ、ん〜……。原理はなんとなく分かったっすけど、じゃあ、俺は具体的に何をすればいいんすか?」

「人体に〝魔力〟が宿るのは、呼吸と共に体内に〝魔素〟を取り込んでいるためです――」

 それからもリーウ先生による魔法談義は続き……キラは、いつの間にやら寝入ってしまっていた。




 スペスペとゴルゴルという珍妙な名前を付けられた馬二頭は、もちろんユニィのような体力や胆力はない。ゆったりとした行程とはいえ、荷馬車を引いての移動にはストレスを感じ、それに伴ってどんどんと息が荒くなっていく。

 そういうわけでセドリックは、街道沿いに見つけた木陰に停めて、休憩をすることにしたらしい。キラが眠りから覚めたのは、リーウに肩を揺さぶられてからだった。


「しかし、王国は平和ですね」

 荷台に乗せていた数あるカバンの中には、弁当が詰め込まれたものもあった。おにぎりやサンドウィッチなど、手頃に食べられるものである。

 見事な焼き加減と香ばしいタレの光る焼肉弁当もあり……これは皆でじゃんけんでの争奪戦となった。

 結果として勝者となったリーウがフォークで大切そうに食べ……残りは、そのほかを適当に分けることになった。


「帝国の旅はといえば、寒さと酔いの戦いです。それに、山賊に盗賊。護衛はつきもので、死者が出ることも少なくありません。私も、その危険度の高さゆえになかなか故郷に帰れませんから……」

「ああ〜……。確かに、帝国って土地的に起伏が激しいよね。戦争の時に帝都に乗り込んだ時、途中でアレしてダウンしたし」

 キラはサンドウィッチのかけらを頬の片方に入れて、もごもごと話した。

「似たようなことを誰かが……。ああ、確か〝黒影〟の二人。襲撃もほぼないし、気を張らなくて済むみたいなこと言ってた。……まあ、その二人、僕を殺そうと画策してたわけだけど」

「笑えないオチなのはあとで問い詰めるとして……。やはり、王国での旅はその言葉通り平和そのものなのですね」


「竜ノ騎士団のおかげかも。〝転移の魔法〟のおかげで流通が滞ることはないし、行商人が極端に少ないから襲撃も起きないし。だから、山賊とか盗賊とかも旨みがないからほぼいない。いい感じに循環してると思う」

「帝国でもぜひ〝転移〟を取り入れて欲しいものですが……」

「王国が主導権を握っていいなら、これからどんどん良くなっていくと思うよ。きっと一つのミスも起こらないように万全を期すだろうし。失敗したらホント笑えないから」

「……身をもって体験したとでも言いたげな口ぶりですね」

「ン、当たり。第一師団支部の〝転移〟を使わせてもらおうとしたんだけどさ。帝国との戦争中だったもんで、邪魔されちゃったんだよ。みんなバラバラになっちゃって……僕なんか、全身ズタズタ」

「笑いながらいうことではありません。しかも、食事中に」


 ぴしゃりといいつけられて、キラはうっと口をつぐんだ。

 ちらりとみると、セドリックとドミニクが同じ体勢で食事を中断している。

 右手に握り飯を持っているところやら、三角の先端が少し齧られているところやら、唇についたご飯粒の位置まで……恐ろしいぐらいにシンクロしていた。


「あー……。ごめんね?」

「いや、それは別にいいんだけどよ……。もしかして、初めて会った時のあのズタボロ具合って、その〝転移〟の失敗だったのかよ?」

「まあ、そうだったかな。ドラゴンにやられたところも割とあったと思うけど……」


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