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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
6と2分の1章

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581.2-22「上位」

「ふん……? やるじゃん。割と追い詰めてたから、対処は楽だったよ」

「けど、俺らは負けたんだ。俺が、仕留めきれなかった……!」

 悔しそうに奥歯をギリギリと鳴らすセドリックに、キラはしばらく黙っていた。

 魔法でなんとか窮地を脱しようとするバーズに、刀の鋒を喉元に突きつける。

 さく、と切っ先を少しばかりめり込ませれば、いかに阿呆でも命の危機を感じたらしい。生物として最低限の危機回避の頭は持ち合わせているようだった。


「あるあるだよ。もっと強かったら、って思うのは」

「……! キラでもそんなことがあんのかよっ?」

「……あれ? それ、なんか……褒めてるのとはまた別のニュアンスがあるね?」

 狙ったわけではなく、どちらかといえば不本意だったが……ずいぶんとマヌケではあったらしい。

 セドリックはそれで少しは気持ちが和らいだようで、小柄な恋人と顔を見合わせクスクスと笑った。

 キラはわざとため息をつき、注目を集めてから続けた。


「こうやって人のことを慰めるのは初めてだし、どう言おうか考えて改めて思ったことなんだけど……。コレを仕留めきれなかったことで、誰かが君を責めたりした?」

「いや……。セレナさんも、他のみんなも……心配してくれた」

「だろうね。当然さ。僕も心配されてばっかり。勝っても負けてもね」

「ああ……。ね」

「弱さを振り返るのは、鍛錬には最適だと思うけど――罪悪感とか責任感を覚えるのは違うと思う。そんなことがまかり通ったら、世の中生きづらいよ。だから、それとこれとは別なんだって、割り切った方がいい。……たぶん」

 適当なことを言ったつもりはないが、最後の最後になって自信がなくなる。


〈言い切りなよ〜〉

 頭の中に棲みつくエルトに咎められ、キラは〝声〟で応える代わりにフンと鼻を鳴らす。ちらりとバーズの方を睨んで、喉元に突きつけていた刀を少し引く。

 バーズの目がきらりと光ったのを見て、キラは容赦無くそのこめかみを峰で打った。弱っていたこともあって、粗野な見た目にも関わらずすぐに昏倒した。

〈あ、八つ当たり。いけないよ?〉

〈エルト、もう黙って〉

 くつくつという笑い声を無視してキラは納刀し……そこで、熱心に見つめてくるセドリックにびくついた。

 エルトとの会話を聞かれたようにも思い、おっかなびっくりに問いかける。


「な、何?」

「なんか……やっぱお前って、〝元帥〟の器なんだな」

「うん……?」

 さすがは恋人というべきか、ドミニクもセドリックと全く同じことを考えていたらしい。ぶんぶんと大きくうなづいている。

「改めて思ったけど、お前、見習いから始めたところで騎士団的には意味ないだろ。教える側だもん、どう考えても。今もそうだしよ」

「ええ……? 教える……?」

「すげぇ嫌な顔するじゃん」

 何が面白いのかは全く理解できなかったが……。

 セレナが到着するまでには、セドリックもドミニクも、そして治療を受けていたコリーも元気になって話すようになっていた。




 夜も活発な王都では、簡単に馬車を捕まえることができた。

 車窓の外で街が流れていくのはもう見慣れたものだが、リーウはそうではない。キラも覚えがあるように、子どものように窓に張り付いていた。

 ガラガラガラッ、と車輪が石畳で跳ねる音も気に入ったようで、先ほどとは打って変わって黙って王都を味わっている。


〈エルトリア邸にスパイ、いると思う?〉

 リーウが流れゆく街並みにのめり込んでいる間に、キラはエルトと話すことにした。

 内容は、もちろん〝闇ギルド〟について。とりわけ、〝闇ギルド〟の手先にエルトリア邸が襲撃を受けたという事実は、キラはもちろんエルトにとっても衝撃的なことだった。


〈ない、気がする。あの屋敷に関わるヒトたちは、みんな誰を怒らせたら一番ヤバいのか、身に染みてるもん。もう一度道を外せば、危ないのは自分の命だけじゃない〉

〈なに……? 随分怖いこと言うね。それに……〝もう一度〟?〉

〈どんなヒトも、十何年、数十年って長い歴史を歩んできたってこと。〝ヒト〟っていう種族にとってその年月はとても長く感じて……間違うこともある。エルトリア家の使用人たちは、みんな〝帝王〟に屈したんだよ〉

