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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
6と2分の1章

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603/956

582.2-23「〝黒幕〟」

   ◯   ◯   ◯


 その部屋には何もなかった。

 熱心な修道士の部屋らしいといえばらしいが、それにしても異常である。家具もなければベッドもなく、ヒトが住んでいるという証拠がどこにもない。


 あるのは、部屋の窓際に置かれた聖像のみ。

 夜の月明かりが当たるように配置されたそれは、真っ暗闇の部屋の中、神々しく輝いていた。

 聖像の前には、片膝をついてかしこまる女性。捧げ物でもするかのように、するる、と分厚い本を滑らせる。


「報告いたします」

 女は、首を垂れたまま、静かに言った。

 静かな部屋で、凛とした声が鈴のように跳ねる。

 彼女に応える者はいないはずだった。その場には、耳の尖った女一人しかいないのだから。

 だが。


「ウム……。聞こう」

 まっさらな修道士の部屋に、別の声が静かに響いた。

 若い女性の声だったが、耳の尖った女が一人芝居をしたのではない。

 女の前にたたずむ聖像が、声を発したのである。


「この王都に蔓延る〝根〟を発見いたしました」

「フム……。して」

「しかしながら、その影響力はまだ広がっておらず……。竜ノ騎士団の下級騎士ならびに見習い騎士数名、ほか一般市民二名に対して危害が加えられたのみ。死傷者はなし」

「他は」

「旧エマール領リモンにて、繋がりがございます。こちらは状況を確認してから日が経っており、現在は広がっているものと思われます」

「……放置。手出しはせぬこと。よいの?」

「は」


 いつもならば、そこで会話は終わり。

 耳の尖った女にも、こののちにすぐに動かねばならない案件がある。想定外の事態に対処していたため、時間に余裕はなかった。

 だがそれでも、女は言葉を続けた。


「〝M〟という単語を、王都内で耳にしました」

「ほう……?」

 耳の尖った女は、聖像の向こう側にいる存在が片眉をぴくりとあげたのを感じ取った。

 勝手に話を始めたことに対する叱責ではなく、懸念すべき話題に対して興味を示したのである。


「〝M〟は、もともと、カイン・ベッテンハイムが考案したオストマルク公国の新たな常識。そのはずが、王都での使用が確認されました」

「……出所は明白じゃろうて。のう、ノア」


 竜ノ騎士団〝ノンブル〟所属、〝十三番目〟。

 通称、トレーズ。本名、ノア。

 一つの通り名と一つの名前が、彼女の全てを表していた。


「先の〝根〟……王都に根づこうとする〝黒幕〟が、〝闇ギルド〟という名ばかりのチンピラ集団を適当に仕立て、金である〝M〟を餌に動かしていました」

「目的は……エグバート王国の軍力低下じゃろうな」

「上手くことを運べば、彼らの指針である〝世界列強〟をもとに、徐々に国力をそぐつもりだったのでしょう。具体的には、リリィ・エルトリア、セレナ・エルトリア、アラン、クロエ・サーベラス、ラザラス・エグバート、ほか師団長や冒険者数名など。〝闇ギルド〟は、下地作りだったのかと」


「直接聞いたか?」

「いえ。とある誘拐犯の頭を覗きました。どうやら一部が先を急いだようで……」

「真っ当な判断じゃ。〝黒幕〟とやらは泳がしておくが吉。わらわの〝分野〟ではないが……〝運命〟がそう告げておる」

「はい」

 ノアは深く頭を下げ、合図が出るまで頑なにその姿勢を崩さなかった。


「して。出立はいつごろになる?」

「レナード・エグバート第一王子の護衛開始は、今宵にございます。もう数十分もすれば、王都を離れなければなりません」

「時間は取れるじゃろうな?」

「私の他に護衛もございますので。造作もなく……」

「良し」


 ノアは慎重に本に手を伸ばし、そっと胸に抱いた。

 だが、片膝をついた姿勢はそのまま。

 聖像をじっと見つめる。


「ノアよ。その命はなんのためにある」

 今や合図となった言葉を、ノアはニコリとして紡いだ。

「全ては、我らが〝創造の神〟イヴ様のために。そして――〝救世主〟キラ様のために」

「――征け」


   ◯   ◯   ◯


二週間ほどお休みします。

再開は2024年1月11日。

良いお年を。

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