〈〝帝王〟……アランさん?〉

〈そ。王都の闇を一手に引き受けて、一掃する狂人だよ。別名〝闇の番人〟〉

〈〝人類最強〟とか……なんか、散々言われてる気がする、あの人〉

〈ま……。おバカだから気にしてないでしょ〉

〈しんらつー〉


 エルト、シリウス、そしてアラン。

 〝不死身の英雄〟と呼ばれた老人ランディによれば、三人は彼の弟子だったと言う。幼馴染という関係性でもあるのだろう。

 中でもアランは、〝竜のくるぶし亭〟女将ジャネットによれば、〝悪童〟だったらしい。

 冒険者ギルドの界隈にふらりと立ち寄ることも考えれば、あの近辺の出身なのかもしれない。

 あえて深く突っ込んで聞くことはなかったが……色々と察するものはあった。


〈まあでも、普通に考えて〝元帥〟の巣窟みたいな場所にいるんだから、そりゃエルトリア邸に関わる人間は裏切れないか。リリィにセレナにアランさん……この三人同時に相手できる人間って、いるのかな?〉

〈ね。そう考えたらありえないでしょ?〉

〈うん、ゼロパー。だから、まあ……〝闇ギルド〟に関わりのある人間が、セドリックとドミニクの動向をたまたまキャッチした、ってことか〉

〈だと思う。問題はドミニクちゃんが攫われたって点だよ〉

〈それは……アダムズさんが守りきれなかった、っていう話じゃなくって?〉

〈まあ……ちょっと頑張って欲しい気持ちもあるのは事実だけど。ただ、アダムズ自身も『三億』で狙われたっていうし、あまり責められないかも〉


〈ドミニクが……っていうか、ドミニク〝も〟標的だった、っていうのはなかなか考えないしね。だけど、なんで……?〉

〈バーズ率いる〝闇ギルド〟の上位組織があるって考えるのが普通だよね……。懸賞金の出所もそれで説明がつくし。あとはその上位組織の正体を突き止めるだけでいいんだけど……〉

〈エマール領のリモンで会った、エルフの……ノア。あの人がたまたま現場に居合わせて、ドミニクは無事だった、て話だよね〉


〈で、ドミニクちゃん誘拐犯は自殺。ノアが手にしたのは一通の手紙……暗号化されてまだ解読はできてない、って話だけど。んー……って感じだね〉

〈不自然さは感じる。自殺を手段の一つに入れておく人間が、暗号化されて読めないからって、何か指示を書いてる手紙を持っておくかな……?〉

〈そこだよねー……。あー、意味わかんない! 肝心の『アダムズはともかく、なんでドミニクちゃん誘拐?』ってハテナに関しては一つもヒントないし! 私たちがいない間にどーなってんよ、王都!〉


 エルト自身の体があれば、ガシガシと頭を掻きむしるほどの絶叫だった。無意識に〝覇術〟が発動したのか、キラの手がぴくぴくと動く。

 そんな彼女に対して文句を言うなど、流石にできない。


〈セレナの方もなんかほぼ同じ状況だったみたいだよね。なんだっけ……〝肉市場〟のなんとか加工店が爆発して……?〉

〈ようは〝闇ギルド〟が爆破されたんでしょ。爆発犯がギルドのボスのバーズもろとも証拠を消し去ろうとしたんだろうね。で……その爆発犯も、セレナが捕まえる直前で自殺しちゃった。しかも川に身投げして〉

〈川さらいがどうとか、ドブ水がどうとか……ぶつぶつ文句言ってたね、セレナ。あとで色々話したいことがあるのに……あの調子じゃ、もうちょっと後の方がいいかも〉

〈そりゃ労いが先だよ。私に代わって? なでなでする〉

〈いや……。僕の身体なんだけど。意味がだいぶ変わるんだけど〉

 すると、途端にぶうすかと文句を言い出すエルト。キラはそれを一通り生返事で聞き流して、話の流れを強引に戻した。


〈爆発犯の方も手紙を持ってたってね。こっちは水で濡れてもう読めないらしいけど……〉

〈これもまた怪しいよねー……。爆発犯と誘拐犯が仲間で、上位組織の手先ってことはほぼ確定的なんだろうけど……。手紙持ってる意味と意図が……くそ〉

〈エルト、汚い。気持ちはわかるけど、汚い〉

〈だって……! 私たちを誘導する気満々じゃん。そのくせ、暗号化するし、川に流すし。ほんと、何がしたいんだか……〉

〈いやあ、ホント……。簡単に死ぬ〉


 キラは納得のできない気持ちをため息に変え……そこでハッとした。隣にはリーウがいるのだ。

 だが、彼女ももう限界に達していたらしい。海に揺れての長旅に、初めての〝転移〟。帝都とはまるで違う王都の気候、そして疲れを押してのはしゃぎっぷり。

 コリーの治療を見事成し遂げたのが不思議なくらいの濃密な一日になったのだ。こてん、と肩に寄りかかって気絶するように寝入るのは当然のことだった。


〈ま……。とりあえず休もう〉

〈だねー……。ねむーい……〉

 ふわあ、と二人一緒になってあくびをする。

 揺れる馬車の中、少しの間だけ眠りについた。


   ◯   ◯   ◯


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